一回目
長男を妊娠した時は、結婚を決めた一週間後でした。
体調が少し悪くて、微熱のような感じが続いていたので気にはなっていました。
妊娠検査薬を買うのもドキドキして。
成人はもちろんしていたけれど、ドラックストアの店員さんの顔が見れなかったのを覚えています。
そして検査結果を見るのも、非常に、緊張しました。
結婚を決めてはいたけれど、漠然とした不安が襲いました。
もし出来たとして、喜んでくれるだろうか。
出来たとして、私の身体はどうなってしまうのだろう。
部屋の中、一人でしばらくうろうろして、でも、見ない訳にはいかなくて、見た。
薄く線が出ていて、何回も何回も見ました。
お腹から胸に湧き上がって来たのは、
嬉しさ。
やっぱり、嬉しかった。
彼が家に来る事になっていたので、
家に来てから、話しました。
電話とかメールとかでは話せなくて、
どんな顔をするのか見たくて。
喜んでくれると信じてはいたけれど、
不安で。
家に招き入れて、お茶を出して、人心地ついた所で、ちょっと話がある。と切り出しました。
私が正座をし出したので、彼も正座をしました。
大事な話がある時はいつも正座になる私。その癖を知っている彼の顔が、緊張しました。
「大事な話があります」
「うん」
「赤ちゃんが出来ました」
「あ、ああ……」
彼は一瞬、ほうけた顔をして、その後目をぱちぱちさせると、突然、電話をしよう! と立ち上がりました。
「え、どこに?」
「もちろん、あんたさんの実家だよ」
「あー、はい」
そして、おもむろに私の実家に電話をし、赤ちゃんが出来た事を報告して、自分の実家にも電話して、どうやら喜んでくれたみたいです。
彼の心境を今思うと、たぶん、子供が出来た喜びももちろんあったでしょうけれども、とにかく、何かやらねば、と思ったみたいです。
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結婚、妊娠を機に東京を離れ、田舎に戻る事はお互い前々から決めていました。
二人とも田舎の出身なので、子育てはどちらかの田舎でしたかったからです。
それぞれの仕事をたたみ、Uターン就職をして、私は妊娠6ヶ月ぐらいで実家に戻りました。
妊娠中は、身体が改造されていくようでした。
つわり、といって、それまで好きだったコーヒーの匂いを嗅いだだけで吐き気がしたり。
肉をまったく受け付けなくなったり。
そのつわりが無くなると、今度は逆に猛烈にジャンクフードが食べたくなったり。
ただ、私は身長が150センチ未満なので非常に厳しい体重制限が必要でした。
妊娠前の体重から出産まで増えていいのは10キロ未満と制限されました。出来れば8キロ前後が望ましいと言われました。
胎児、胎盤の成長も含めて、一ヶ月に1キロしか増やしてはいけないと。
これが過酷で、2週間に1回の検診の時に、2週間で1キロ増えてしまって、後の2週間を米断ちをしたりとか。肉、ささみにするとか、なんだろう。とにかく毎日体重計に乗ってました。
骨盤が開いているかレントゲンを撮ったり。
これで開いていなければ帝王切開になると言われましたが、なんとか大丈夫でほっとしたり。
その頃になると赤ちゃんも大きくなり、お腹を中からうにょーんと蹴られて、触ると分かるので、旦那さんにも分かってもらえて、おお、と言っていました。
後で聞いたのですが、お腹にいる事は分かるのだけれど、実感としてはイマイチ分からなかったみたいです。
私の方は身体も改造され、お腹も張り出し、中からドコドコやられるので赤ちゃんがいる実感はありありでしたけれどね。
そしていよいよ出産予定日となったのですが、なんの音沙汰もありません。
臨月まではとにかく動くな、と言われ、臨月を過ぎたら動け、と言われ、とにかく言われるがまま、歩いたりしていたのですが、まったく出てくる気配はなし。
そしてとうとう予定日から一週間を過ぎてしまい、点滴で促進剤を入れて陣痛を促す処置をしました。
午前9時に点滴を開始し、午後2時から徐々に陣痛がついたのですが、後に薬を入れずに陣痛を経験した身からすると、急激に痛みが激しくついた感じがしました。
陣痛は、波のようです。
最初はさざ波のように痛みが来ては引いていくのですが、だんだんとその波が大きく、痛みも激しくなっていきます。
私は横になって居られなくて、座っていました。痛みがくると、もう逃げ出したくて身じろぎをしたいからです。
実際は動く事は出来ず、履いているスリッパを上下に擦るだけでした。
その逃げ出したくなる痛みが10分間隔で1時間ぐらいあって、間隔が5分くらいになってようやく分娩準備室で待機。間隔が3分ぐらいでようやく分娩室に行けて、いざ出産、という時には、私は体力を消耗しすぎて、いきむ、という事は出来ませんでした。
深呼吸しながらゆっくりと出産したと思います。意識はありましたが、少し朦朧としていたかと思います。
ただ、生まれたての長男を胸に抱いた時、赤ちゃんは赤いんだ、という事と、赤ちゃんの重みを感じました。
重いのに頼りなくて、目をつむっていて。
その重さを感じた時に、お母さんになったんだと思います。