魁!なろう軍!
なろう暦201X年。日本は突如現れた謎のお化け軍団と謎の化物軍団によって大混乱に陥っていた。
謎の化物軍団の方は物理攻撃が効果覿面なので主に在日米軍や自衛隊、また警察官や暇そうな公務員等の強い人達が戦ってくれてどうにか都市や街の機能を止めずに済んでいた。
一方のお化け軍団は一切の物理攻撃が効かず、専ら精神攻撃のみの対応となり、殲滅の決め手に事欠いていた。攻撃手段に悩む日本政府はとある民間会社と提携し、掛かる民兵集団を組織する。
小説家になろうwith自衛隊。
後に教科書検定で問題となる部分ではあったが、いわゆるなろう隊が組織された。兵種は主力の転移作家兵、女性の割合が多い恋愛作家兵、弾幕の作品数を誇る詩作家兵等々……。小説のジャンル別に分かれており、各兵種は協力し合い、自分の兵種の攻撃の効きが悪いと他の兵種に押し付けながら何とか戦線を維持していた。
しかし――
◇ ◇ ◇ ◇
「転移作家兵の調子が思わしくないな」
統合幕僚長室にてなろう軍幕僚長がサルでも分かるレベルの報告書を読みつつ現状の核心を言い放つ。
「うーん。主力だと思って居たんですが……、ちょっと主流から外れちゃいましたかね?ほら、転移転生禁止コンテストとかもあるじゃないですか」
参謀長が苦々しく答える。
「何か打開策はないか?このままだと謎のお化け軍団に日本は占領されてしまうぞ」
「うーん、絶対的に文章の書ける作者の数が減ってきているんですよね……。みんなエタってるみたいですし……あ!」
「どうした参謀長」
「予備役を呼び戻しては如何ですか?」
「ふむ。しかし、書籍化した連中には既に嫌がらせレベルの電話攻めが行われていると聞いているが……」
「ああ、ソコじゃないです。書籍化未満の中堅の連中です。連中は活動報告での横の繋がりがありますからね……」
「しかし、役に立つのか?」
「分かりません。但し、やって損はありません。適当な下士官に命令してさせてみましょう。もし効果が出るならば順次採用して行けば良いでしょう――」
◇ ◇ ◇ ◇
はぁ、俺の名は凛々。なろうで小説を書いている30代男性。ランクはD級。現総ブクマ145。単体最高ブクマ48。最大獲得pt246。総合111,000PV。総文字数1,890,000文字のいわゆる万年D級の中の下作家だ。これ迄に異世界長編ものを2つ完結しているが、完結ブースト虚しくなろうコンは一次もかすらなかった。
同じ位の面白さだなと思って、作者ごとお気に入り登録していた転生モノがなろうコンの一次を突破した事があまりに悔しくて……新たに始めた長期連載。それは前作の連載よりも反応が悪かったが、意地の為に畳めずにいた。
ともかく、そんなこんなで筆を置こうとした矢先に運営からの赤字メッセージ(通称赤紙)が届き、現在はなろう軍の三等陸尉として働いている。働くといっても空いた時間に完全無給の創作活動をして、その謎のお化け軍団からのPVとブクマ数を稼ぐだけのお仕事なんだがね。
