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なに笑ってんの?と蛍が言う。
ごめんね、思い出すと笑わずにいられないわ。だってあなたのあのファッション…
どこから買ってきたの?ってようなコピー商品見たいなアメコミキャラが描かれたTシャツにダメージジーンズ。踵の減った合皮のミュール。正直全身トータルでも一万円いかなそうなファッション。その上ノーメイク。彼女の美貌なくしては欧米の学校だったらナード認定待った無し。って位。
あれから自己紹介が始まって、お世話になりますって渡されたクッキーの箱詰めといい、あぁ、この子は本当に“上京組”なんだなってある意味感動しちゃった。
お互い経済学とかの授業で顔を会わせるうちに仲良くなって。
「あの頃はまだ私絢香とも出会ってなかったんだよねー。どの新歓に顔だしても男子しか優しくしてくれなくてさー。
めっちゃヤな感じ。」
エスカレーター組の中では、蛍の整った容姿を持ってしてもダサいファッションセンスと金持ちそうでなさそうなオーラは打ち消せなかったらしい。
「叶がいつか私に服を貸してくれたよね。」
彼女が屈託なく話すのは私との思い出話ばかりで、芸能界の話は全くしない。
私自身が芸能界に興味無いっていうのもあるかもしれないけど。
出会ったばかりの頃は、私が貸してあげたワンピースとコスメに浮ついて、奢ってあげたパフェを感動のあまり写メりまくっていた彼女と、今や美容のために海外から美容サプリを取り寄せ炭酸水で顔を洗う彼女がブレたレンズのように私の中で焦点が定まらない。
「あの当時、次に悩み所になったのは少なすぎる仕送りとバイト先だったんだよね。」
ああ、どっかの偉人が言ってたっけ。見栄と驕慢は女を堕とすと。
ギチギチなスケジュールの中でどうやってバイトして尚且つ“リア充”な大学生活を送るかは、一部のエスカレーター組を除いて死活問題だった。
もちろん、蛍もその例の一つだ。
「絢香に会ってなかったら、この業界にもいないんだなー。私。なんかさ、出だしで叶、次に絢香、と神様が私がを導いてくれてるって感じ?」
酒が回った蛍は時々、テレビでは絶対に見せない切ない顔をする。
一瞬、ここが六本木の“あるお方”のマンションであることも、私の目の前にいるのが今をときめく芸能人であることも、私が社長令嬢の一条叶であることも忘れて…
時々、この蛍こと山野正美という女の内側にある感情を覗きたくてたまらなくなるのだ。
オーラや色気といった類のモノではない。何を考えているのかわからないような彼女の暗い目。
上京組の純朴な美少女と売れっ子女優の間になにがあったのか。