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7話



 出会う人は皆気絶していたので外に出るのは非常に簡単だった。


「無事に脱出できて何より。それじゃ、私と一緒にどこかに隠れてましょう」


「西巻さんは行かないんですか?…いや、それよりも何が起こってるんですかね?」


 警告音が鳴ってからの隊長の行動は極めて迅速だった。まるで、何かを恐れているように。


「ん~、まあ襲撃を受けているって感じかな。私は――」


 その時、耳をつんざくような音が聞こえてきた。声も聞こえてきたような気がする。


「大丈夫かな、皆…」


 西巻さんは心配そうに音が鳴った方を見つめている。憂いを帯びた瞳はあまりにも美しかった。


「心配ないよ、皆は強いんだから。絶対負けないって信じてる」


 僕が見とれているのを、西巻さんも行かなくていいのかと言外に物語っているように感じたらしい。

 しかし、彼女は僕に向かってと言うよりも自分自身に言い聞かせているように思えた。


 正直なところ、西巻さんには行って欲しい。僕なんかいつ死んでもいいし、砦の人々を気絶させたのが西巻さんだというのなら戦闘能力だって高いはず。こんなところで燻っているよりもぜった――


「伏せて!」


 言葉と同時に何かにぶつかられる感覚、視界が動く。地面が迫ってくるのを感じた。目を閉じる。そして衝撃、地面に倒れ込んだのだろう。一瞬の後に顔を誰かの手によって触られた。時を同じくして身体の右側に受けていた圧力が消え去る。


 


 ―――そして、()は、目を、開けた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 頼れる隊長が加わったが、戦況はあまり好転していない。“歪曲”は隊長、――睦月が擬似的に操る重力でさえも曲げてしまうからだ。その気になれば“歪曲”は空を飛べる。

 しかし、フォーティーンは動揺を隠しきれていない。攻めるなら今だ。


「何故、何故、何故!どうしてあなたがここにいるのです!チェシャはどうしたのですか!」


「チェシャ猫には会っていない。少なくとも、向こうからの接触は無かった。何度目だ、この問いは?」


「それがあり得ないと言っているのですわ!チェシャは、確かにあなたの足止めをすると…」


 話してみて、チェシャは同志であり、創り手を強く憎んでいることがありありと感じられたのだ。裏切るなんて彼女らには信じられなかった。


「知らねーよ、お前らの事情なんざ。チェシャは得体の知れない目的のためなら何にでもなる。お前らも騙されたんだろ」


「うるさい!チェシャは約束してくれたのです!きっと何かあったんですわ」


「声が震えてんぞ。自分に言い聞かせても状況は変わらねーよ」


 その時、遠くから大きな音が聞こえてきた。方角が少しずれているが、おそらくエイトか白石がなにかしたのだろう。フォーティーンの意識がそちらに向いた隙に2人は一気呵成に攻め立てる。


 新木は虎の子の“精神切断”を放ち、フォーティーンは咄嗟にそれを“歪曲”する。そうして一瞬の間だけ安堵により彼女が油断した隙に睦月は重力で彼女を遠くに吹き飛ばした。


 うまくいった。その感覚で2人は気付いていなかった。突然現れた()()()()()()()()()があらぬ方向に飛んでいったはずの“精神切断”をまともに受けていたことに。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「かかったな。まずは1人」


 エイトは誰にともなく呟いた。


「落とし穴?いつの間にそんなものを。しかも、かかったのはあのマックスって奴だ。どうして?」


 白石は“索音”で音のした場所の周辺を調べ、情報を得ていた。自分自身が危機的な状況にあるにも関わらずに。


「マックスだぁ?………ああ、あの炎使いの野郎か。教えてくれてありがとよ。じゃあそのお返しに教えてやろう。俺の魔法は“成形”、つまり形を成す魔法だ。今まで散々土をいじくってきたが、飛び出た分の土は補填されねぇ。昔は無くなった分を地中深くに空洞として配置してたんだけどな?チェシャに、だったらその空洞を地上付近に持ってきて罠にしちゃえばいいってね。俺はあの変態と違って綺麗な破壊が好きだから抵抗あったんだけどさぁ、今回は本気でお前らを殺すって決めたからその案に乗ったよ。中には土の槍が盛り沢山だから生きてられるかね?」


