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せやさかい  作者: 大橋むつお
本編
124/438

124:『頼子のチョコレート工場』


せやさかい・124


『頼子のチョコレート工場』  





 一昨日の晩、テイ兄ちゃんが面白いものを持って帰ってきた。



「ほら、去年、みんなで行ったスナックのマスターにもろてきたんや!」


 みんなで行ったスナック?


 記憶の中から『みんなで行った』のファイルを検索する。『みんなでやった』のファイルが出てきて、こないだの火事、お祖父ちゃんの指揮のもとに立ち働いて、ご近所のもらい火事を防いだことが浮かんでくる。あと、報恩講やらのお寺の行事とか、年末の御餅つきとかね。お寺いうのは一般の家庭よりも家族ですることが多い。せやけど、スナックは行ってへんで。


「ちゃうちゃう、文芸部のみんなでや。行ったやろ、堺東の『ハンゼイ』!」


「あ、ああ……」


 留美ちゃんの歌唱訓練のために行ったスナックや。


 思い出しながら違和感。なんで文芸部がテイ兄ちゃんの『みんな』になるねん!?


 でも、言うたらテイ兄ちゃん傷つくやろからおくびにも出せへん。テイ兄ちゃんが持ってきたブツが面白いこともあるし。


「人形焼きの型かあ?」


 お祖父ちゃんが覗いてくる。


「人形焼きてえ?」


 うちの頭には、用済みのひな人形が供養されて焼かれるさまが浮かんだ。


「東京の名物や、ほれ」


 お祖父ちゃんは、最近マスターしたタブレットを操作して、東京土産の『人形焼き』を見せてくれる。七福神の形したカステラみたいなもんやと分かる。


「いや、人形焼きとちゃうねん。ちょっと小さいやろ」


 なるほど、夜店の金魚くらいの大きさしかない。


「ああ、知ってる知ってる」


 今度はおっちゃんが割り込んできた。おっちゃんは、ブツを持ち上げるとクンカクンカし始めた。


「うん、匂いも残ってる。これは『阿弥陀さんチョコ』の型や!」


「「阿弥陀さんチョコ!?」」


 うちはことはちゃんといっしょに驚いた。その後ろでおばちゃんと半年ぶりで帰ってきたお母さんが笑ってる(お母さんのことについては、改めて。とても一回で話せることやないからね)。


「うん、バレンタインデーにお寺でもチョコ作ろか言うて。ひところは、お寺限定で流行ったんやけどなあ」


 バレンタインデー言うたらキリスト教の行事やしねえ、お寺さんからチョコもろて喜ぶ男子も、そうそうはおらへんやろし。


「あ、そーいうことかあ(ー_ー)!!」


 詩ちゃんがジト目になった。


「これでチョコを作れってナゾなのね」


「え、あ、いや、そんなつもりはないねんけどな(^_^;)。 ひょっとしたら文芸部のみんなで楽しめるんやないかと。大変やろ、いちいちチョコ買うてたら」


「あーー、語るに落ちたあ」


 ジト目は、完全に軽蔑のまなざしになった。



 テイ兄ちゃんは原料のチョコまで用意してた……もう、確信犯やね。



 しかし、頼子さんも留美ちゃんも大喜び!


「ほんと、先週くらいから考えてたのよ。お兄さんはじめ如来寺のみなさんにはお世話になってるでしょ。なにかしなくっちゃと思って、日は近づいてきちゃうし。これならね、万事解決よ!」


 でもって、昨日から、うちのキッチンは『頼子のチョコレート工場』になった!


 留美ちゃんも面白がってアイデアを出してくれて、吹部の部長になった詩ちゃんも「吹部のみんなに配るの!」と参加する。


 ビターとミルクとスポンジケーキと、なんとウィスキーボンボンまで作ってしまった!


 で、なんと段ボールに二箱も作ってしまった!


「女子中高生のパワーはすごいなあ……!」


 テイ兄ちゃんもビックリ。


「せや、こないしょ!」


 お祖父ちゃんのアイデアで、なんと檀家のお婆ちゃんらにも配ることになる。


「お婆ちゃんらにチョコはきつないか?」


 テイ兄ちゃんは、もともとは自分だけに作って欲しかったみたいで、不足そうに言う。


「じゃ、パンケーキの方をふやしましょう!」


 留美ちゃんが手を挙げる。


 でもって、お婆ちゃんらには抹茶味とかがええやろということで、バレンタインデーを明日に控えて『頼子のチョコレート工場』は大忙しなのでした。


 


 


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