4話
隊長の表情は厳しい。
どうやら何かしらの想定外があったみたいだ。
いち早く反応したのは西巻さんと猪口さんだった。
「隊長!どうしたんですか?」
「お、隊長お帰りなさい!突撃の準備はもう万端ですよ。いつでも行けます!」
「もうお前は喋んな…。話が進まないだろ」
すいません、佐々木さんと同じ意見です。
「今、西の軍勢を確認できた。だが、どう考えても少なすぎる」
「てことは、使える奴らが多い可能性大ですね!よし、隊長今すぐ突撃しましょう、今すぐ!」
「なあ、俺はお前に喋んなって言ったよな?思い違いじゃないよな?」
佐々木さん…。
これは、胃薬の用意が必要そうだな。
にしても、何が使えるんだろうか。特殊な兵器とかかな?
「…やっぱり柏崎には現時点で伝えた方がいい。そう思わないかい、隊長?どうせ、後で話すつもりだったんだろう?」
隠すって、なんだろう。«例の奴ら»っていうのと関係があるのだろうか。
「おいおい、まだ早いだろ。もし信次が天才的な演技力で俺たちを騙してたらどうすんだ」
「だ、騙してなんてないですよ!演技は確かに先生は誉めてくれましたけど、皆さんに嘘をついたことはありません!」
思わず声を荒らげてしまった。
比較的仲の良い新木さんに信用されてなかったのが心を揺さぶったのかもしれない。
「…そうだな。俺もこいつが俺たちを騙しているようには思えない。時間もないことだし、どうせ今日話すつもりだったんだ。今話してもいいだろう。話しておいた方が、今日の作戦も楽になる」
ごくり、と唾を飲む。
「柏崎、お前は魔法を信じるか?」
突然そんなことを訊いてきた。
「え?魔法……ですか。信じていると言えば、嘘になりますね」
そんなおとぎ話のような存在は信じろという方が無理な話だ。
魔法が使えれば、あのときに、村の皆を救えたかもしれないんだ。
優しかった両親。
いつも一緒にいた親友の和雄。
村の外れに住んでいた学者先生。
僕の初恋の人である綾子さん。
皆、守れたかも、しれないのに。
「だが、魔法は存在している。この世界には無いものだったが、幾つかの要因でこちらの世界でも使えるようになった」
にわかには信じがたい。魔法っていうのは、何か出来るんだろう。
「たぶん、お前の思ってるのと多少違う。詠唱したりしなかったりして水やら風やら色々あるが、それだけじゃない」
「俺も使えるぞ!」
「だから!お前は!黙っとけって!言っただろ!」
「痛ぇって、佐々木!」
見れば、佐々木さんが猪口さんの頬っぺたを引き伸ばしている。新木さんも口を挟まれて悲しそうだ。
心中、お察しします。
「猪口もそうだがこの部隊の隊員は俺を除いて全員魔法が使えるぞ。今見せるのは難しいが」
「全員って…6人皆ですか?」
「そうだ。だが、俺はお前も使えると思っている」
「僕には使えないですよ…たぶん。さっきまで存在すら知らなかった、と言うか信じてなかったんですし」
「記憶を失った可能性もある。こちらの世界に飛ばされた時にな」
こちらの世界…?
まるで、世界が複数あるみたいな言い方だ。
「お前は12歳にしては賢すぎるんだよ。12歳だぞ?故郷が滅んでんのに、お前は心が壊れるわけでもなく、無理に明るく振る舞おうとしてるようにも見えない。それに、物覚えも早すぎる。樹海の構造を、地図だけ渡されて1,2ヶ月で覚えちまう。もっと言えば、俺たちが何か隠してることを分かってても何も言わないのもおかしい」
新木さんが矢継ぎ早にそう話した。
矢継ぎ早なのは猪口さん対策だろう。
「物覚えが早いとか、起きる時間が早いとかは僕の体質ですよ。それに、隠し事をしているとわかっても、それを訊かないのが大人なんだ、って学者先生に教わったんです」
「その学者先生ってもしかしてお前の故郷の村の外れに住んでいたか?」
隊長がいきなりそう言って尋ねてきた。
「そう…ですけど。何かあるんですか?」
「ああいや、何でもない」
絶対何かあるな、これは。
隊長が言葉を濁すとは珍しい。
「それで、魔法なんだが、大きく分けて、2つの種類がある。<魔導>と<魔術>の2つがな。
<魔導>は基本的に詠唱、あるいは無詠唱で発動して、<魔術>は魔方陣を使う。どちらも使用には魔力が要る」
「ここまで聞いても何も思わないのか?」
「新木さん…。すいません、よく、わかんないです。本当の話なんですね?」
「勿論だ。それで…」
「待った」
遮ったのは白石さんだった。そういえば、さっきから喋っていない。
「そろそろ行かないと間に合わない。魔法が存在するとわかれば取りあえずは良いだろう、隊長?」
「そうだな、行くとしよう。信次、ついてこい」
「…わかりました」
いつの間にか古参三人組以外の皆が居なくなっている。もう行ったのか…気づかなかった。
…緊張してきた。
僕の初戦闘が始ろうとしている。