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5話


 木々に紛れて西軍の様子を確認している3人組は、気づかれずに西軍に紛れる機会を狙っていた。


「よし、いこう!」


「まだ早いわ!お前には今度から猿轡噛ますことにしよう。うん、それがいい」


「佐々木の言う通りだよ。仲を深めるのは大変非常にとても大切だから是非とももっとじゃれあって欲しいんだけど、時と場所を考えて…ね?」


 ねっとりと、ゆっくりと、その言葉は発された。



 なぜか背筋がひやりとした2人(主に猪口)は、大人しくしていることにした。


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 所変わって、西巻サイド。


 彼女は頭を悩ませていた。

 というのも、この砦が前に来たときよりも明るくなっているためだ。これでは、彼女の魔法が生かせない。


 まずは電気設備をなんとかしなければ。

 そう考えて、彼女はわずかばかりの影に紛れ、息を潜めてじっと待つ。


 巡回兵でも来たら、その影に移り、さらに内部へ侵入するためである。


 彼女だけが扱える“暗闇同化魔法”は、潜入にはもってこいの性能であった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 


 白石は、先程まで隊員たちが集まっていたスペースで耳を澄ませていた。


 彼の“索音魔法”は聴力を強化するのではなく、可聴範囲をズラす魔法である。故に、離れた場所からの指示出しは彼が行う。

 眼に写るのは周りの景色、しかし聞こえる音は遠くの音。この矛盾した状況は、彼の冷静さが無くては成り立たないだろう。

 

 彼は周囲を眼で警戒しながら、隊員たちの動向、今回は特に隊長と新人のペアに気を配り続けている。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 僕は隊長に連れられ、砦内部に窓から侵入した。


[そこの右に誰かいるみたいだよ。近づいてる、気をつけて]


「わかった。静かにそこに隠れていてくれ、信次」


「わかりました」


 指示を受け、大人しく隠れていることにする。


 無線からの声は白石さんからのものだ。どうやって僕たちと敵の位置を把握してるんだろう。


 隊長は曲がり角で敵兵を待ち受けると、流れるように背後にまわって首を絞めて倒してしまった。


「配電室はどこかわかるか?」


[たぶん…突き当たりかな。結構いい設備みたいだ。音が小さい]


 配電室…?どうやら電気を落として暗くし、身を隠しやすくするみたいだ。


 昏倒している敵兵を誰もいない部屋に押し込んで、僕と隊長は慎重に歩を進める。

 すぐに、突き当たりにたどり着いた。東軍は、西軍に気を取られているようで、巡回兵以外には動き回っている兵はいなかった。


「ここですか、配電室」


「おそらくそうだろう」


「え…でもこれ、入り口ないじゃないですか」


「たぶん、反対側にあるんだろう。この壁を蹴破ってもいいが、ここは西巻に任せよう」


 蹴破るって、この壁…鉄だよね?冗談なんだろうか。でもあんまり嘘って感じもしないような。


「次はどこにいけばいい?」


[隊長たちの方に向かってくる足音は確認できないね。立川たちは標的に接触したとの連絡を受けた。今回は1人だけみたいだね、隊長?]


「俺たちは消耗品を補給したらそっちに一旦戻る」


[了解。じゃあ僕は立川たちの方に集中するね]


「頼んだぞ」


 隊長はそう言って無線を切った。


「無線を切っていいんですか?こっちの状況をすぐに伝えられなくなりますよ?」


「何かあったら向こうから掛けてくれる。ちゃんとこっちも聞いといてくれてるはずだ。あいつの魔法じゃ食料庫や倉庫はわからないから、俺たちで探すぞ」


「僕たちとか敵兵の位置を把握していたのは、やっぱり魔法なんですか?」


「そうだ。詳しく言えば、いろいろあって今は魔導は使えるが魔術は使えないから、魔導だな。その話は後にして、今は物資を探そう。簡単な索敵くらいなら俺でもできる」


「やっぱり隊長も魔法使えるんじゃないですか」


「いや、私は魔法は使えない。これは事実だ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「おらおらぁ!こんなもんかぁ?」