あれ、もしかして三等陸尉になる前と変わらない?そうだよ、無給公務員として軍属に登録こそされているだけで他は何も変わらない。シコシコとサラリーマンをしながら通勤時間と休日を使って小説を書くだけ。
謎のお化け軍団は普段、街に片方だけの軍手を撒き散らしたり、パソコンを勝手に更新したり、ろくでもない事ばかりしているが、なろう小説を読んでいる時は大人しくしてるし、面白い小説を見つけてブクマつけると暫くして勝手に成仏するらしい。
この物語はそんな俺のある日の出来事――
◇ ◇ ◇ ◇
運営……じゃなかつた、大本営から赤字で命令メッセージが来た。まぁ大抵ろくでもないメッセージなのだか、赤字と言うだけで興奮するのは何故なんだろう。きっと調教されてるんだろうな……。
「なろう界隈で長年執筆活動を続けた凛々三等陸尉の人脈を活かして転生系退役軍人のスカウトをお願いします」
マジかよ……。確かに長年の執筆生活で色々な作者との交流はあるが……なぜ俺なんだ。まぁ、やれと言われたらやるが。
っても直接の連絡先知らないしな……。メッセージでも送ってみるか。ああ、誰を選ぶかな、取り敢えず毎週楽しみにしていた
「転生先はおちわぽみるく」のrain wolfと
「地獄で食レポ」のキミマロ君と
「シスコン拗らせたらオークに転生して異世界兄妹生活を送る事になった件について」の林集一
でも誘ってみるか……。
俺はバス待ちのベンチに座って旧友に向かってメッセージを書き始めた。
「よぅ、rain wolf。久々の赤字嬉しいだろ。出版社からだと思ったか?バカめ、そんな訳あるまい。ただ、拾う神あればそれを盗む鳶だって居るんだ。ニュースで聞いてる通り、今の日本は危機的な状態にある。謎のお化け軍団の跳梁跋扈で街は軍手だらけ、日本のWin do Wsは全部最新型に更新されちまった。それを救うにはどうしてもお前の力が必要なんだ。
そしてそれ以上に俺はお前の『転生先はおちわぽみるく』の続きが読みたいんだ。引退したお前の気持ちは痛いほど分かる。俺もそろそろお前と同じ40代だ、この歳であの作風は痛い。だが、俺の中での『転生先はおちわぽみるく』は、読み始めた時のあの時の感動のままなんだ。作者の年齢なんて関係ない。気を引く名前で釣って中身は転生エセ純文学。3話毎に訪れる謎のエロ回のギリギリ具合に毎回毎回ひやひやした。しかし、お前は投稿したと思った120話,121話,122話の消失により発狂して筆を置いた。年齢による引退も考えていたとは言え、折角の終盤にまで来てあの尻切れ蜻蛉は残念だったなぁ……。
なぁ、あの頃の不幸な事件は忘れてもう一度120話,121話,122話を書いてみないか?そして俺と同じくなろう軍に入って再び読者の為に頑張ってみないか?
じゃあまた、な。」
ふぅ、次々。
「よう、久々だな。元気してるか?俺は元気にしてるぜ。キミマロ君が受験に専念したいと『地獄で食レポ』を無期限休載して3年半になるが、如何お過ごしで?受験の結果は兎も角、今日はあるお願いがあって連絡している。一緒に無給公務員をやらないか?例の小説家になろうwith自衛隊って奴だ。聞いたことあるだろう?
