初夏の風と帰り道
カラオケオールの日から1ヶ月が過ぎ、期末テスト1週間前になった。
あれは5月末だったので、今は6月末である。
この1ヶ月間、じめじめした梅雨と共に私の気持ちが晴れることはなかった。
なぜなら、あの日から沢下君と黒田さんが、たまに楽しそうに話している姿を見かけたからだ。
きっと、LINDのメッセージをやり取りして、仲が深まっているのだろう。
そんな金曜日の帰り道。いつものように、速水君が隣を歩いている。
「ねぇ、野崎さん。もうすぐ、夏がやって来るね。」
「…そうね。来週から衣替えだし。」
「僕、この風の匂い、好きだな。
初夏を運んでくる、風の匂い。」
そう言いながら、両手を広げ、くるくると回ってみせる速水君。
(まったく、人の気も知らないでのんきね…。)
すると、私のスマホが"ピロン♪"と音を立てた。
そこには、"森下 真由"の文字。真由ちゃんからのLINDだ。
"やっほー、花澄ちゃん!♡
いきなりやねんけど、明日って空いてる?
良かったらうちの家で勉強会しーひん?
カラオケで言ってたメンバーで(笑)"
(おっ、きた!何だか、嬉しいな。)
私は、すぐさま返信した。
"もちろん!"
「なに、なに?
誰からかな?」
興味津々に私のスマホを覗き込んでくる速水君。
「友達よ。」
私は、満更でもない顔をして答えた。
真由ちゃんや梨華ちゃん、海乃ちゃん達とは挨拶を交わすようになった。
昼休みも、"いつメン"までとはいかずとも、たまに話に入れてもらったり、持ってきたお菓子をシェアしたりしている。
「ふーん、いいなぁ。
野崎さんって、少し変わったよね。」
少し拗ねたように口を尖らせながら、速水君はボソリと呟く。
「良かったね。
…"あの頃"より、楽しめているようで。」
(…え?)
何か心に引っかかったが、次の瞬間には忘れてしまった。
「速水君は、友達とかどうなの?」
「あぁ、僕かぁ。
男の子の友達は何人かできたよ。
あと、何人かの女の子に告白はされたけど、女の子で仲いいのは、今のところ野崎さんだけかな。」
(やっぱり、モテるのね…!)
「告白されたのに、付き合わないの?」
彼に、素朴な疑問をぶつける。
「うん。
僕、好きな人いるしね。」
そう言って速水君は、ウインクした。
そんな2人の間を、初夏の風が吹き抜けていった。
そこに広がっているのは、住宅街から少し離れた夏草の道、鮮やかな新緑、そして、青い空であった――。




