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あの頃のメロディ  作者: 星利
2.<青い春の日>
13/19

夏空に降る虹の雨


嵐は、しばらく静かに耐えていると通り過ぎていった。


(やっと、晴れ間が覗いた…!)


久しぶりに見る青空。


ミーンミンミンミン…


響き渡る蝉の声に、暑さが増していく。



家での騒動から2週間。期末テストも終わった。


どの教科も、平均点以上取れたので問題ない。


テスト返しも終わり、いよいよ夏休みである。



いつものように速水君と帰っていると、真由ちゃんからLINDのグループにトークが送られてきた。


"みんな、聞いて聞いてー!


真由、花火大会に剛力君を誘うことに成功した!


嬉しー♡"


私は、適当に猫のスタンプを送っておいた。


あの日から私は、彼女達に話しかけられても適当に返事をしてしまっていた。黒田さん…秋子ちゃんの悪口を言う彼女達に、どう接したらよいのか分からなくなってしまったのだ。



「ときに、野崎さん。」


速水君が、何かをひらめいたように口を開いた。


「何?」


「さっきまで雨が降っていたから、ペトリコールとジオスミンを感じられたかな?」


「ちょっと、何言ってるか分からないんだけど。」


「ときに、野崎さん。」


「だから何よ!」


すると速水君はわざとらしくコホンと咳をしてから、改まった顔をしてこちらを見た。


夢花(ゆめはな)って、知っているかな?」


「知ってるけど、何よ。」


夢花とは、ここ・夢丘で毎年8月16日に行われる花火大会である。


「僕、花火は好きなんだけど、1人で見るのはちょっと寂しいな。」


「あら、そう。じゃあ、ぬいぐるみでも連れて行けば?」


「そうじゃないんだ…。…良ければ、野崎さん。僕と一緒に行きませんか?


…嫌なら、大丈夫だけど。」


(何で、私なのよ…。)


けれど、他に行く人もいない。沢下君だって、ほとんど喋ったことがないのに、こちらからいきなり誘うなんて無理そうだ。最近は黒田さんと仲良さそうだし…。


中学の部活の友達を誘おうかな…。


「うーん、ちょっと考えていい?」


「もちろん!でも、前日までには教えてよ?」


「はいはい。」



◇◆◇◆


そして、来たる前日。


それまでの間、私は家の近所にある図書館の住民になっていた。読書したり、勉強したりしていたのだ。宿題はもう終わらせた。


中学の部活の友達2人にLINDを送ってみると、どちらも高校の友達と行くことが分かった。


(こうやって、昔の友達との縁は遠くなっていっちゃうのかな…。)


"花澄は、誰と行くの?"と訊かれたので悩んでいることを打ち明けると、"えっ、まさかの男?!"、"あの花澄が??"と茶化されたので恥ずかしくなった。


もう他に誘うあてがないし、別に断る理由もないので、速水君と夢花に行くことにした。


◇◆◇◆


8月16日の夜、私は待ち合わせの神社の境内に1人、佇んでいる。


一応、浴衣を着てきた。…というか、着せられた。


紺色の生地に、赤とピンク、白の花柄の浴衣だ。お母さんに「誰と行くの?」と訊かれ、「クラスの男子」と答えると、1人で舞い上がって、おさがりの浴衣をくれたのだ。


髪の毛も、ボブの黒髪に編み込みを入れてくれた。



何だか、異性との待ち合わせに気恥ずかしいものを感じるのは私だけだろうか?


「やぁ!ごめん、待った?


僕、あっちの方で待ってたんだ。」


急いで駆け寄ってくる速水君。彼は、黒い浴衣を着ている。全身黒ずくめのスタイルの中で色白の肌が目立っている様子は、何だか神々(こうごう)しい。


「浴衣、よく似合ってるよ。」


「…!」


揺れている私の髪飾りに、速水君の細くて綺麗な指がそっと触れた。


(んもー、慣れすぎ…。)


「はいはい、行くわよ!」


…まったく。男慣れしていない私にとって、速水君のさりげない言動は心臓に悪い。



カラン、カランと2人の足音が鳴り響く、闇の中。


少し歩いていったところに、ぼんやりと明かりが灯っている。…屋台だ。



「野崎さん、どこか見たいところある?


僕は、キミの見たいところに行くよ。レディーファーストだからね♪」


(紳士か!)


「うーん、そうね…。


じゃあ、ヨーヨー釣りしましょう。」


「OK。」


水に浮かぶ、赤、黄、白、ピンク、緑、青と色とりどりのヨーヨーの群れは、屋台の怪しげな消えかけの光に照らされて、幻想的だ。


その後私達は、たこせん、唐揚げ、ポテト、りんご飴、お面、わたあめの屋台を巡った。


「あ、焼きそばも食べたいな!」


焼きそばの屋台に駆け寄る私に、速水君が弱音を吐く。


「野崎さん、まだ食べるの?僕、もうお腹いっぱいだよ。」


「あー、言うの遅い!もう2人分買っちゃったよ。」


私の手のひらに、300円の焼きそば代を並べながら、彼は言う。


「お願い、野崎さん。残り食べて?


僕、こう見えて小食なんだよ。」


「何なの!それぐらい食べなさいよ、男でしょ!


残りを食べさせられる私の身にもなってちょうだい。」


「"分け合った"って言ってよ。」


ギャアギャア言い合う私達の前を通りかかったちびっこ集団が、指をさして叫ぶ。


「あ~、カップルだ~!」


「違わい!!」


鬼の形相で否定した私を見て、彼らはキャッキャッと楽しそうに逃げていく。


「もうすぐ、花火が始まるね。」


チラっと腕時計を確認した速水君。


「えー、見るの?」


初めて花火を一緒に見る異性が、速水君だなんて気乗りしない。


「ここまで来たんだから、見ていこうよ。」


「えー。」


しかしその瞬間、先を行こうとした彼がいきなりUターンした。


「もう、帰ろっか。」


「はい?」


(いきなり、どうしたのよ。)


そう思って前を見ると、目の前にはショッキングな光景が広がっていた。


あそこにいるのは、――黒田さんと、沢下君…!


しかも仲良さそうに、笑い合っている。



「……。」


「あちゃー、見なかったことにしようか。」


そう言って励まそうとしてくれる速水君を無視して、私は反対方向にダダッと走り出した。



(もう、何なのよ!


皆、バカ!私のバカ!ちょっとでも期待なんてした私のバカ!もう知らない!)


涙があふれ、視界が曇ってきた。



夜空には、金色の花が咲き乱れ始めた。赤、ピンク、黄色、青と次々に続いていく。


バァン!ドォン、ドン!ドォォン、ドン、ドン!



闇の彼方まで続いている深い紺色の空に降る虹色の光たちは、まるで私の涙を拭う雨のようで。


それらは、傷だらけの私の心に染み入り、センチメンタルな気分を加速させてゆく。



走っていこうとした時だった。


「危ない!」


誰かが叫んだ。車道に出て、車に轢かれそうになったのだ。


「!」


その瞬間だった。


私は、追いついてきた誰かに抱きしめられて、歩道に倒れ込んだ。

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