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あの頃のメロディ  作者: 星利
3.<ゆらり、寂寞>
16/19

あの日の君の笑顔


その日中に意識を取り戻した私は、3日で退院することができた。切り傷は深かったものの、足首については捻挫で済んだので良かった。


あの後、中学の部活の友達である楓と日菜子がお見舞いに来てくれた。



4日ぶりに登校すると、クラスの雰囲気が少し変わっているようだ。そう感じた要因は主に3つ。


1つ目は、また自分はクラスで孤立してしまったということ。今まで挨拶を交わしていた真由ちゃんや梨華ちゃん達には、"裏切り者"とされている為、もうお互い無視だ。


2つ目に、手足を包帯でぐるぐる巻きにされた状態の私は、浮いてしまうということ。騒動を知らなかった人達にまで、噂が広がっていく。


3つ目は、…速水君が、「野崎さん、一緒に帰ろう!」という風に話しかけてこないこと。花火大会の時に、あんな冷たい態度を取ってしまったのだから、嫌われて当然、か…。


ガクン、と肩を落とす。自分に懐き、しっぽを振りながら寄ってきていた野良犬が、ある日そっぽを向いてこちらに来てくれなくなった気分、といってしまえば失礼だけど。


彼は、ガリ勉眼鏡・勉志(べんし) (まなぶ)…(通称"べっしー")君と楽しそうに喋っている。


"大丈夫、孤独には慣れているはずよ、花澄。"と自分に言い聞かせる。


◇◆◇◆


さて、最近は毎日の放課後が文化祭準備の時間だ。文化祭は、2学期の前半に行われるので、もうすぐだ。


1年生は、仮装ダンスを行う。捻挫していてあまり踊れそうにない私は、カカシ役になった。


新選組の面子が並ぶ中、黒いカカシが1人立っているという配置。(木の役とか、石の役とか、もっとマシなのなかったのかしら…。)


そして、曲に合わせて、一時期流行った"鯉ダンス"とやらを踊る。(これ、思ってたより難しいわね…。)



足が痛くてほとんど見学している私は、文化祭準備期間を何となく過ごしてしまっていた。


その日の練習が終わった後、私が相変わらずぼうっとしていたので、海乃ちゃんが近寄ってきた。


「花澄ちゃん~、練習、終わったよ~?」


「…う、うん!」


声をかけてくれただけかと思いきや、離れる様子もない彼女は、続けて話しかけてきた。


「花澄ちゃん、この前は散々だったねぇ。」


私は、「あぁ、…」と言ってからハハッと笑う。


「あたしさ、花澄ちゃんを尊敬してるんだ。」


遠い目をしている海乃ちゃん。予想外の言葉である。


「へ?」


「実は、あたしもさ、クラスの女子あまり好きじゃなくって。特別仲良い人だっていないんだ。だから、休み時間はいつも、他のクラスにいる部活の友達のところに行ってるんだ~。」


「そ、そうだったんだ!」


「うん。だから、友達の為を想ってあれだけガツンと言える花澄ちゃんを凄いって思ったっていうか…。」


教室に着いたので、振り返って彼女は微笑む。


「寂しかったりしたら、いつでもあたしのところに来てね~。待ってるよ~!」


長い黒髪のポニーテールが、夕日に揺れていた。



◇◆◇◆


10月1日、文化祭当日の朝、学校へ向かうと、文化祭モード一色の学校。


校長のありがたい話と、副校長のありがたい話と、文化祭実行委員の人達の熱意ある開会宣言が終わった。


最初のプログラムは、いきなり1年生の仮装ダンスである。


『え~、1組のテーマは、「プリンセスとプリン」です。』という放送が流れ、ざわめく会場。


女子だけでなく男子も煌びやかなドレスを着て、プリンセスになりきっている。


その中に、黄色い胴体、頭に茶色のヌメヌメした液体を被った物体がいる。それは、1人だけピョコピョコと飛び跳ねている。


…"プリン"だ。


プリンセス達の、プリンをめぐった、仁義なき戦い。(食べ物の恨みは怖いからね。)



続いて2組は、「サーヴァント×マスター」。これは、1人のマスターがガチャによってあらゆる英雄の召使い(サーヴァント)を召喚して仲間にし、勝ち進んでいくという某RPGのパクリらしい。英雄の格好をした大勢と、比較的普通の格好をしたマスター。


「オィ、課金したのに星3礼装しか出ないじゃないか。何だこのゴミガチャ。


もういい、最後の10連だ。…あぁぁ!爆死したぁぁ!」


("ガチャ"って、何かしら?)



次は、いよいよ我らが3組だ。出陣じゃ~!


