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あの頃のメロディ  作者: 星利
3.<ゆらり、寂寞>
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揺れるオレンジ


ひたすら窓辺を眺めて、色付いた葉を数えながらぼんやりしていた時だった。


「野崎さん。」


何者かに呼ばれ、ハッとして前を見る。すると、そこには沢下君が立っていた。


「あ、…っ、えっと、黒田さんに悪いから私、帰るね!」


心にもないことを言ってその場を後にしようとした時、肩を優しくつかんで引き留められた。


「待って。…それに、黒田さん?あいつと俺に何の関係があるんだ?」


「えっ?」


「ま、とりあえず座って。足痛めない為にも。」


「う、うん…。」


沢下君は、私の前の席に座った。こちらを振り返り、自ずと近くなる顔にドキッとする。


「野崎さんって、普段何してるの?」


予想外の質問に目を丸くする。沢下君は、相変わらずニコッと笑っている。


「えっと、…読書とか、音楽聞いたり、とか…?あと、写真も好きで、早く大学生になって、バイトして一眼レフカメラを買うのが夢なの。」


私の目を一瞬じっと見てから、彼は目を逸らして穏やかな口調で言った。


「へぇー!どれも素敵だけど、カメラは俺も好きだよ。でも、一眼レフカメラって、高いよな。俺、いとこのおさがりなら持ってるよ。」


「へぇ!いいなぁ~!」


それにしても、なぜ私は放課後の教室で沢下君と会話しているのだろうか。


「いや、わりぃ。忘れ物取りに来たら、野崎さんがいたもんだから、つい。」


照れ笑いする沢下君も、素敵だ。彼は続ける。


「そういや、野崎さん大丈夫?黒田さんと速水が付き合い始めたって聞いたけど、野崎さん速水と付き合ってなかったっけ?」


「へ?!」


2つの意味で衝撃的。まず、私と速水君は付き合ってると思われてたの?それに、あの2人が付き合い始めたって…。


「それ、誰に聞いたの?」


「あぁ、黒田さんと速水の話は、速水本人から聞いた。あいつクラスで言いふらしてるよ。野崎さんとの関係は、誰だったっけ…。多分、憶測に過ぎないけど。」


…そうか、速水君の"好きな人"って、黒田さんだったんだ。


その時湧いた感情の名前は、まだ分からない。


どんよりと1人、帰ろうとした時だった。


「良かったら明日の文化祭、一緒に回ろうぜ?」


それだけ言い残すと、沢下君は廊下をタタッと走っていった。


「え…?」


もう、感情が追い付かない。確かに、沢下君にそんなことを言ってもらえるなんて嬉しい。…けれど、私は一体、誰が好きなのだろう?


◇◆◇◆


帰宅し、日記をつけていると、今日起こったことがまだ信じられずにいる。


「黒田さんと速水君が、付き合ったそうだ。」なんて書きたくない。


今までの速水君との思い出が、走馬灯のように頭の中を駆けていく。


日記のページをめくると、そこにはいつだって速水君がいた。



「今夜は、月が綺麗ですね。」「それは、とっておかなくちゃいけない台詞だよ、レディ。」初めて出会った日、月明かりの下で高貴に笑っていた姿。


「この僕が、他の女の子の誘いを断って来てるんだぜ?」「あれぇ~?僕に興味湧いてきたのぉ~?」少し意地悪に笑っている顔。


「の~ざきさん、友達作るチャンスだよ★」と煽りながらも心配してくれていたこと。


「僕、この風の匂い、好きだな。初夏を運んでくる、風の匂い。」両手を広げ、くるくると回ってみせたこと。


「僕、好きな人いるしね。」とウインクしていたこと。


「さっきまで雨が降っていたから、ペトリコールとジオスミンを感じられたかな?」とよく分からないことを言って困らせてきたこと。


「浴衣、よく似合ってるよ。」「"分け合った"って言ってよ。」花火大会で、いつもと少し違う大人な雰囲気に見えたこと。


――そして、「ごめんね、沢下じゃなくて。…もう、帰ろっか。僕は、ここで。」哀しそうな目をしてクシャっと笑い、去っていく背中。



何で、こんな近くで優しくしてくれたのに、気付かなかったのだろう。


それでも、私はずっと沢下君だけを見てきた。その沢下君には、明日文化祭を一緒に回るのに誘われているのだから、いいじゃない。そう言い聞かせる。


自分がこんなに葛藤していることさえ、疎ましい。


きっと、全て"ないものねだり"なのだろう。



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