罪と罰
新学期が始まり登校すると、梨華ちゃん達のグループに挨拶され、しぶしぶ「お、おはよう。」と返す。
すると、ガラッと教室のドアが開き、真由ちゃんが入ってきた。
「あ、真由、おはよ!
…って、髪切ってる!」
胸より長かった髪がショートボブになっているので、ザワザワしている教室内。
「うん、…振られちった。」
彼女は、切なそうに笑ってみせた。
「あー、まじか…。」
言葉を失っている梨華ちゃん。そこに、ひかるちゃんが来て、真由ちゃんを励ます。
「真由だったら、すぐ彼氏ぐらいできるって!」
ぐすっ、と涙ぐみながら、真由ちゃんは言った。
「やっぱ剛力君は、まだ黒田さんのことが好きらしい。」
その言葉を聞いたひかるちゃん、そしてギャルグループに属さないクラスの女子10名ほどが、声を合わせて叫ぶ。
「あんの、ビッチ黒田ぁ~!」
その時、黒田さんと沢下君が一緒に教室に入ってきた。
…
……
一瞬静まり返ってから、ザワザワと教室に流れる不穏な空気。
そして、ひかるちゃんが口火を切った。
「え、待って。沢下君と2人っきりで夢花行ってたのって、黒田さんだよね?どういう関係?
…さすが、ビッチ。」
そのイヤミを聞いた黒田さんが、席を立ってこちらに迫って来る。
「なぁ、なんやて?もう1回、言うてみ?」
(…凄い迫力だわ…!)
「な、何も言ってないし!
真由、トイレ行こっ。」
怖気づいたひかるちゃんは、真由ちゃんを連れて逃げるように教室を出て行った。
残された中で気の強い梨華ちゃんが、黒田さんにキツく言い放つ。
「なぁ、アンタ。真由や花澄ちゃんの気持ちもちょっとは考えなよ。
…サイッテー。
整形でもしなきゃ、男子から見向きもされなかったくせに!」
「黙れ!」
黒田さんは今にも殴りかかりそうだが、それを無視して梨華ちゃんは続ける。
「子供がアンタみたいなのだから、きっとアンタの両親は…」
梨華ちゃんが全て言い終わる前に、私の口は勝手に動いていた。
「黒田さん…"田中 秋子"ちゃんは、悪くない!
家庭のことにまで首を突っ込んで悪口言うなんて、謝りなよ、秋子ちゃんに。」
「…は?」
目を見開いて突っ立っている梨華ちゃん。
しかし次の瞬間、私は黒田さんの腕で、思い切り教室の窓に押し付けられていた。
ドン!
「その名前で、呼ぶんじゃねぇ!
…お前のせいで、あたしは地獄に落ちたんや!」
そう叫ぶ黒田さんに、思いっきり胸倉を掴まれて、突き飛ばされた。
「…?!」
ガッシャーーン!
次の瞬間には、割れた窓ガラスと共に、私は宙に浮いていた。
(一体、どうなってるの?)
訳が分からないまま、私の体はコンクリートに叩きつけられ、そのまま視界が真っ暗になった。
◇◆◇◆
何も見えない、真っ暗な世界に浮かんでいる。いくらまばたきしても、そこが闇の世界であることに変わりはない。
ただ、怖くて、孤独で、悲しくて。どれくらい時間が経っただろう。パチッと目が開いた。
◇◆◇◆
そこは、病院の白いベットの上。おそらく昼下がりの時間帯だろう。病院の窓から優しい光が差し込み、ぽかぽかとした優しい空間が広がっている。
(でも、何で病院?)
周りを見渡すと、ベッドの横に立っていたのはお母さんだった。
「良かった、花澄!いきなり学校から会社に連絡が来て、びっくりしたわよ。
なんでも、2階の教室の窓から転落したって。
でも、捻挫で済んだみたいで、本当に良かった。」
胸を撫で下ろしているお母さん。
「あき、こちゃんは…?」
おぼろげな意識の中で、かつての親友の名前を呼ぶ。
「秋子ちゃん?」
そこにいた者一同、首を傾げた。
「そんなことより、朗報よ。
離婚した父さんが、近々家を出て行くことになったの。」
目を輝かせているお母さん。
「そうなの…?…それにしても何でいきなり?」
「父さんは、きっと自分のせいで花澄が自殺しようとしたとでも思っているのよ。」
「えっ?」
その時、教室のドアが開いておじさんが入ってきた。しかし、私の顔を見るなり、一言吐いて出て行った。
「…手間かけんな!」
「ちょっと!あなた、それはないでしょう!」
ドタドタとおじさんの後を追う、お母さん。
「…ハハッ…。」
最後まで、酷い人だったな…。だけど、心のどこかにぽっかり穴が開いたようだ。
ぼんやりと私の脳裏に浮かぶのは、いつかの優しかったお父さんの姿。
心のどこかで、あの優しいお父さんを探していた。
けれど、あの人は、私の知らないお父さん――おじさんだ。
罪には、相応の罰…、か。