♪チャーチャチャラララ~ チャーチャチャラララ~


大正ロマンのようなオシャレなイントロが流れ、私のクラスメイト達は皆、"鯉ダンス"をしている。


「……。」


私だけ、黒いカカシの役なので、直立不動している。


「ママぁ、あれ、なぁに?」と、子連れのちびっ子に指を差されている私。


「さぁ、新しい忍者じゃない?新選組だし。」と答えるお母さん。


(言ってることがよく分からないが、私だけ動かないから逆に目立っちゃうじゃない!)


そう感じた私は、出来る範囲で動くことにした。


両手を広げ、トッ トッ トッと、ぎこちなく回転している。


「ママぁ、あのカカシ、トトロの雨ごいしてるよ!」


「見ちゃいけません!」



「……。」(はぁ、疲れた…。やっと終わったわ…!)



続いて4組は、「メンヘラ彼氏とヤンデレ彼女」。美男美女が主役を演じ、後ろの人達は皆、黒い仮面を被って踊っている。(結構ダークね…。)


メンヘラ彼氏「他の男の連絡先消せよ。」

ヤンデレ彼女「ねぇ、…どうして分かってくれないの?そうやって不安そうなあなたの目が好き。壊したくなっちゃうわ。」

メンヘラ彼氏「本当に俺のこと、愛してるの?もう、分からなくなっちゃったよ。」

ヤンデレ彼女「へぇ…、そんなこと言うんだ。キエテ?私の腕の中で死んで?大丈夫よ、すぐに後を追うから…。」


そして、ヤンデレ彼女は包丁を振り回している。後ろの黒い仮面達が、サイコな歌を合唱している。


メンヘラ彼氏「君に刺されるなら、本望だよ。」

ヤンデレ彼女「生まれ変わっても、ずっとずっと一緒ね…?」



ザワザワ…


(4組、大丈夫かしら…。心配だわ…。)



5組は、普通過ぎた。テーマは「Trick(トリック) or(オア) Treat(トリート)?」で、普通にハロウィンの仮装をし、それっぽい曲で踊っている。(うん、珍しくまともなクラスね!)



ラスト6組は「パリピ vs. オタク」である。(…うん、もう解説はいらないわね。)


簡単に言っとくと、パリピとぶつかってしまったオタクが、「助けてボクの女神様!」と叫ぶと某2次元アイドルのアニメ曲が流れてきて、オタ芸を始める。その曲に、自分たちのパリピダンスも合うのではないかと気づいたパリピ達がそれに加わって踊り出し、最後には皆で「我らの新・境・地!」と叫んで終わりである。(めでたし、めでたし。)



仮装ダンスが一通り終わったので、一旦早めの昼ご飯休憩だ。教室の端っこで、弁当をつつく。


でも、海乃ちゃんのひとことは思いかけず嬉しかったので、これからも忘れないだろう。


◇◆◇◆


午後は、体育館に移動して3年生の劇を鑑賞する時間だ。


体育館に並べられた長椅子に座り、しばらくすると劇開始のブザーが鳴り響いた。


「えー、これより3年生の劇を始めます。司会をさせていただくのは…」


さっきまでザワザワしていたのに、一瞬にして音が消えていく空間。


その時、気付いてしまった。…ちょうど前の席に座っているのが、沢下君であるということに。あの黒髪高身長爽やか男子は、彼以外の何者でもない。


すると、前の席で劇を見ている沢下君が振り返り、ニコッと笑いかけてきた。不意にトクン、と脈打つ心臓。


(な、何で…?)


その後もちょくちょく彼と目が合ったので、ドキドキしてうわの空で、劇の内容が頭に入ってこなかった。


彼は、何だか気恥ずかしそうにしていた。


結局、集中できず何の劇か分からないまま、6クラス分終わってしまった。魔法使いのファンタジーや、戦争な話など、コミカルからシリアスまであったらしい。(来年は、真剣に観よう…。)


明日は、2年生の模擬店や各部活の催し物である。


教室に帰った私は、机に置かれた"文化祭の感想用紙"に絶望する。劇の欄には適当に、「すごいと思った。」と書いておいた。(3年生、ごめんなさい…。)


他の人達は、感想を早々と書き終わり次々に帰宅していく。とうとう、教室に残ったのは私1人になってしまった。やっと書き終え、先生に用紙を提出する。


「ご苦労、…ん?」


私の書いた内容に首を傾げながら、教室を出て行く先生。



放課後の教室で1人、私は頬杖をついて考えに耽っていた。やっぱり、笑顔というものは特別で、何か魔力を秘めているように思う。


いつの日かの秋子ちゃんの笑顔、優しい沢下君の笑顔、そして最近一切関わっていない速水君の笑顔、そして海乃ちゃんの笑顔が順に頭を(めぐ)っては、消えていく。

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