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せやさかい  作者: 大橋むつお
本編
179/438

179『代理でお見舞い・2』


せやさかい


179『代理でお見舞い・2』さくら   




 専念寺のゴエンサンとは五十分も話してしもた。



 病人さんのお見舞いとしては喋り過ぎやと思う。


 ゴエンサンは、たった今まで口喧嘩してた孫娘(たしか鸞ちゃん)のことは一言も喋らんと、お祖父ちゃんとの昔話やらお寺の面白いお話やらしてくれはって、かえってうちが楽しんでしもた。


 五十分言うのは授業一回分の時間や。


 日ごろ五十分いうのに慣れてるから、五十分で一区切りいう顔をしてたんかもしれへん。


 帰ってからお祖父ちゃんに聞いたら、専念寺さんは学校の先生をやってはったらしくて、それで五十分やったんかもしれへん。


 まあ、無事にお役目を果たせたんで、病室のドアを閉めた時には正直ホッとした。


 廊下をエレベーターの方に歩いて行くと、ナースステーションの前の休憩コーナーに鸞ちゃんが座ってた。


 改めて見ると、どこかのアイドルグル-プのセンター張れそうなくらいのベッピンさん。


 一瞬目が合う。


 ペコリと頭を下げるんやけど、返ってきたのは敵意剥き出しの目ぇ。


 ベッピンさんやさかいに睨んでくる目ぇが、よけいにキツイ。


 頭の中でフラッシュバック。小さいころにお母さんにこんな目ぇで睨まれた。


 そうや、鸞ちゃんの怖い顔は、あの時のお母さんにソックリや。


 なんか見てはいけないものを見てしもた感じ。


 そんな顔せんでもええやんか! と、思う。


 反発した心もいっしょや。


 エレベーターで降りながらも鸞ちゃんの目ぇが離れへん。



 気分転換せんと家につくまで引きずりそう……待合の自販機でコーンポタージュを買ってベンチで休む。



 診察の順番の掲示板が八人分進んだところで飲み終えて「よし!」と気合を入れて外に出る。


 うちは、用事を済ませただけや。あの子に睨まれる筋合いは無いっちゅーねん!


 思たら空き缶持ったままなんで、その場から投げると、見事にストライクでゴミ箱に収まる。


 よし!


 気を取り直して、病院の敷地を出る。


 病院を出てちょっと行ったところに、さっきお見舞いの花を買った花屋さん。


 その店先に鸞ちゃんの後姿が、棚の花瓶を指さしてる。


 あ、そうや。病室には花瓶が無かった(-_-;)。


 うちが持ってきた花を活けるために、お爺さんが言うたんか花瓶を買うことになったんや。


 ちょっと申し訳ない気持ちになる。


 お祖父ちゃんは「花瓶が無いようなら、ナースセンターで借りたらええさかい」と言うてたのを忘れてたあ。


 

 もう、さっさと行こ!


 向けた目の先にネコ。


 道路を渡ろとして、キョロキョロしてるとこに睨まれて、ネコは固まってしまう。


 後ろに子ネコが付いてる、おそらく親子や。


 子ネコが居てるさかいに、普段よりも慎重に道路事情を見極めてるんや。


 邪魔したらあかん(^_^;)、サッと目をそらして歩き出す。



 ドン



 鈍い音がして、わたしの横をバイクが走り去っていく。


 ハッとして振り返ると、たった今目ぇが合うたネコが、捩じれてアスファルトの路面に叩きつけられてる!


 道の端っこでは、子ネコが目をいっぱいに見開いてガタガタ震えてる。


 花屋さんやら通行人の人らが――ショック!――という顔で口を押えたり立ち止まったり。


 え、え? うちのせい?


 うちは、二三歩後ずさりして、速足で、その場を離れてしもた……。 


 

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