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脚本「ジジイとボイン」

作者: 夏目歩知

   登場人物


荒木猛(70)グラビアカメラマン

鷺沼彩(30)保険金詐欺師

おばさん(50)

温泉宿の主人(60)


○ファミリーレストラン(夜)


   荒木猛(70)とおばさん(50)が向かい合って座っている。


   荒木はサングラス。おばさんはホステス風。


   隣の席に、鷺沼彩(30)が座っている。


荒木「群馬の山奥に、いい温泉があるんだって。どう、一緒にいかない?」


おばさん「ダメよ~」


荒木「ねー、いこうよー」


おばさん「ダメよ~」


   荒木は、ズズズと音を立ててコーヒーをすする。


   おばさんは腕時計を見て、


おばさん「あらやだ、もうこんな時間。帰らなくちゃ。またね、荒木ちゃん」


荒木「えー、もう帰っちゃうのー?もうちょっといてよー」


おばさん「ダメよ~」


   おばさん、手を振り、歩き出す。


荒木「ちえっ」


   荒木、ホウレンソウのソテーをむしゃむしゃ食べる。


   それをじっと見ている彩。


   彩はグレーのスーツを着ている。


   彩の手元には生命保険の申込書。


   彩が立ち上がり、荒木の席に近づく。


彩「あの、失礼ですが、カメラマンの荒木さん、ですよね?」


  荒木は手を止め、彩を見る。  


  荒木はサングラスをずらし、彩の胸を見る。胸の谷間が少し見えている。


   荒木はニヤリとし、


荒木「そうだけど、なに?」


彩「サインください!」


荒木「サイン?いいよ。どこに?」


彩「実は、私、保険の営業をしてまして……」


   荒木は顔の前で手をふり、


荒木「そういうことならダメダメ、他をあたってくんな」


   荒木は再びホウレンソウを食べ始める。


   彩が荒木の向いの席に座る。


彩「ここだけの話。荒木さんだけにご紹介できる商品があるんです」


   荒木は無視してホウレンソウを食べている。


彩「なんて、無理ですよね。ごめんなさい」


   荒木はペーパーで口を拭きながら、


荒木「温泉いってくれるなら、入ってもいいよ」


彩「ほんとですかー?」


荒木「わかってるよね、俺の仕事。アンタ撮るよ」


彩「光栄です!」


   荒木が右手を差し出す。


   彩がちょっとためらってから、握手をする。


○荒木家・外観(夜)


   豪邸である。


○同・玄関・中(夜)


   彩は靴を履いたまま座っている。


   荒木が保険の申込書にハンコを押す。


   「受取人」の欄に鷺沼彩の名前。


荒木「なんかこれ、へんじゃない?金の受取人がアンタになってるけど?」


彩「大丈夫です。間違いありません」


荒木「そうお?」


   荒木はサングラスをずらし、彩を見る。


   胸の谷間が見えている。


彩「今日はこれで失礼します。では、後日、温泉で」


   彩はニヤリとする。


荒木「あれっ、かえっちゃうの?あがってってよー」


   彩は笑顔でドアを開けて出ていく。


   荒木は禿げ頭をかいている。


○温泉宿(夜)


   山奥の古い温泉宿である。


○客室(夜)


   荒木と彩がちゃぶ台を挟んで座っている。


荒木「混浴だから一緒に入れるね」


彩「先に入っててください。後から行きます」


荒木「そう?絶対きてよ、待ってるから」


彩「必ず行きます」


   荒木はタオルを持って、部屋を出ていく。


   彩は、全身黒い服、黒いマスクをつける。手には金属バットを持っている。


○浴場(夜)


   荒木が一人で温泉に浸かっている。


荒木「おそいなあ」


   荒木、洗い場で桶にお湯をためる。


   と、彩がそっと入ってくる。


   彩が荒木の頭めがけて金属バットをふる。


   荒木が桶で頭にお湯をかける。


   桶がパカーンと割れる。


荒木「ん?」


   荒木が振り返ると、彩がバットを持って立っている。


荒木「だれだ?」


   荒木は、金属バットを掴む。


   二人、もみあいになり、荒木がバットを奪う。


   彩がシャンプーのボトルを投げる。


   荒木がバットで打ち返す。


   彩がボディーソープのボトルを投げる。


   荒木がバットで打ち返す。


   彩が後ろを向いて逃げようとする。


荒木「まてい!」


   荒木が彩のマスクを取る。彩の顔と髪の毛が現れる。


荒木「ねえちゃん!なんで?」


   彩が振り返り、荒木の股間をキックする。


   荒木、間一髪、桶で股間をかくす。


   彩が荒木の首をしめる。


   荒木、みるみる顔が赤くなっていく。


   と、荒木が彩の胸を両手で鷲掴みする。


彩「キャー」


   彩が荒木の首から手を離す。


   荒木、彩をつきとばす。


   彩はドブンと温泉に頭から突っ込む。


   荒木、ゼエゼエとイキが荒い。


   彩が荒木の足を掴んで温泉に引きづりこむ。


荒木「わー」


   荒木、ドブンと温泉に滑り込む。


   温泉の中でもみあう二人。


荒木「なんで、なんで殺そうと?」


彩「死んでもらわないと困る」


荒木「俺なんか殺してもなんの得にもならないよ」


彩「うるさい!死ね!」


   荒木が温泉から飛び出し、金属バットを手にする。


   荒木、彩の顔の前で金属バットを振り下ろし、彩を羽交い絞めにする。


彩「くそ!」


荒木「ははあ、詐欺か?」


   彩、黙って息をはずませている。


   荒木、爆笑する。


荒木「保険金ならおりないよ」


   彩がえっという顔をする。


彩「うそ?」


荒木「オレは持病があるの。保険には入れないのね。最初からわかってたよ。くくく。


ねえちゃんに騙されてるのもうすうすわかってたし」


   彩が荒木の腕にかみつく。


荒木「いででで」


彩「だましたのね!」


荒木「どっちが?」


   と、宿の主人(60)がかけつけて、


主人「なんか騒がしいけど、大丈夫ですか?」


   荒木は彩を沈めて、彩は顔だけ出す。


荒木「だいじょうぶ、だいじょうぶ。ちょっとはしゃぎすぎてもうた。うしゃしゃ。いい年してからにー」

   

   主人は、荒木と彩の顔を交互に見て、


主人「うらやましいですな~」


   主人はニヤニヤして、


主人「では、ごゆっくり~」


   主人、戻っていく。


   彩はしくしく泣き出す。


荒木「なんだ、泣くくらいなら最初から詐欺なんかすんなよ~」


彩「くやしい」


荒木「ジジイをなめるな」


彩「死ね!」


荒木「頼まれんでも、じき死ぬで」


彩「え?」


荒木「言っただろ。がん。末期の」


彩「……」


荒木「死ぬ前に、若い女ともう一回やりたかったなあ……」


彩「いいよ」


荒木「あ?」


彩「やってやってもいいよ」


荒木「ほんとにい?」


彩「うそ」


   彩が金属バットを振りかざす。


   荒木が温泉に潜る。


   彩が温泉に向かってバットを振り下ろす。バチャバチャと水の音。


   彩がハアハアと肩で息をしている。


   シーンとなる。


   彩の後ろから荒木がザバーと出てきて彩の胸を鷲掴み。


   彩はバットを空振り。


   荒木が彩の服をビリビリと破る。


   彩の豊かな胸があらわになる。


荒木「おおおー画になるなー」


   彩は両手でパッと胸を隠す。


彩「やられた……」


   荒木、カメラで彩のヌードを撮影。



(完)

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