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せやさかい  作者: 大橋むつお
本編
135/438

135:『救助した? された?』


せやさかい・135


『救助した? された?』  





「あかんやろ」と「そやろなあ」が重なった。



「あかんやろ」がテイ兄ちゃん、「そやろなあ」がおっちゃん。


 間に座ってるお祖父ちゃんは知らん顔してお茶飲んでる。ことはちゃんとおばちゃんは朝食後の洗い物をやってて、うちは洗濯機の終了を待ってる。


 テイ兄ちゃんとおっちゃんの意見が分かれたのはテレビのニュース。


 石川県の知事さんが『どうか、症状のない方は石川県にお運びください』とアピールしてる。


「こんな時期に旅行なんかいったら、感染のリスクあがりまくりやろ」


「せやけど、観光地はどこも閑古鳥や。温泉旅館なんか、一か月も客が無くなったら潰れるでえ」


「まあ、国が非常事態宣言もよう出さんと煮え切らんからなあ、そら、地方は、自分とこの事情でウロウロするわなあ」


 ズズーッとお茶を飲むお祖父ちゃんと目ぇが合うてしもた。


「さくらの学校は、どないやねん?」


「え、うん。今のとこ例年通り八日に始業式」


 うちも、心の中ではどないやねんやろと思てる。


 大阪は、東京に次いで感染者が多い。もう二百人を超えてるんちゃうんかなあ。


 まあ、毎日びっくりするようなことが起ってるから、まあ、少々の事では驚かへんよ。


 うちの男たちは「しかしなあ」「せやけどなあ」と次々に問題を重ねては議論が収まれへん。


 お祖父ちゃんは「どっこいしょ」と、朝食後二回目のトイレに立つ。


「世間の心配もいいですけど、お花まつりの結論も出してくださいね。もう一週間しかないんだから」


 おばちゃんがプンプンしてリビングに入ってきた。



 せや、四月八日は俗に『お花まつり』いう灌仏会なんや。そんで、うちの誕生日でもある。


 この話題に乗ると、誕生日のお祝いを催促してるみたいやから、ダミアを連れて境内で遊ぼ……と思たら、ダミアがおらへん(^_^;)。


 ダミア~


 ダミアを呼びながら境内へ、たいていは本堂の縁側とかに居るんやけど……姿が見えへん。車のボンネットにも、日当たりのええ山門の脇にも気配が無い。


 ダミア~


「ネコやったら、あそこ……」


 まだ名前憶えてない近所の小学生が、上の方を指さしてる。


「え……え……あ!?」


 ダミアは、山門の桜の木の張り出した枝の上で固まってる。


「上がって、下りてこられへんみたい」


「しゃあないなあ……」


「え、ねえちゃん、登るん?」


「このくらい、軽いもんよ」


 サンダルを脱ぐと、山門の縁に足をかけて、スルスル……とはいけへんけど、桜の木に登った。


 もう七分咲きになってる桜は、濃厚な春の匂いがした。ネコは、人間の何十倍も嗅覚がいい。この匂いに誘われて、ダミアは上がっていったのかもしれへんなあ。


「ダミア~、こっちおいでえ~」


「ニャーー」


 助けに来てくれたんが分かってるみたい……やねんけど、このビビりネコは、うちのとこまでようこうへん。


「しゃ、しゃあないなあ……」


 枝に沿って腹ばいになって腕を伸ばす。


「フニャ~」


「ちょ、ダミア!」


 ダミアは、ピョンとジャンプすると、あたしの背中に乗ってきよった。み、身動きがとれへん!



 ピー ピー ピー



 なんのアラームや? せや、洗濯機や!


 そこで、下を向いてしもた。 めっちゃ高い!


「う、動いたらあかんでえ」


 そろ~っと、枝の上を後ろ向きに戻る。


 ズリ……え?


 べつの枝に引っかかって、ジャージの上が胸のとこまでずり上がってしもた。


 フグッ!


 うろたえた拍子に、重心が崩れて落ちそうになる。反射神経で、隣の枝に足を掛ける。


 地上の小学生に声をかけよう……と思たら、居らへん。


 フググ……!


 やばい、足かけた枝がしなって、あたしは『へ』の字を逆さにした感じになってしもた!


 ジャージが、さらに上下方向にめくれ上がって……もうアカン!


「こっちこっち!」


 そう思たときに声がした。


 さっきの小学生が、近所で電話線工事してた男の人を連れてきた。


「じっとしとりや!」


 男の人は、すぐにアルミのハシゴをかけて、救助の態勢にはいってくれるんやけど、めっちゃハズイ!


 ジャージは、胸元とへその下までズレてしもて、メッチャみっともない(;'∀')。



 とりあえず、無事に助かったとだけ言うときます。


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