「良いね兄弟(ブラザー)!やっぱ漢なら危険を承知で突撃するもんだ!」


「うわああぁ、なんだこいつら!?」


 暴走する漢(自称)、2人。

 頭を抱える男、1人。


「あいつは何で標的と仲良くなってんだ…?俺たちは西軍に()()してんだよな?」


「まったく、いつの間に兄弟になったんだか。僕はあんな奴とじゃなくて佐々木と馴れ合う姿を見たいんだけどな」


「マックス!次はあっちだ!」


「わかった!おらああぁ!」


「ぎゃあああ!」

「逃げろ!なんなんだよあいつらは!」


 マックスと呼ばれた男が炎を撒き散らし。

 猪口が援護に銃を乱射する。


「いいコンビネーションだ。まるで佐々木と猪口のペアみたいだね」


「俺ってあんな風に見えてたの!?」


 明らかに異質な者がいてもなぜ西軍の誰も気づかないのか。それには理由がある。


 猪口の使う魔法は“認識阻害”。この魔法によって、周囲の人々は「あんな奴いたっけ?いや、いたような気も…する、かな?」といった様に感じるのだ。


 それにしたって、あれは目立ちすぎではあるけれど。


 

 どうやら、今回の標的であるマックスと名乗る男は、“火魔法”の使い手のようだ。佐々木の“水”は相性がいいが、立川の“風”は効果が薄い。戦うことになった場合を考えて、戦法を練っておくべきか?


 佐々木がそう考えていると、電気が消えた。西巻がうまくやったようだ。

 これで、戦うことになる可能性はほぼゼロになり。佐々木は安堵した。だがそれも一時の安らぎ。すぐに、2人に増えた突撃野郎(バカ)に平穏は奪われる。


「暗くなった?ならば、明るくすれば良いだけだ!我が魔法で照らしてやろう!」


「流石だ兄弟(ブラザー)!」


「いや猪口は止めろよ。照らされたら西巻がやりずらくなるだろうが」


 声を大にしても無駄だと悟った佐々木は、せめてもの抵抗に呟いてみた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「君らはいつもタイミングが悪いね。すまないが、出直してもらえないだろうか?」


「面白いことを言うなぁ?こっちは君らのタイミングが悪い時を見計らってるんだから、当然だろうに。しかし…わりと周囲に気を配っているじゃん。流石、完成品は違うねぇ、おに~いちゃん?」


「兄と呼ぶな、薄気味悪い。お前のような男が弟だなんて、容認した覚えはない。それに、何度も言っているが僕も欠陥を抱えている。完璧な物なんて存在しないって、僕は思うよ」


「へえ、それが棄てられた僕に向けた、創造者にまで選ばれたヒトの手向けのメッセージって訳かい」


「用がないなら帰って欲しいんだが?」


「いやぁ、そうもいかねぇんだよなぁ。俺の役目は、兄ちゃん、あんたを殺すことだよ。あの屑野郎の両腕のあんたらいるかいないかで奴の強さは大きく変わる」


「言うようになったじゃないか。ウチの隊長が、屑野郎だって?あの人がどれだけ考えて、悩んできたかが君たちにわかるとでも?」


「知らねぇよ。俺たち兄妹はお前たちに復讐出来ればそれでいい。今日は、アイツの傍に足枷があるから、絶好のチャンスなんだよ!」


「なぜ柏崎のことを知っている?君たちの後ろにいるのは誰なんだ?」


「後ろにはだぁれもいねぇよ。親切な猫さんが教えてくれただけだ」


「チェシャか…。あの女、何が目的だ」


 ……とある空き地での会話。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あらあら?そんなものですか?お得意の“切断”はどうしたのでしょう」


「さっきからしてんじゃねえか!お前もう片腕なくなってんの気づいてんのか?」


「おや、気づきませんでしたわ。教えて下さってどうもありがとう。えーっと、今は新木と名乗っているんでしたっけ?」


「え、お前マジで気づいてなかったの?」


「気づいていたに決まってるでしょうが!腕落とされて気づかないわけありますか!?」


「いや、お前ら()痛覚とか無いし、もしかしたら…とか」


「ないです!…いいこと?将を射んとすればまず馬を射よ、って諺知ってます?」


「今だ!」


「危なっ!なんて卑怯な!」


「惜しかったなー、今の。やっぱり速射うまいな。それはそれとして、俺たちを討ったところでお前らに隊長は無理だと思うけど?」


「あらそうでしょうか?ああ、そういえば、今日はあの頼れる羊飼いは、貧弱な子羊を連れているようですね」


「てめぇ、まさか!」


「まあ、なんて怖い顔でしょう。淑女に向けるものではなくてよ?」



 ……とある空き地(数分前に誕生)での会話。

 


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