 途中から気分が良くなってきたらしく、エイトは罠の構造まで話している。

 エイトはそれを黙って聞いていたわけではない。寧ろ何も聞いていなかった。彼は魔法を使って先程からある2人の動向を追っている。


「おいおい、黙りこくってねぇでなんか反応しろよ。諦めちまったか?」


 もうすぐだ。もうすぐ――


「なんか言えって…言ってんだろ!!」


 怒りに任せてエイトは魔法を発動し、既に右脇腹、左胸を土の尖塔に貫かれて木の幹に縫いとめられている白石の足の甲を木を変形させて地面に向けて貫通させた。

 視界がぶれ、これ以上のダメージは危険であることを如実に語っている。先述の傷だけでなく、後退しながら時間を稼いでいる間にも何度も身体を貫かれているのだ。人間であればもうとっくに死んでいる。


「なぁ、ほんとに死んじゃうよ?いくらあんたと言えど、そろそろ限界だろ。御期待の隊長さんはまだまだ来そうにないし、話しちゃえよ。()()()()()()に帰る方法をさぁ?」


 彼らはもといた場所に頑なに帰ろうとしている。何故なのかは、未だに白石たちはわかっていない。戻ったところで、彼らになんの利益もないはずなのだ。


「仕方がないな……わかった。教えよう」


 そして、彼は重要な事実をエイトに伝える事となる。


「良いねぇ。やっぱりあんたは賢い奴だ」 


「いいか、まず最初に一番大切なことを教える」


 エイトは誰が見てもわかるくらいに顔を期待で彩っている。長年、具体的には120年ばかしの間望み続けた夢なのだから、当然と言えば当然だが。


「さぁ、早く教えてくれよ!何なんだよ、一番大切なことってよ!」


「簡単なことさ。ただ、僕が待ってたのは隊長だけじゃないってだけだ」


「は?」

「俺の出番だな!」


 エイトの体を炎が包み込む。天使には魔法であれば何でも効くがその中でも炎は効果的な部類に入る。

 体が燃え上がることはないが、途切れることのない炎が彼の持つ魔力を着実に奪っていく。


 たまらず、土を隆起させて防壁を作る。


 だが安心も束の間、上から飛来した手榴弾が爆発し、土の壁は奇しくも襲撃者を守ることになった。爆発の範囲内にいたの白石はマックスを連れてきた猪口が救出済みである。


「OK、バッチリです。完璧なタイミングでした」


「そうか、良かった。スポットありがとう、佐々木」


 立川は風魔法で使ったとはいえ、砦の屋上から自身は見えてもいない森の中の戦場の限られた空間に手榴弾をタイミング良く落とすという離れ業を成功させた。佐々木はまだそのレベルまでの精密な魔法を使える人物を他に知らない。



 吹き飛ばされたエイトを追う猪口とマックス。白石さんは限界だったらしく、気絶していたので、慎重に寝かせてきた。猪口は血も出ていないし、風穴が空いているにも関わらず()()が見えない彼を少し気味が悪く感じたのだが、気にしないことにした。頭を空っぽにするのは、彼の得意分野だ。


 しかし、探しても探しても見つからない。方向は合っているはずなのだが。


 あまりにも見つからないので不気味に感じてきた時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「猪口くーーん!どこにいるのーー?」

 

 西巻の声だ。しかし、やけに大きいような気がする。


「ここでーーーぇす!」


 西巻の声に応えたのはなぜかマックスの方だった


「なんでお前が叫ぶんだよ!おれが叫びたかったのに!」


「いいじゃねーかよ、兄弟。ちっちゃい事気にしてると漢になれないぞ?」


「あ、ここにいたんだ。隊長が皆集合だって。どうせだからそこのマックスくんも来なよ」


 無駄話をしている間に猪口達を見つけたようだ。


「え、でも敵はいいんですか?」


 かなり良いところまで追い詰めた感じはしているし、どうせなら決着をつけたい猪口だった。

 

 だが、それを諌めたのは予想だにしない人物だった。


上官(うえ)の命令には従っとくべきだ。騒いでねーでさっさと行こうぜ」


 呆れたように声を発した彼はかなり目付きが悪かった。


 猪口はこの人物を知っている。だが、猪口の知る彼の口調はもっと穏やかだったし、目付きも悪くなかった。双子なのだと言われても今なら信じてしまうくらいには、容姿は似かよっていて、中身がまるで別物だった。


「ん?こいつもお前の仲間か?」


「猪口くん、気持ちはわかるけど今は行こう。皆が集まったら説明してくれるらしいし」


「そう、ですか。わかりました、行きましょう」


「おい、俺は無視かよ!?」


 話についていけないマックス。


「うるせーな、ちょっとくらい黙ってろ、声がでかいんだよ」


 が、一蹴。全く構ってもらえなかった。

 その言動もあまりに猪口の知る彼とはかけ離れていて、その疑念は遂に言葉となって猪口の口から発されたのだった。



「どうしちまったんだよ………信次…」










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