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いよいよ舞踏会の日がやってきました。厨房はいつもと比べものにならないほど大忙しです。いたるところでおいしそうな湯気が立ち上り、食欲をそそる匂いに満ちていました。お姉さんたちはわくわくしながらその様子をのぞき見、鼻をひくひくさせていました。料理が運ばれ始め、厨房に人がいなくなったら灰かぶりの仕事が始まります。舞踏会のごちそうのおこぼれを、お姉さんたちのためにとってこなければならないのです。
夕方になりますと、お城には次々と馬車が到着しました。馬車からはきらきらしたドレスを身にまとった娘さんたちが降りてきました。王子はその様子をため息をつきながら眺めていました。やがて、お城中に高らかなラッパの音色が鳴り響き、花火があがりました。舞踏会の始まりです。
あらかた仕事を終えた灰かぶりは、いつもの噴水に来ました。そして、夜空に咲く花火を見てため息をつきました。
「舞踏会がはじまってしまった。今夜王子様は、お相手を見つけてご結婚なさってしまうのね。そうしたら私なんて見向きもされなくなるわ」
灰かぶりはつぶやきました。
「舞踏会に行きたいのね」
灰かぶりのつぶやきに、どこからかの声がこたえました。灰かぶりはきょろきょろとあたりを見ました。
「ここよ、私。いつもあなたたちを見守っていたのよ」
灰かぶりの目の前に、噴水から出てきた水の妖精が立っていました。
「あなたの願い、叶えてあげましょう。舞踏会にいってらっしゃい」
妖精が灰かぶりに魔法をかけると、灰かぶりは瞬く間に、それは美しい人間の娘になっていました。誰にも負けない、素敵なドレスとガラスの靴もプレゼントしてもらいました。
「あぁ、妖精さん。本当に、本当にありがとう。私、人間になれたんだわ!」
灰かぶりはあまりのうれしさにダンスのステップを踏みました。
「いいえ、これは夢よ。灰かぶり」
妖精は言いました。
「真夜中の十二時になったら、魔法はとけてしまいます。気をつけて。十二時の鐘が鳴り終わったら、あなたはもとのねずみに戻ってしまいます。一夜限りだけれど、楽しんでいらっしゃい」
「わかりました、妖精さん。気をつけますわ」