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あの頃のメロディ  作者: 星利
1.<ひらひら、ひらり>
2/19

月夜のまどろみ



「お母さん、メロディがいないよ!」


それは、高校の入学式前日のこと。小学生の頃から飼っていた、捨て猫の"メロディ"が失踪したのだ。


「えぇ?お散歩じゃない?」


のんきなお母さんの返事。私はそれを無視し、思わず玄関を飛び出した。


そして、必死に駆け回る。――大好きな友達である、メロディを探して。



「メロディ、…メロディ!


どこ、どこなの?」



息を切らしながら駆けていくのは、メロディが気まぐれによく散歩していた道。


今回ばかりはどこか嫌な予感がしたので、私は気が気でなかった。


…何故って、メロディは数日前に大けがをして弱っていたのだ。


数日前、5羽ほどの大きな漆黒のカラスについばまれたメロディを見つけた時は、頭が真っ白になった。私はとっさに、落ちていた木の枝を拾い、カラスめがけて振りかざしたのだった。


「えぇい!どっか行きなさい、このっ!」


バッサバッサバッサ…


逃げていく、黒く不気味なカラスの集団に取り残されたメロディは、全身血みどろだった。



そうして自宅療養中の身となったメロディが、いない。



「猫は、自分の死に目を飼い主に見せないんだって。」


中学生の時、誰かが言っていた言葉が頭をよぎり、恐怖を際立たせる。


ブン、ブンと頭を振ってそれを追い出す。



次に私の脳裏に浮かんだのは、今まで一緒に居たメロディの姿だった。


――朝起きた時、窓から差し込んだ木漏れ日の中、眠そうにあくびしていた姿。


学校から帰宅した時、夕日の中で優しく出迎えてくれた姿。


そして寝る前、月明かりに照らされながら微睡んでいた姿――。



「メロディ、一体どこに行ってしまったの?」


涙をこらえて星空を見上げると、あの日と同じような満月が笑っている。


あの日、――メロディを拾った日も、こんな夜だった。


親を説得させる私の横で、メロディの深い碧色の目が月を映していたっけ。


――それは、この世の理を全て知っているかのような、優しい憂い。



◇◆◇◆


そんなことを考えていると、近くの星空公園に着いた。


何やら、ぼんやりと人影が見える。


(だ、誰かいる…?)



「やぁ、こんばんは。」


「え、…」


だんだん近付いてくるその人影は、ぽつりと立っている街灯に照らされ、姿を現した。


夜風になびいている金髪。細身ですらりと高い背丈。鼻が高く、ぱっちりと大きな目の、端正な顔つき。そして全身から漂っている、ミステリアスな雰囲気。


「奇遇だね、野崎(のざき) 花澄(かすみ)さん。」


「な、何で私の名前…!」


「さぁ、何ででしょう。」


彼は、イタズラをした子供のような笑みを浮かべ、少し高貴に笑った。


長いまつげに囲まれ、月のように不思議な光をたたえた目を、ぱちくりさせている。



そして、こちらを見つめた。


「な、何ですか…?」


人に見つめられるのが苦手な私は、サッと目を逸らした。


フッと笑った彼は、悪戯な笑みを浮かべて言う。


「今夜は、月が綺麗ですね。」


「は、はぁ…。」



確かに、今日は満月がとても綺麗だ。


だから、私も同じことを言おうとした。


「今夜は、月が…」


すると、彼は慌てて私の唇に人差し指を当てた。


「しぃっ!」


(い、いきなり何?!)


「それは、とっておかなくちゃいけない台詞だよ、レディ。」


「……?」


私は、きょとんとして首を傾げた。


「やれやれ。」


その男子は、呆れたように両腕を広げた。


「まったく、キミは文学のひとつも読まないのかい?ちょっとは勉強した方がいいよ。じゃ、僕はこれで。」


そう言い残すと、片手をサッと上げ、どこかへ去っていった。


「なっ、何なのよ、アイツ!」


1人ポツンと闇の中に残された私は、ムカムカしていた。


「な~にが、"ちょっとは勉強した方がいいよ"だ、コノヤロー!


あんな金髪のチャラ男に言われたくないわ!」



ドスドスと足を踏み鳴らし、私は家へ帰った。


1人、困惑して憤怒する乙女の姿を、月が二タッと笑いながら見ていた。



◇◆◇◆


その日は、寝床についてもなかなか眠ることができなかった。


何故なら、いなくなってしまったメロディのことを考えると、胸がザワザワして怖くなったからだ。


しかし、テレビを見ているうちにいつの間にか微睡んでいたようだ。



――夢を見た。


黒い猫と黒い羽根が、スローモーションのようにただ舞っていた。


そこには、他に何もなかった。ただ、悲しみの感情に胸を(えぐ)られる痛みと、脳裏を走る得体の知れぬ衝撃が繰り返された。


起きても起きても覚めない夢。


…そんな夢だった。

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