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あの頃のメロディ  作者: 星利
1.<ひらひら、ひらり>
3/19

春風、ふわり


――ひらり、ひらひら。


入学式典の後、教室の窓から見える大きな桜の木をぼんやりと眺めている私は、頬杖をつきながら、クラスメイトの自己紹介を聞いていた。


教壇に立っている女の先生が言った。


「じゃあ、次は速水君よろしく!」


パッと前を見ると、そこには見覚えのある顔。



「僕は、速水(はやみ) 瑛太(えいた)です。


ギター弾くのが得意なので、軽音部に入ろうと思います。


よろしくね★」


そう言い終わると、こちらに向かってウインクした。キャッキャッと黄色い声を上げる女子達。



(あれって、昨日の…!)


"あのクソヤロー!"と思った瞬間に、私は机から飛び起き、椅子を盛大に倒し、バランスを崩して転げ落ちた。



バッターーン!


クラスメイトが、一斉にこちらを振り返る。


(あちゃー、やっちまった。恥ずかしい…。)


その時だった。



「大丈夫?」


ケラケラと笑っている人達をよそに、右隣の席の男子が立ち上がり、近寄ってきた。


彼は私に向かって手を差し出してくれている。しかし、私は恥ずかしいので握らない。


「あ、ありがとう…。」


「ケガとか、ない?」


心配そうな彼に、私はこくりと頷く。


「良かった。」


そう言って、ニコッと優しく微笑む彼。そのえくぼに、胸がトクンと音を立てた。初めて会ったはずなのに、どこか懐かしい響きの声。


――その日、私の世界は変わった。



◇◆◇◆


クラス40人分の自己紹介が終わると、その日のホームルームは終了だ。


先生が大声で締めくくっている。


「皆さん、今日から早速部活見学が始まります。2週間以内にどの部活にするか決めて、入部しましょう。」



(ふぅ~ん、)


部活のことなんて、ちっとも考えていなかった。ハッキリ言って面倒なので、帰宅部でもいいかなと思っている。


カバンを片手に帰ろうとした時だった。



「の~ざきさん♪」


(ゲッ!)


後ろから、何者かに肩を掴まれた。この声は、…チャラキザ男・速水瑛太だ。



「な、何ですか…?」


「一緒に軽音部見に行かない?」


「ハァ?!」


「えぇ~、いいじゃんいいじゃん。


この僕が、他の女の子の誘いを断ってきてるんだぜ?」


「そんなの、知りません。…離して下さい。」


「そんなこと、言わないで、さ!


僕、知ってるよ。」



そう前置きした速水瑛太は、耳元で囁く。


「キミが、以前ピアノの作曲大会で、賞を取ったこと★」


「?!」



言葉を失っている間に、私は彼に手を引かれ、軽音部の部室へと連れて行かれた。



◇◆◇◆


ドアを開け、軽音部の部室に入る。生徒達でひしめき合っている教室内。


「楽器、好きに使って練習していいからな!」


眼鏡をかけたスラリと背の高い先輩が言った。



「野崎さん、ピアノ弾いてみてよ!それか、キーボードはどう?エレクトーンもあるよ!」


「イヤよ。…最近練習してなかったし。」


「そんなこと言わないで、さ!


おぉっ、このエレキ・ギター、カッコいい!


リッケンバッカーかぁ!」


彼はそう言うと、モノクロのギターを手に取った。確かに、そのギターのデザインは少しクールかもしれない。


そして、速水瑛太はギターをジャランとひと鳴らしして、無邪気な顔で笑った。



「…。」


案外、悪い人じゃないのかもしれない、なんて思った。


私もつられて、ピアノの鍵盤をなぞる。



ド、レミファソ…

ドレミファソラシド…



曲を弾こうとしたその時だった。少し開いた窓の隙間から、テニス部の練習する声が聞こえてきた。



「いけー!」


「おぅ!」


どこかで聞いたことのある声。私は、ふいにグラウンドのコートの方を見た。


すると、そこには赤色のテニスラケットを持って、相手コートに華麗にスマッシュを決めた男子の姿。


(あ、あれは今朝、手を差し伸べてくれた人――!)



私は、ぼんやりとその青年のことを見つめていた。



…まだ名前も知らない君を、追いかける私がいる。



「野崎さん!」


速水瑛太…速水君の呼びかけで、我に返る。


「どう?軽音部、入る気になりそう?」


「まだ分からないわよ!」


即決するタイプではない私は、疑り深い目で彼を見た。


「そうだね…機材買わなきゃいけないし、親に相談した方がいいからね。」


速水君の言葉に、私は「たしかに。」と頷く。


「でもさ、僕、絶対野崎さんとバンドするから。


…毎日、見学に連れてくるからね。」


「えぇー…。」



まだ、私は速水君のことをほとんど何も知らない。別に、知りたいとも思わない。


けれど、そんなつれない言葉とは裏腹、新生活の始まりに私の心は踊っている。



◇◆◇◆


「じゃ、私帰るから。」


楽しそうにギターを弾きながら、不思議なメロディーを口ずさんでいる速水君を置いて、私は1人で帰ろうとした。


しかし、彼は私を見るなり「あっ、待ってよ野崎さん!」と言って追いかけてきた。


「…何?ついてこないでよ。」


「一緒に帰ろうよ!」


速水君は、まるでご主人様に甘えてしっぽを振る犬のように素早く近寄ってくると、そう言った。


「何で、私が初めて下校を共にする男子がアンタなのよ!」


「気にしない気にしない。」


「こっちは気にするの!」


しかし、速水君は嬉しそうに目を細めて道を歩いている。…何を言っても無駄だと思った。



帰り道、絵になりそうな身長差の影が2つ、並んでいる。



「なんでアンタは、そんなに軽音部に入りたいの?」


私は、素朴な疑問を投げかける。


「あれぇ~?僕に興味湧いてきたのぉ~?」


ニヤニヤする速水君に、私はイラッとした。


「何でそうなるのよッ!」


そうして歩いていると、彼が足を止めた。


「僕の家は桜ヶ丘5丁目だから、ここで曲がるね。」


「あぁ、そう。」


私の家は、桜ヶ丘3丁目だ。そう遠くない距離である。


「僕、最近転校してきたんだ。だから、まだ友達っていなくて。


…また、明日!」


少し切なそうな顔をして、彼は手を振る。


「ハイハイ。」


私も、手を振り返す。




――春風、ふわり。風に舞った桜の花びらが、私の顔にひらひらと落ちてきた。


それはきっと、春の始まり。


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