ミッドナイト・ディスコ
「っシャ、皆でカラオケ行こかぁー!」
体育祭の日の夜、剛力君の雄叫びにより、カラオケでクラスの打ち上げが行われることになった。
速水君に、「の~ざきさん、友達作るチャンスだよ★」と煽られた私は、しぶしぶ行くことにした。
集合場所は、高校の最寄り駅近くの、カラオケ店前。ちなみに、私は生まれてこのかた、"カラオケ"というものに行ったことがない。
いつもならまっすぐ帰る道を、最寄りの駅前で曲がり、カラオケ店の前でたむろする。
(打ち上げって、どんなのかしら?)
どうせぼっちだろうという不安感と共に、どこか踊る心。今まで、"打ち上げ"というものにも参加したことがなかったのだ。
私は、「今日は遅くなりそう」というショートメールをお母さんに送信する。
そして、周りをキョロキョロ見渡してみる。体育祭終了後、一時帰宅したので皆私服だ。
私は、majic regendというブランドの袖がひらひらした黄色のトップスに、デニムのタイトスカートを履いてきた。
少しばかり気合を入れすぎたかと思ったが、周りの女子達のオシャレクオリティーが高すぎて、杞憂と化した。
(まだまだね、私…!)
特に目立っているのは、森野さん。彼女は、うちの高校にしては珍しく茶色のロングヘアをしていて、それをゆるふわに巻いている。
そして、Jazzlinというブランドで宣伝していた、白地に赤いチェリー模様のふわふわワンピースを着ている。…あんな可愛らしい服が似合うなんて、羨ましい。
足元も、鼠色のスリッポンの私と違い、リボンデニムのヒールを履いている。
森野さん達を遠くから眺めていると、集合場所に沢下君も来て、友達数人と喋り始めた。
(やっぱり、爽やかだわ…!)
その漂う爽やかさと優しい笑顔に、見惚れてしまいそうだ。彼は、襟付きの薄手白シャツに、下はジーパンという、シンプル・イズ・ベストなスタイル。
「やぁ、野崎さん。…待った?
その服、似合ってるよ!」
デートの待ち合わせみたいなセリフを言いながら、速水君が駆け寄ってきた。
「はぁ?」
待ち人でない人にそんなことを言われて不快なので、精一杯嫌味を込める。
そして、私は速水君の服装をまじまじと見つめる。…オシャレさんだ。
高級そうな白いTシャツの胸元にサングラスを引っかけ、下は黒いタイトな黒ズボン。薄手の黒いジャケットを羽織っている。
更に足元は、ほとんどの男子がスニーカーなのに対し、黒色のロックっぽいショートブーツ。
「…速水君って、オシャレなのね。」
「ハハッ。僕、オシャレには自信あるから。」
キメ顔で堂々とナルシ発言をする速水君。なんと返せばよいか分からなかったので、無言で頷いておいた。
速水君とファッションについて話していると、時計が19時を指した。
「みんなー、来た人から受け付け済ませていって!」
剛力君と共に幹事役のクラスの女子が、皆をまとめる。彼女はサバサバ系バスケ女子で、名前は確か山田さん。
なるほどカラオケというものは、部屋が幾つかに分けられており、その中でそれぞれ歌って楽しむものらしい。
来た者順で勝手に区切られ、私はちょうど女子部屋になった。
メンバーは、森野さんと山田さんと、私とポニーテールの子(名前が分からない)の4人だ。
「イェーイ!女子会しよ!」
はっちゃける森野さん。彼女は、私から見る限りキャピキャピしていて、友達が多い。
「じゃあー、1人ずつ自己紹介からしていこー♡
うちは、森野 真由。まゆって呼んで下さぁい!
今日は2コ1のひかるちゃんと部屋が離れてしまったけど、楽しみたいし、よろしくねー!」
(2コ1…ナニソレ?)