俺は、この小説になろうと言うサイトをホームだと思っている。職業小説家をめざすキミマロ君には受験前の力試しでしかなかったかもしれない。だが、顔くらいは出せるだろう?未完の「地獄で食レポ」の最終話を書く位は出来るだろう?君はいつも最終話は既に決まっていて、多少の調整だけで完結出来ると豪語していた。だからそれを書くだけで良い。それだけで救われる人達が居る筈なんだ。
とりとめのない話になったな。とりあえず返信を待ってる」
ヤベェ、首が痛い……。まぁあと1人位は送っておくかな。
「ういっす!林君よ、久しぶりだな。君は3日経とうが1月経とうが必ず感想や報告やメッセージには返信してくれたな。そのマメな性格からして恐らく、辞めて半年経った今でもなろうを覗いていると見ている。読んでいるって事は図星だろう?ふふん。分かるのだよ君の事は。
さて、今日はすべての作品を計画的に畳んで引退した君にお願いがあってメッセージを送っている。分かると思うが(以下略)」
「………………本当に送信しますか?無論送信するさ、オラオラ」
「……無事に送信されました……か」
はぁ、どうしたものかね……。
俺にしては長文のメッセージを打った。アイツらが戻ってくる戻ってこないにしろ大本営からの命令に対して動きはした。ダメならダメだったと報告しよう。
疲れ眼を瞑りながら顎を空に向ける 。ため息を突きつつ、スマートフォンを持つ手をだらんと投げ出してベンチに深く座る。
「アイツら……まさか死んでないだろうな」
各作品の事を思い出しながらメッセージを打った三時間は俺自身のなろう生活を思い起こさせるに十分な時間だった。確かにあの時間は至福のひとときだった。改心の短編や痛恨の短編を投稿した後のワクワク。感想赤字が表示された歓喜の瞬間。良く出来た話や長年暖めた布石や付箋を回収する話を投稿したあとのあの高揚感。
「こんなメッセージを送る俺も、実は諦めかけてたんだがな……でも――」
「助けてー!もがもが」
バス停で自分語りに浸っていた俺の耳内に助けを求める幼女の悲鳴が鳴り響く。
「謎のお化け軍団ッ――!こんな時にッ!」
謎のお化け軍団は24体程の集団で幼女を取り囲み、嫌がる幼女に踊りながら軍手を投げ付けていた。
「クソッ!一人でやるしかないか――!」
俺は左手に持ったスマートフォンを構えて「小説になろう」を起動、書き貯めていたメイン小説3,000文字程の「閑話休題」を2つ放出した。
「………………ん?誰か何か投稿したか?」
「気のせいだろ?ほーれほーれ軍手だぞー。キシャシャシャシャ!」
「くっ……この程度じゃびくともしないか……」
「おじさん助けてー!もがもが」
既に幼女の周りには片手だけの軍手の山が出来ており、身体の半分が埋まっている。きっとこのままでは、ものの数分で頭まで覆われて窒息してしまうだろう。幼女は二車線道路の反対側に居る為、ここからだと歩道橋を渡って道路の反対側に行くには徒歩で10分位はかかってしまう……!
「くそ……!間に合わないのか!」
「俺に……俺にもっと力があれば……ッ!」
「力が欲しいか……?」
「まさかこのフレーズは……!」
「待たせたな。実はもう書いていたんだ。ずっと前にな。ただ、全盛期の半分以下にまで減ったブクマの手前、投稿する勇気がなかったんだ。これを投稿してもあの栄光は取り戻せないってね。だが、あのメッセージで目が覚めたよ。俺はブックマークを欲していたのは事実だ、だがブックマークの為に「転生先はおちわぽみるく」を書いていた訳じゃない!そう考えたらもう一度やり直す決心がついた。ありがとう。凛々三等陸尉」
「相変わらず台詞長いなrain wolf。だが助かったぜ!これからもよろしく頼むぜ!」
「ヒャッハーッ!おちわぽみるく?確かに楽しそうな題名だが俺達はギャップ耐性とエロ耐性が強い部隊なんだよ!折角の援軍だが残念だったなァ―!」
「助けてー!」もごもご
幼女は既に首の辺りまで軍手まみれになっていた。最早猶予はない。
「クッ……!」
万事休す――と思ったその時。
「いただきます。骨の髄まで」
