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せやさかい  作者: 大橋むつお
本編
170/438

170『散策部の部活動』


せやさかい


170『散策部の部活動』頼子    






 散策部の活動は週に二三回。



 一回は看板通りの散策。先月の末から四回散策した。月に四回だから、ちょっと少ない。


 ほんとうは、もっと出歩きたかったんだけど、校外に出る時はソフィアが同行しなければならない。


 ヤマセンブルグの王位継承者だから校外での単独行動は控えなければならない。ソフィアはすでに剣道部に入部しているので、彼女の部活が無い日でなければ出られないのだ。


「剣道部は辞めます」


 散策部を始めたことを知った時は、あっさりこういうことを言うんだけども、ソフィアの部活を辞めさせるのは不本意だ。


 でも、やってみて分かった。


 散策中に撮った写真やメモを整理したり調べたり、それをブログに上げたりするのは結構な作業量で、結果的には週一二度の散策が適量なことが分かった。


 あ、それと、顧問には院長先生自らがやってくださっている。


 週に一度はブログの原稿を見てもらいに院長室を訪れる。そういうことを入れると、やっぱり週に一二度。


 

 今日は五回目の散策。


 まだまだ最初だから、学校のほんの周辺。


 

「日本の街は、どこもきれいデス」


「そうね」


 日本生まれ日本育ちのわたしには当たり前なんだけど、この春に来日したばかりのソフィアは、あちこちで感動してくれる。


「ほら!」


 ソフィアが立ち止まる。


「こっちデス!」


 ソフィアのあとを付いていくと、清掃局のパッカー車がバックしてくるところだ。


―― バックします バックします バックします ――


「かわいいデス! さいしょ思いました、女の人が乗ってるんだと。録音したのを流しているだけなのを知って、ちょっと残念でしたけど、録音でも、やさしく『バックします』はとてもプリティーデス!」


「ああ、エディンバラにもヤマセンブルグにも無いもんね」


「それに、パッカー車はどれも清潔……デス。ゴミもちゃんと分別して袋に入れるデス」


「うん、日本はゴミをむき出しにしないもんね」


「……これ見てくださいデス」


 手馴れた手つきでスマホを操作して、動画を見せてくれる。


「ニューヨーク?」


「はい、ニューヨークのゴミ収集車デス」


「うわ~」


 ニューヨークはパッカー車ではなくて、ごっついトラック。


 トラックの荷台と運転席の間にリフトみたいなのがあって、道路わきに据えられている背丈ほどのゴミ箱をすくいあげて、荷台の上でひっくり返してガボガボとむき出しのゴミを投下する。これは、ホコリとか舞い散るし、きっとすごい臭いがするに違いない。


「日本のはゴミの回収すら清潔デス……ほら、それに、この音楽デス!」


 収集を終えたパッカー車は発車すると、定番の曲を流しながら次の現場へと移動していく。


「パッカー車が来るのを音楽で知らせる、キュートデス!」


 パッカー車がメロディー付なのも生まれた時からだから、改めて言われると新鮮だ。


「あの音楽はなんていう曲なんでしょう?」


「あ……」


 小さいころから聞いてきたメロディーなんだけど、曲の名前を意識したことは無い。


「うん、あとで調べてみよう」


「はいデス」


「殿下、道の舗装がところどころレッドブラウンになっています、なんでしょうか?」


「え?」


 言われて見てみると、四つ辻や三叉路の交差点が、そこだけレッドブラウンのカラー舗装になっている。


「それに、クロスやTのマークが付いていて不思議デス」


 そう言われれば、舗装道路であればよく見かける……グルッと見回して、見当がつく。


「これって、離れたところからでもジャンクション(四つ辻とか三叉路)だと分かるようになってるんだよ」


「あ、そうか……でも、ジャンクションでも無いところがありますデス」


「え、あ……ほんとだ」


「調べましょう! デス!」


「あ、待ってえ(^_^;)」


 ソフィアといっしょに走り回って見当がついた。


 カラー舗装がされていないのは、曲がっても袋小路になって侵入してもバックで戻らなければならないものだ。


 ガードに付いて来るだけのソフィアは、ちょっと気の毒だと思っていたけど、ちょっと楽しくなってきた散策部デス!



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