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せやさかい  作者: 大橋むつお
本編
172/438

172『ソフィアが立ち止まる』


せやさかい


172『ソフィアが立ち止まる』頼子    





 これは何ですかです?



 ソフィアが立ち止まった。


 もう何回目か分からない。日ごろはわたしのガードの任務に気をとられて周囲の事は『テロリストが隠れるのならどこだろう?』とかいう意識でしか風景を観ていないソフィアなんだけど、散策部という部活動だという意識が強くなってくると、来日半年のソフィアの好奇心が大きくなってくる。


 三日前は『町内会会長』とか『婦人部長』とかのアクリルの札が吊るしてあるのに気を留めた。


「ああ、自治会の役員をやっている家のしるしだよ」


「自治会?」


 欧米で自治会とか自治組織と言えばオランダのように国家を作ってしまったり独立運動の主役になることもあって、ソフィアには興味深いのだ。


 レンブラントの『夜警』って絵を知っているだろうか。


 自分の街は自分で守るというオランダ伝統の独立心の表現で。人を雇ったり、自分たちで武器を持ってでも守り抜いて、必要とあれば自分たちで王様を擁立したりする。そのオランダのおじさんたちが武器を持って夜警をやってる絵。

 数十人のおじさんたちが描かれてるんだけど、出資金によって人物の大きさやポジションが違う。


 ヨーロッパの自治の意識がよく現れていて、ソフィアもそういう感覚や意識があるので、興味の持ち方が違うのよ。


 表札を見ては日本人の苗字の多さにもびっくり。


 その驚きにいちいち説明して、いや、説明しきれないんだけどね。


「これは何ですか、です?」


「うん?」


 それは郵便受けや表札の脇に書かれている記号だ。記号と数字の組み合わせで、暗証番号や電化製品のシリアルに似ている。


「なんだろうね?」


 簡単なものは引き算の数式のようだ。10-3 8-5 7-19


 ソフィアは、その数式を指でなぞる。


「これは…………泥棒の記号です!」


「え!?」


「警察に連絡した方がいい……です!」


 ソフィアの目は本気で、すぐにスマホを出して電話をし始めた。


 番号タッチが三回ではなかったので110番ではない、なにより電話の向こうと話すこともなく切ってしまうし。


「どこに連絡したの?」


「警察です」


 しばらくすると、本当にパトカーがやってきた。


 こういう場合、わたしは正面に出てはいけないことになっているので一歩下がって見ている。


 ソフィアも緊張しているんだろう、口癖の『です』を連発してお巡りさんに説明。


 お巡りさんは、近所の家々もチェックして、在宅の家とは直接話をして確信を得たようだ。


「やっぱり、泥棒のマーキングのようです。数字は、家の住人が不在になる時間を書いたもののようです」


「そうなの!? 中には複雑なのもあるけど」


「それは、より具体的に侵入経路や方法を示す記号のようです」


「つまり、もう泥棒する気満々のターゲット!?」


「です!」


「よく分かったわね(^_^;)」


 さすがは王室のガードだと感心、同い年の女の子だとは思えない。


「内容とか意味ではなく、書かれたものから感じる悪意です、邪心で書かれたものには邪な気を感じます、です」


「そ、そうなんだ」



 現場はお巡りさんに任せて、わたしたちは先を急ぐ。



「あれ?」


 次にソフィアが立ち止まったのはお地蔵さんの前だった。


 


 


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