「ウチは、山田 梨華。バスケ部。サバサバしすぎてて怖いってよく言われるけど、元からやし気にしないで!」
彼女は、黒髪ショートカットで、いかにも"スポーツ少女"といった感じだ。
次に、黒髪ポニーテールの子が口を開いた。
「あたしは、白崎 海乃です。
剣道部に入ってるよ。
良く、変わり者っていわれるけど、どうぞよろしくね~。」
おっとりした口調の彼女は、美人かつ癒しキャラといった雰囲気だ。
「海乃は、変わり者じゃなくてナチュラルビューティやって!」
森野さんが、真剣そうな目で白崎さんを見て言った。
「ありがと~。」
フフッと笑う白崎さん。
次は、私の番だ。
「あ、あの…私は、野崎 花澄、です。
今日は、打ち上げに参加させてくれてありがとう、ございます。
どうか、よろしくお願い致します。」
「花澄ちゃん、うちら同いやし、敬語じゃなくていいよ!むしろ、タメで話そうやぁ。」
森野さんが、優しい言葉をかけてくれた。
「あ、ありがとう、森野さん。」
「"さん"とか、付けんといてよ~。
一緒のクラスやし、仲良くしよ!今から、ここにいる3人のことは名前で呼んであげて。」
ニコニコとこちらに笑いかけている3人。
3人共、思っていたよりも優しそうだったので、何だか感動して泣きそうになった。
「じゃあ、1曲目は真由いくなぁ!
DTB43(道頓堀フォーティースリー)で、『恋するぬいぐるみ』!」
DTB43とは、今を時めく女性アイドルグループである。
(でも、名前が出てきすぎて頭パンクしそう。一旦、整理しよう…。)
私は、3人が歌っている間手拍子を入れながら、今まで出会った人たちの情報を日記にまとめることにした。(あとがき参照)※
(人と関わることに慣れていないもので…。)
◇◆◇◆
(ふぅ…)
全て書き終わったと同時に、私の左隣に座っている海乃ちゃんの歌が終わった。
「次は、花澄ちゃん歌ってよー!」
楽しそうに笑う真由ちゃんに、マイクを渡されてしまった。
(ど、どうしよう。カラオケなんて、来たことないのに…。)
「自分がよく聴く歌でいいと思うよ~。」
海乃ちゃんの言葉で、私の決意は固まった。
(えぇい、私の好きな曲入れちゃえ!)
震える手で転送ボタンを押し、始まったのは『ちぇりー』。
「恋してしまったのよ~♪
絶対 君は気付いてないのに~♪」
いざ歌うと、思っていたよりも乙女な歌詞にこっぱずかしくなり、後悔した。
「ちぇりーやん!」
「意外!」
「あたし、この曲知らないんだな~。」
「え、海乃、知らんの?」
「うん、あたし、流行には疎いもので~。」
大いに盛り上がり、そんなこんなで歌い切った。
「イェー!」
ハイタッチを求めてくる真由ちゃん。
「めっちゃ"恋してます"って感じ。
なぁ、花澄ちゃんって好きな人おるん?てかさ、皆で恋バナしようやぁ!」
「…!」
恋バナなんて、久しくしていない。
「お、いいね!
で、誰?速水君?」
探るような目で笑っている梨華ちゃん。
「え?速水君は、友達だよ。」
真顔で答える私。
「えー、あれだけいつも一緒なのに~?」
「いいやん、速水君イケメンやん!」
そして、真由ちゃんが追い打ちをかけてきた。
「じゃあ、もしかして沢下君?」
「…ッ!
好きかどうか、まだ分からないよ。」
言葉とは裏腹、みるみるうちに熱を帯びていく私の顔。
「おー!真由当たりやぁ!お目が高いなぁ!
でも、知ってる?黒田さん…あの金髪ギャルも、沢下君のこと好きらしいし、気を付けて!」
声を潜める真由ちゃん。私は、心の中で"知ってます"と呟いた。
「えー、まじ?!不釣り合いすぎじゃん!」
「まじか~。」
「実はな~、真由の2コ1・ひかるちゃんが今、その2人と一緒の部屋らしくて、LINDで状況を教えてくれるそうで~す!」
(あの2人、同じ部屋だったのか…。)
ザワザワと胸騒ぎがする。
「なになに…、えーとね、…ハァー?!
黒田さんが沢下君に言いよって、LIND交換したんだって!
