夏の終わりは黄昏を運んで
「い、生きてる…?!」
ゆっくりと目を開けると、細身だがしっかりした筋肉質の腕に抱えられ、私は歩道に倒れ込んでいた。
――そこでまた、期待してしまった私は最低だ。
そこにいたのは、速水君だった。
「やぁ、…無事で良かった…。立てる?」
彼は、命がけで私を救ってくれたのだ。それなのに、私の口から出た言葉は絶対零度のもの。
「な~んだ…。彼じゃなかった。」
私の言葉を聞くなり、速水君の目が少し冷たさを帯びた気がした。しかし次の瞬間には、顔をクシャっとさせて笑う。
「ごめんね、沢下じゃなくて。…もう、帰ろっか。僕は、ここで。」
返事を待たず、よろめきながら、速水君は闇夜の向こうへと消えていってしまった。
「私の、バカ…。普通、そこは"ありがとう"でしょ…。」
何故、速水君がそれほど私に優しくしてくれるのか未だに分からない。けれども、今までずっと親切にしてくれたのに、私はいつだって冷たくあしらってきた。
「ごめん、なさい…。」
そうして、今年の花火大会は終わった。花火大会が終わると、急速に夏の終わりへと向かっていくように感じる。
あれだけ暑かった毎日が、少し涼しさを帯びていく。蝉の声から、だんだん鈴虫の声へと変わっていく。
「今年の夏は、花火大会以外ほとんど1人だったな…。」
私は図書館の窓際で頬杖をつきながら、沈んでいく夕日をぼんやりと眺めていた。
あれは、何だったのだろう。
――「ケガとかない?」と微笑んで、手を差し出してくれた沢下君。
私の席にたむろいているヤンキーグループを追い払い、「野崎さん、おはよう。」と爽やかに挨拶してくれた姿。
「試合とか出るから、また観に来いよ!」と言いながらニコッとしていたこと。
それから、…「の~ざきさん♪」と、おせっかいだけれど優しく接してくれた速水君――。
一体、何だったのか。全ての出来事は、私の妄想に過ぎず、泡沫の夢だったのだろうか?
いや、でも…。速水君が私の髪飾りにそっと触れた時の感触と、残る微熱。そして、黒田さんと沢下君を見かけた時の心のざわめきは、痛いほど残っている。…ずっと、消えない――。
速水君に関しては自分のせいだし、沢下君に関しては秋子ちゃんの幸せだと考えると…。
「あぁ…。」
窓の外では、沈んでいく夕日を背景に、田んぼ道を電車が走っていく。
――そんな、懺悔と虚無感に溢れた、夏の終わり。
季節の移ろいに心を痛める日々を越え、やがて2学期の始業式を迎える。
そして、事件は起こった。




