プロローグ
我らが主の復活を夢見て数年、様々な困難を乗り越え、また一つ悲願に近づこうとする者たちがいた。
「召喚の準備は既に整っております。あとは、術者である貴方様の魔力を注ぐのみ。」
「ああ、そうだな。皆ご苦労であった。今宵、我々は先代ですら果たすことの出来なかった悲願にまた一歩近づくのだ。」
薄暗い闇の中から一つの影が静かに近づき、たった今完成した魔法陣の前にその人影は手を伸ばした。
すると、地に描かれた魔法陣は内側から徐々に光を増していく。
『蒼天よ、大地は眠り原初に至らん。』
手に持った魔導書に書かれた呪文を唱えると地面に書かれた魔法陣は瞬く間に禍々しい光を放ち始める。
『無窮の牢獄に眠りし太古の主よ』
『我らが築きしかの大極に至高の叡智を与えたもう』
『異界の使者よ。我が呼び声に応え、その姿を現せ』
禍々しい光が激しく光初め、やがて周囲を覆うほどの光に包まれた。
「さぁ皆の者。祈るのだ!我らの悲願が大いに近づく瞬間を!今このときを持って、我らの時代の始まりその一つとなるのだ!!」
「「我ら創造の光に祝福あれ!!」」
周囲を満たす光が徐々に引き始める。その直後だった。ドゴンッ!!という激しい音と共に天井が崩壊し、そこにいた大半の信者達が瓦礫の下敷きとなった。
「な、何事だ!何が起きたのだ!!」
「司祭様!例の組織が我らの居場所を突き止め襲撃を仕掛けてきました。急いで裏口から脱出を!!」
「ええい!忌々しい奴らめ!!我らの儀式の邪魔をするか!!」
「司祭様!お急ぎを!かの連中は我らが食い止めますゆえ」
「・・・すまぬ。あとは任せたぞ。」
襲撃者の影から一人、他の仲間に指示を出す者の姿があった。その影は隠れ家を見下ろしながら不敵な笑みを浮かべていた。
「司祭様みーっけ。さてと、今度こそ逃がしはしないよ。あー・・・諸君、聴こえてるかな?さっき君達が追い詰めたエリク司祭があらかじめ用意してあった隠し通路から逃げた。各自、手筈道理に始めてくれ。」
「了解。ハハッ!腕が鳴るねぇ 久しぶりにいい仕事が出来そうで何よりだ。」
「ハァ・・・あんまりはしゃいでしくじらないでよね。アンタいつも考えないで行動するから危なっかしいのよ!」
予め調べておいた隠し通路の出口に、指をポキポキと鳴らしながら待ち構えるジョゼフ。そして弓を構えたまま待機しているシルフィアの姿があった。
「大丈夫だって!流石に今度ばかりは慎重にやるつもりだ。今日こそはあの司教様をとっ捕まえて色々吐き出させにゃならねぇからな」
隠し通路の出口で待ち構えていた二人。だが、いくら待っていても、エリク司教が姿を表すことはなかった。
「・・・来ねぇな。」
「もしかして、別の裏口から逃げられたんじゃ。」
「いや、それはねぇだろ。その他の出口は特になかった。あったとしても全部包囲したこの中で隠れて逃げるなんてのは不可能だ。」
「それじゃあなんでエリクは一向に出てこないのよ!」
「もしかしたら、転移魔法とか使って逃げてる可能性もあんのかもな。もしそうならーー。」
ジョゼフの言葉を遮るようにレイスから連絡が入る。
『連絡遅れてごめんね2人とも、エリク司教は確保した。悪いけど君らには周りを警戒しつつアジトに戻る準備をしておいてくれ』
「んだよそれぇ!せっかく今日のために考えてきた新技ぶち込んでやろうかと思ってたのによぉ!」
「アンタ何ろくでもないことしようとしてんのよ。」
『また余計なことするつもりだったね?やれやれ、君より早く捕縛できて何よりだよまったく』
「・・・俺ってそんなに信用ない?」
「今までやらかしてきたことよーく思い出す事ね」
少し落ち込んだ様子のジョゼフを横目で見つつ、言われた通りシルフィアは準備に取り掛かった。
そして、エリク司教を捕らえたレイス達はここで何をしていたのか何を目的に行動していたのかなどの尋問をしているところであったが、エリク司教はその尋問に対し俯いたまま何も答えず目を見開いた状態でブツブツと呟いたままだった。
その様子に痺れを切らした深夜がエリク司教の胸ぐらを勢いよく掴み始めた。
「オイ!いつまでもブツブツ言うとんちゃうぞゴラァ!なんか答えんかい!」
深夜の怒号に反応するようにエリク司教は見開いた目を深夜に向けてケタケタと笑い出した。
「ァハハハ、ハハハハ!アハハハハハハハハハハハ!!!私ハ・・・・・・ナニモシラナイ・・・・・・!!シッテイルノハワレラガ主ノミ」
「チッ!急にイカれだしよって、何を訳の分からんこと言うとんじゃおどれは!」
すると、何かに気付いたエリスは咄嗟に叫ぶ。
「深夜!!エリクから離れろ!!」
「・・・ッ!?」
その直後、エリク司祭の身体は急激に膨れ上がり、限界を超えた身体は凄まじい勢いで爆ぜ、その中からはおびただしいほどの魔素が溢れ出した。
エリスの声を聞いた深夜は、爆発の直前に身を躱していたおかげで軽傷で済んだ。
「深夜!生きてるか!?生きてるな!?生きてるなら手を挙げろ」
「心配せんでも、ここにおるわ。」
崩れた瓦礫の中、頭から血を流しながら深夜は小さく舌打ちをした。
「別に心配したわけでもないけど・・・まだ動けるかい?」
「ああ、別に大したことあらへん。んな事よりアイツは?死んだんか?」
瓦礫の中にいる深夜を引っ張り上げた後、深夜の質問に対して静かに首を横に振る。
「いや、ここもハズレくじだ。まさか、僕らがここに来ること自体予測して事前に準備していたなんてね。もしかしたら本拠地に留まっている本体は動いてすらいないだろうね」
「完全に嵌められたちゅうことか。舐め腐りよってクソがッ!!」
壁を殴り怒りを顕にする深夜に対して、レイスは無線機を取り出し冷静に次の指示を出す。
「こちらレイス。僕らが追い詰めた司教は残念ながら偽物だった。もうここには魔素以外の痕跡は何も残っていない。みな直ちにアジトへ戻るように。」
無線越しから若干不満めいた声が聴こえてきたものの皆それぞれ撤収する準備に取り掛かった。
その途中、レイスが振り返った足下に奇妙な魔法陣が描かれていた。おそらく何らかの儀式が終わったあとなのだろう。その魔法陣は既に消えた後だった。
「やれやれ、まだまだ手こずらせてくれるなぁ。あのクソ神父」
嫌な予感がしながらも、レイス達は早々にアジトへ戻って行った。