しかも、最初は同じ部屋じゃなかったのに、黒田さんが無理矢理入ってきたとか!」
「ハァ?
何なん、あのビッチ黒田。部屋変えとか、そんなルールないし!」
どうやら真由ちゃんと梨華ちゃんは、黒田さんのことが好きではないらしい。
「うちら、花澄ちゃんを応援してるしな!」
真由ちゃん達が、ニコリとして笑った。
(は、はぁ…。)
「…で?真由もいるんやろ、好きな人。」
梨華ちゃんがニヤニヤした顔で迫る。
「えー、言うん?
真由の好きな人は、…剛力君。」
顔を両手で隠しながら、楽しそうに暴露する彼女。
「エッ!」
驚く一同。
「えー、何か、体育祭で惚れた。カッコよくない?キャ~♡」
真由ちゃんは、足をジタバタさせ、まさに"恋する乙女"を具現化したようだ。
「まさかの、黒田さんの元カレ…。」
呆れる梨華ちゃん。
「てかさ、聞いて!真由、黒田さんと中学同じやってん!
知ってた?…黒田さん、中学の時いじめられてたんやで!」
「そうなの?」
目を丸くする私達。
「何か色々あって、あんな風になったらしい。
中学の時は、かなり素朴だったのに。」
「え、黒田さんって、最初からギャルじゃなかったん!」
アハハ、と笑う梨華ちゃん。
「また、卒アル見においで。…あ、いいこと考えた!
体育祭の後は期末テスト期間やし、真由ん家で勉強会しよ、この4人で!」
「いいね~!」
◇◆◇◆
それからは、4人で歌ったり踊ったりして夜が更けていった。
やがて朝が来ると、疲れ果てた体とは裏腹、帰りたくないと思う自分がいる。
仲間と騒ぐことの楽しさを知った。こんなに楽しいことが、あるなんて。
体育祭は金曜日に行われたので、今日は土曜日だ。
「そろそろ朝6時やし、お開きかな!」
幹事である梨華ちゃんがそう言ったので、初めてのカラオケオールは終了した。
しかし、帰りに駅へと向かう組をチラリと見た時、さっきまでの満たされた気持ちが一気に覚めてしまった。
そこにいたのは、沢下君と、…隣で楽しそうに笑う黒田さんの姿。ズキリと胸が痛むのが分かった。
「野崎さん、一緒に帰ろうか!」
そんな速水君の声で、ハッと我に返る。
「いや~、男ばっかりのカラオケルームだったよ。
…でも、友達できたし…ま、いっか。」
「あ、そ!」
「野崎さんは、どうだったの?」
「カラオケ自体は、楽しかった。
でも、――。」
私の表情はきっと、曇っていた。速水君は、それ以上追及してこない。
その日は、喜びと悲しみの混じった複雑な気分のまま帰宅した。
<花澄のノート>
「・野崎 花澄…自分
・沢下君…爽やかなテニス青年で、優しい。こんな私に笑いかけ、困っている時に助けてくれた。(思わず目で追いかけてしまう)
・速水 瑛太…うざいぐらい、いつも私の周りにいるクラスメイト。軽音部。金髪で、俗に言う"イケメン"(らしい)。
・田中 秋子ちゃん…私の小学校の時の友人。私をいじめから救ってくれた後、家族ごと行方不明となってしまった。
・磯辺部長…軽音部の部長。雰囲気はインテリなのに、似合わないファンキーな赤眼鏡をかけている。ニックネームは"いそべやき"。
・椿さん…軽音部で同じバンドになった、大人な色気のある黒髪の美少女。
・黒田さん…軽音部で、同じバンドになってしまった金髪のギャル。沢下君のことが好きらしく、私を勝手にライバル視してくる。
・剛力君…見た目はクラス1のチャラ男。しかし、体育祭委員として頑張っていた。
・真由ちゃん…キャピキャピしていて友達が多い。優しい。
・梨華ちゃん…サバサバ系バスケ女子。黒髪ショート。
・海乃ちゃん…ポニーテールの剣道女子。ナチュラルビューティ。おっとりしている。」




