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あの頃のメロディ  作者: 星利
1.<ひらひら、ひらり>
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桜色の果たし状


放課後、私はリュックを背負い、そそくさと帰ろうとした。


その時、例によって背後から「の~ざきさん♪」という声。…速水君だ。


「何よ。」


「軽音部見に行こー!」


「…ハイハイ。」



◇◆◇◆


軽音部の部室に入ると、やはり人がひしめき合っている。


様子をうかがっていると、大きなドラムを抱えた黒田さんが鬱陶しそうな顔でこちらを見ていることに気付く。


「なぁ、あんた。」


「?」


「あんたしかおらんやろが、野崎!


ちょっとこっち来な!」


こちらを睨む黒田さんに、人影のない廊下へと連れて来られた。



◇◆◇◆


「…で、何ですか?」


黒田さんに絡まれる覚えのない私は、恐る恐る訊ねた。


「これ!」


そう言って"果たし状"と書かれた紙を渡された。


「な、何です…?」


「あのさ、…あんた、――さわし…」


顔を真っ赤にして、ごにょごにょと口ごもる黒田さん。


「たわし?」


よく分からないので、聞き返す。


「さ・わ・し・た!のこと、好きやろ?」


素早く彼女の口から出た"さ・わ・し・た"という言葉が頭の中で"沢下"に変換された途端、私はビクッとしてそっぽを向いた。


「…ッ!イラつくんやけど!


さ・わ・し・た!のこと、あたしの方がずっと前から好きやねん。…中学の頃からずっと。


…やから、あんたには負けへんで!」


顔から火が出そうな黒田さんは、大声でそう言い放つとドスドス足を踏み鳴らして部室の方へと戻っていった。




……。



「えっ、えっ?!」


何が起こったのか分からない私は、ショート寸前の頭を抱えて座り込んだ。


…つまり、私が沢下君のことを気になってるのを、黒田さんは知ってるってこと?それに、黒田さんと私…ライバルなの?!


「エェェェーー?!」


叫ぶ私の手には、黒田さんからの果たし状が握られている。


でも、沢下君のことはまだ、気になる程度だ。



「"好き"って、何…?」


まだ恋を知らない私は、この甘酸っぱい感情の名前も、ドキドキ高鳴る鼓動の意味も分かっていない。


「ど、どうしよ…。」


迷宮の中を、感情がぐるぐると巡るような感覚のまま、私は歩を進める。頭を冷やしたい。



コツ、コツと自分の足音だけが響いている。


(あれ?)


気付けば、校舎の中でまだ来たことのない場所に辿り着いていた。閑散とした中、"音楽室"と書かれた教室が見える。


(音楽室か…、ちょっと気になるかも。)



私は、気の赴くままに木でできたドアを開けた。ギイッという音を立てて扉が開くと、鼻の奥に広がる、古い木の部屋独特の匂い。


教室の真ん中には、立派な黒塗りのグランドピアノが置かれている。その大きなグランドピアノは時の流れを感じさせ、この学校の歴史全てを知っているかのように思われる。


(ピアノ、…久しぶりに弾いてみようかな。)


3歳の時から中3の頃までピアノを習っていたので、少しばかり弾くことができる。


グランドピアノに向かって、ゆっくりと歩いていく。誰もいない放課後の音楽室にて、1人きりでピアノを弾くのだ。――少しの罪悪感と共に。




深呼吸して、自分の世界へと入っていく。


♪ミレドシドシファー ファーシソー


ソファミドミソ ファソファレミー


ソーソファソファレミー ミファソーソラソミファソー……



集中して、5分程の作曲を弾ききった。


すると、どこからかと拍手が聞こえてくる。


パチパチパチ!


(また、速水君かな。)


音楽室の入り口の方を見ると、そこにいたのは…。


「さ、沢下君?!」


目を疑った。いつの間にか来た沢下君が、優しい眼差しでこちらを見つめている。


「野崎さん、今の凄かった!」


目を輝かせながら笑う彼。私は目を逸らして、ぺこりと会釈した。


「あ、ありがとう。」


「いや、何か綺麗なピアノの音色が聞こえるなって思ったら、勝手に足が向かってた。」


「そ、そうなんだ…!」


「軽音部とか入るの?」


その質問に、私は硬直した。


「いや、…入らないと思う。」


そう答えると、はにかみ笑いながら、頭をカリカリして沢下君は続ける。


「俺さ、…野崎さんのピアノ、もっと聴きたい。


…だから、応援してるよ。」


恥ずかしそうにそう言うと、彼はその場を離れた。



(えっ、えぇーー?!)


"応援してるよ"という言葉が、頭の中で繰り返される。



10メートルほど歩いた沢下君は、急に何かを思い出したように足を止めた。


そして、振り向いて言った。


「俺、テニス部入るから。


試合とか出るから、また観に来いよ!」


ニコッと笑うと、「じゃあな!」と手を振り去っていった。




(あれは、…ずるい。あんな顔で笑うなんて。)


しばらくの間、ときめきが止まなかった。



放課後の音楽室にぽつりと残された私は、差し込む夕日に顔を赤らめながら、突っ立っていた。


◇◆◇◆


30分程ピアノを弾いた後、帰宅しようとして音楽室から出た。


すると、向こうから速水君が走ってきた。


「の~ざきさん、ごめん!


ギターの練習してたら、遅くなっちゃった。」


「あぁ、そう。」



別に彼氏じゃないのに、という言葉を飲み込んだ。


そうして、私達は昨日と同じように夕暮れの帰り道を共にする。

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