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あの頃のメロディ  作者: 星利
2.<青い春の日>
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追いかける背中



カフェでの作戦会議から、特に何事もなく1ヶ月が経過した。


黒田さんが部活に来ないので、未だに軽音部での活動をすることも許されない。だから、授業が終わるとすぐに帰る日々。


その間、速水君が毎日のように隣へやって来るので、他愛もない話をしながら一緒に帰った。


そんなある日、1日終了のホームルームで担任の斉藤先生が言った。



「皆さ~ん!あと3週間で、体育祭です。


それに向けて、これから毎日放課後などを利用して、練習を行ってもらいます。」


「エー」「まじかよ…」


ブーイングが起こる教室内。そんな中、立ち上がる男がいた。クラス1のチャラ男・剛力(ごうりき) 毅司(つよし)である。


「皆、頑張ろやぁ!


俺、絶対優勝したいッス!」


私達は目を丸くして、剛力君をまじまじと見つめた。


…明るい茶髪、銀の輪っかのピアス、着崩した制服、制服の白シャツの下に透けている、赤いタンクトップ。


(チャラいなー。)



「じゃあ剛力君、体育祭のリーダーよろしく!」


彼を指名する斉藤先生。


「よっしゃ、やったろかァ!」


こぶしを突き上げる彼は、見かけによらずやる気満々である。


◇◆◇◆


それからの日々、授業の合間を縫って練習が行われた。夢丘高校の体育祭にはルールが存在しており、"クラス対抗リレーには全員参加、さらに1人2種目以上出場必須"というものだ。


私は、クラス対抗リレー以外にムカデ競争と棒取りに出ることが決まった。


(あーあ、クラス対抗リレー、憂鬱だな…。)


短距離走は苦手な上、リレーは責任が重い。



◇◆◇◆


あっという間に3週間が過ぎ、体育祭当日の朝。


いつもより早めに起き、体操服に着替えて家を出る。


朝の空は、すがすがしく雲一つない五月晴れ。学校に着くと、いつもとは違う騒々しさでいっぱいだ。


ワイワイ、ガヤガヤと賑やかで、吊るされた赤、黄、青、白の三角ガーランドが躍っている。


(これが、高校の体育祭かぁ~。)


いつもは「勉強勉強」とうるさい教師達も、この日とばかりにはっちゃけている。



「赤組、そして3組ふぁいおー!」


赤いジャージを着た斉藤先生の掛け声。私達はクラスで円になり、肩を組んでいる。


「おーーっ!」


1番大きな雄叫びを上げているのは、体育委員の剛力君。



◇◆◇◆


体育祭が始まると、所々に置かれたスピーカーから大音量で流れだした"いかにも青春"な流行りのJ-POP。放送部プレゼンツなので、彼らの趣味が手に取るように分かる。


最初は、恒例の玉入れだ。ギャアギャアという声と共に、飛び交う紅白の玉。時には間違えて石を投げる生徒もいる。


次は、ムカデ競争。


(うっ、出番…。お腹痛くなりそう…。)


「いっちにー、いっちにー」という掛け声のもと、何とか練習通り上手くいった。


その後も、台風の目、騎馬戦、旗取り、パン食い競争など怒涛の勢いで終わっていく。


前半最後の棒取りも無事終わり、昼食休憩をはさんで後半戦だ。



後半戦の始めは、借り人競争。


「3.2.1 GO!」


開始0.1秒で、剛力君が凄い形相をして私達3組の観覧席に向かってきた。


「お前、ちょっと来い!」


そのムキムキの腕に掴まれてジタバタもがいているのは、黒田さんだ。


「ちょ、待てよ!


何やねん、離せって!」


そんな2人を眺めていると、沢下君がこちらに向かってタタッと走ってくる。


「野崎さん、ちょっとだけ我慢してて。」


そう言って、ガシッと腕を掴まれた。…沢下君の体温が伝わってくる。


その瞬間、私の世界は止まった。見えるもの全てがきらめき、息が熱く、鼓動が早い。



「ゴーール!」


私の腕を掴んだ沢下君が、1番にテープを切った。


「やったな!」


私に向かって、ピースをしている沢下君。



次第に、他のチームもゴールしていく。


「はい、接戦の末、全員ゴールに到着したので、"借り人"の発表をします!」


白いタオルを頭に巻いた副校長が、メガホンを使用し大声で叫ぶ。


「1位の、赤組からいきましょう!


――剛力君は、…"元カノ"です。」


剛力君の握り締めている紙に書かれた文字を、読み上げる副校長。ドッと笑いが起こる、観覧席。


「――えー、続いて沢下君は、…"応援したい人"です。」


(えっ?…なーんだ。)


ガックリ肩を落とす私と、拍手が起こる観覧席。その時、またもや黒田さんから冷ややかな視線を感じた。


「続いて3年生の磯辺君は、…あ、これは言わない方がいいですねぇ。」


ニヤニヤしている副校長。いそべやき部長は、私のクラスメイトの女子を連れている。


「ハァ~?」「そんなのありかよ、ハゲ!」


観覧席から飛んでくる、副校長へのブーイング。


他のチームの借り人の発表も終わり、観覧席に戻ろうとすると、放送が流れた。


「では、次はクライマックス!クラス対抗リレーです。」


(い、いよいよだ…。)


私は唾をごくりと飲み込む。バトンを落とさないか、こけたりしないか、など不安が尽きず、心臓がバクバクする。


私は何故か39番で、後ろから2番目である。前が速水君で、アンカーが沢下君だ。


"沢下君にバトン、沢下君にバトン"と考えるだけでドキドキしてしまう。



そうこうしていると、もう速水君が走っている。


(位置につかなくちゃ…!)


すると、タイミングを見計らったかのように、かの有名なバンドの胸キュンJ-POPが流れだした。爽やかな、イントロ。こちらへ走ってくる、速水君。


「野崎さん、いけーーッ!」


バトンを受け取った私は、無我夢中で駆け抜ける。



ドタドタドタ…


(やばい、抜かれそう!)


タッタッタッと、他のクラスの人達が後を追ってくる足音。


2位でバトンを受け取った私は、あっという間に最下位へと転落してしまった。



「野崎さん、あと少し!頑張れ!」


白いライン上で手のひらを広げ、私を見据えている沢下君。


「ガンバレー!」


聞こえてくる、クラスの人達の声援。



(届け!)


無事沢下君にバトンタッチし終わり、息を切らしながら座り込む私。


(やっと終わった…。ごめん、沢下君。私、抜かされちゃ…)


そう思って沢下君の方を見た私は、目を疑った。


「は、速い…!」


その姿はまるで、天空をかけていく白馬のよう。


「ガンバレーー!」


思わず、大声で叫んでいた。沢下君は、1人、1人と着実に追い抜いていく。そして…。


「ヨッシャァー!」


剛力君を筆頭に、ガッツポーズをしている3組一同。嬉しそうに笑う沢下君の姿を、私は遠くから心に焼き付けた。


青い空が、キラキラと太陽に輝いていた。


光る汗、そよ風になびく体操服の名前。


――そのどれもが、青春だ。


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