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あの頃のメロディ  作者: 星利
1.<ひらひら、ひらり>
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眼鏡の情報屋


入学式から2週間が経った。ホームルームで、先生が呼びかけている。


「はい、皆さん。今日から本入部期間なので、選んだ部活に入部届を出しましょう!」



私は、結局軽音部に入ることにした。入部届に、名前と適当な志望理由を書く。


(まぁ、放課後の音楽室での出来事が大きいかな…。"応援してるよ"なんて言われたら、ピアノかキーボードやるっきゃないじゃない!)


…黒田さんもいると思うと、少し気が重いけれど。



◇◆◇◆


放課後、軽音部の部室に行くと、普通の大きさの教室に15人ほどの生徒達が集まってワイワイガヤガヤしている。


私は、速水君に訊ねた。


「入部届って、誰に出したらいいの?」


「部長…あの人だよ。


いやぁ、野崎さんが入部してくれるなんて、ナイス僕。」


速水君の言葉を半分無視し、私は彼の指さす先を見た。


そこには、スラッとして雰囲気はインテリなのに、何とも言えぬファンキーな赤い眼鏡をかけた男の人が立っている。


斜めに切られた、長い前の毛から覗く切れ長の目はどこか虚ろ気で、まさにバンドマンといった感じである。さすが先輩というだけあって、全身から漂う貫禄。



「あの、入部させていただきたいのですが。」


彼に入部届を見せると、部長は握手を求めながら楽しそうに笑っている。


「オゥ!


キミからは、ロックンローラーとしての素質が溢れてるヨ!


その肩上の黒髪ボブヘアーに華奢なスタイル、強い眼差し。…イイネ!


吾輩の名前は、磯辺(いそべ)ダ。よろしくゥ!」


「…は、はぁ。」


淡々と握手をしていると、彼の横にいる蛍光ピンク色の髪をした女の先輩が付け加えた。


「そう、磯辺焼き先輩だよ。


彼のことは、"いそべやき"と呼ぶんだよ。」


「…は、はぁ。」


いそべやきというネーミングセンスよりも、彼女の髪が校則に引っかからないのかどうかということが気になってしまった。



「学年ごとにバンドを作るのだが、今年は全部で4人だから、必然的に決まってるんだヨ。」


部長の言葉に、私の頭は一時停止。


速水君に手招きされて向かった先には、黒田さんが椅子の上で足を組み、苛立たしそうに髪の毛をいじっている。


(で、出たー…。)


「まぁ、まずは諸君。歓迎の挨拶代わりに、吾輩達の魂の叫びを聴いてくれィ!」


そう叫ぶと、部長率いる4人組が爆音を轟かせ始めた。



「いくぜェ!準備はいいかァ!


オレら"Grass(めがね) of() glasses(じょうほうや)"で、『Black(くろ) History(れきし)!』」



ダダダン、ダダダン、ダダダン、ダダダン…


リズムを取るドラム。


デデッ、デデッ、デデデン、デデン――


心臓を震わせる低いベース音が入ってきた。


ジャジャジャン、ジャジャジャン…


激しく響き渡るロックギターの主旋律。



「我らを縛るモノは何だ?


自問自答繰り返し 孤独?虚無?正義?


恐れるな それは魂を起こす 地獄のsound 未来へのenergy


その茨道は我をどこへ誘う?


完全解答 無秩序のwinner!」



(顔つきが変わった…!サビ、来るわ…!)


ゴクリと唾を飲み込む。彼らは、一瞬たりとも目を逸らす隙を与えない。



「Black History!


どうやって生きていたって構わない それがお前の全てならば


最高の叫びを 歌え woh woh…


過去のしがらみも 超えていけるなら


醒ませよ woh woh…


君は 革命的新世紀のhistory maker!」



シャウトしながらサビを叫んでいる。



演奏が終わった時、息をのんでいた私達は立ち上がった。拍手喝采だ。


「では今から、バンド名と方針を考えてもらう。初めのミーティングだ。


自己紹介も忘れずに、ナ!」


部長が眼鏡を光らせて指示した。



「じゃ、僕からいくね。


僕は、速水 瑛太。ギター弾くのが得意です★」


速水君がウインクすると、その右隣りに座り、ウフ、とこちらに向かって笑いかけている女子が口を開いた。


「私、椿(つばき) 美麗(みれい)と申します。


ベースが得意よ。よろしくね♡」


(わぁ、凄い美人…!)


彼女は、大人な色気を感じさせる紫色のオーラをまとっている。


とても綺麗で艶やかな、腰まである黒髪ロング。色白のたまご肌。猫のように少しつり上がった目。カールされた長いまつ毛。筋の通った高い鼻。赤いリップでツヤツヤしている唇…。



「次、あなたよ。」


見とれていると、椿さんに肩をつつかれた。


「えーと、野崎 花澄です。ピアノ習ってました。よろしくお願いします。」


次は黒田さんの番なのだが、彼女は急に立ち上がると面倒そうな顔をして言った。


「ちょっとあたし、イライラ限界。帰るわ。」


「あっ、ちょっと待ってよ黒田さん!


まだバンド名も方針も決まってないのに!」


そんな速水君の叫びもむなしく、黒田さんはぬいぐるみのキーホルダーがジャラジャラついた手提げバックを担いで部室から出て行ってしまった。


(あーあ…。)



「あぁ、困ったなぁ…。


部長、僕達どうしたらいいですか?」


頭を抱えている速水君。


「黒田、腹でも下しちゃったカナ?


な~に~、やっちまったなァ!」


おどけた部長は、眼鏡を人差し指でずり上げ、次の瞬間には真剣な面持ちになった。そして、声を低めてさとすように言い放った。


「おめぇら、分かるよな?


仲が悪いとバンドは成り立たない。よって、まずおめぇらは相互親睦から始めろ。


…黒田がバンドに戻ってくるまで、活動に来る必要はない。」


「そんな…。」


「……。」



静まり返る一同。


「部長、あんな自分勝手な人のせいで活動できないなんて、あんまりです!」


反論する速水君。


「速水君、ここは大人しく部長の指示に従いましょう。」


呆れ口調でそう言うと、椿さんも部室から出て行ってしまった。


「あっ、ちょっと!


…椿さんまで…。」


ガックリと肩を落とした速水君。どうすることもできない私は無言で見つめていた。


「い、いいもん!


相互親睦、深めて見せますから。


…野崎さん、行こっ。」


強がる彼は、私の腕を強引に掴み、ドアへ向かって歩き出す。


「う、うん…。」


「あの調子だと、部長は頑固だ。策を練らないとね。


野崎さん、何か食べたいものはあるかな?」


「は、はぁ…。」


成り行きで、速水君と作戦会議という名のご飯に行くことになった。

※この物語に出てくる歌の作詞は、作者が行っております。

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