突然現れた痩せ身長身の男が腰を大きく反らしたポーズで小説家になろうを起動する。
「君は『地獄で食レポ』のキミマロ君ッ!あのメッセージを見て来てくれたのかッ!」
「か……勘違いするなッ!私は幼女を助けに来ただけだッ!」
「なんだなんだぁ?グゥエヘヘヘヘヘ……お前がこの幼女を助けようってのか?」
「投稿――。最終話『白銀のカツ丼と閻魔の女体盛~新たなる旅立ち~』」
「ウワァーッ!こんな時間にメシテロなんて卑怯だぞ!やめろっ!貴様ら戦闘中にスマホを見るなぁーッ!それでも謎のお化け軍団かぁーっ!コラーッ、敵前逃亡はご飯抜きだぞー!逃げるなっ!」
「キミマロ君……!」
「ふん、俺はとっくの昔に書いたまま忘れていた最終話を投稿しに来ただけだ。凛々三等陸尉の仲間になった訳じゃないからな」
「君、素直じゃないねぇ。新たなる旅立ちって、続ける気満々じゃないか。それに作中に表記揺れがあるよ。君――加筆したろ?君はまだ筆を置いていないじゃないか」
「うるさい!番外編と閻魔様の過去編を書いたらなろうから引退してやる!俺は現実の世界でリアル小説家になるんだぁーッ!」
「なろうでなれば良いじゃないか。君の『地獄で食レポ』は一次とは言え、なろうコンを突破したし、長期休載してもさほどブクマは減ってない。……これは読者が君を待ってるって事だ。それに今は食レポ漫画が盛り上がっているから、もしかしたら漫画化されるかもしれないんじゃないか?一人で頑張るのも大切だが、なろうには仲間が沢山居るんだぜ?」
「半年間だけだ――。それ以上は就職活動に障るからな。……ん?道路の反対側が騒がしいな」
「あ……あれ?謎のお化け軍団増えてない?」
「フハハハハハッ!無駄話が過ぎたな!そこの
士よ
ロし
野の
屋で飯を食ってきた早食いの部下達が戻ってきたのだ。満腹であるなら食レポは恐れるに足らず!ワンオペ故に戻りが遅いのも居るがな……!」
「クソッ!早く何とかしないと……!」
「主役は遅れてくるもんじゃないか?うおおおおお!」
「林集一!」
「相変わらず勢いだけだな!」
「うおおおおお!」
「久々に四人揃ったんじゃないか?」
「ああ、これならいけるかもしれない」
「明くる日の活動報告を思い出すな……」
「なぁんだてめぇら?数が居たら何だってんだアマチュア風情が……!フヒャーッ!」
「アマチュアにはアマチュアにしか出来ない事があるんだよ!」
「そーだそーだ!ゲスい展開とかグロい展開とか……しつこいパロディーとか他社モノとかな!」
「フンッ、ならば見せてみろクキャーッ!」
「「「「おおおおおおお!」」」」
「くらえっ!」
「合同企画相互転生ー!」
「グワァーッ!面白い……?か?でも気になるゥーッ!」
謎のお化け軍団はスマートフォンを片手に消え去った……。
「ふぅ、あとは反対側の道に渡って少女を助けるだけか……」
「しかし俺達が再び集まる事になるとはな……。まぁ、これから頼むぜ!戦友達よ!」
「ああ、宜しくな!」
「あんたの為にやるんじ(略」
「コンゴトモヨロシク」
◇ ◇ ◇ ◇
それから数時間後……。
「では、階級を言い渡す。
キミマロ君。A級、三等陸佐。代表作『地獄で食レポ』
rain wolf。B級、一等陸尉。代表作『転生先はおちわぽみるく』
林集一。E級、三等陸曹。代表作『シスコン拗らせたらオークに転生して異世界兄妹生活を送る事になった件について』
これからは(も)、なろう軍として頑張ってくれ!」
「「「はい!」」」
◇ ◇ ◇ ◇
「うーん、やっぱりキミマロ君とrain wolfは上官になっちまうのか」
「だが、俺達はお互いに重箱の隅をつつきまくって切磋琢磨してきた仲間だろ?」
「そうだな、仲間だ」
「これからも、リアル都合を優先しながら、空いた時間にでもいい、一緒に頑張ろうな」
「ああ、先に書籍化されるのは俺だがな」
「小説は私の人生の発露、辞められないさ」
「勢いだけでサーセンwww」
「俺達の長い長い旅は――」
「「「始まったばかりだ!」」」
少女「私そのまま?」
END
思い付きで書きました。
もし宜しければ評価や感想いただけたら幸いです。