表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

バスケットボール

 相変わらず一方的な試合展開――。

 各運動部の部長やエース級を擁する二組女子相手に一組女子が敵う道理はなく俺ですらドン引きするレベルだった。

 「こいつぁ……ひでえ……」

 心の底から同情できる悲惨なその光景――。

 活気があり士気が高い二組女子に対して意気消沈したお通夜のような一組女子の姿。そのほとんどは壁にもたれ掛かって項垂れ、まるで大敗を喫した敗残兵のようではないか。

 それでもなお試合が続いているのはカオル君を筆頭に一部の運動部員が善戦しているからに他ならない。

 「痛ッ……」

 「高橋さん!」

 「ごめんなさい。足をくじいたみたい」

 一組の希望。女子バスケ部エースの高橋さんが保健室送りになるというアクシデントに動ける二人の運動部が付き添い、コート上に残されたのはカオル君ともう一人の女子だけ。

 かなり絶望的な状況。もはや試合を続ける事自体が困難な状態だった。

 「先生。一組はあんな状況なので、そろそろコールドゲームにしませんか?」

 堂々とした口調でそう進言するのは憎き敵軍総大将ハルカ。

 さすがは二組を牛耳ってる首領だけあって俺に不毛な恋愛相談しにきている時とは雰囲気がまるで違う。普段にも増して近寄り難い暴君としての空気を醸し出していた。

 「そうね……」

 五対二でバスケを続けるなんてことは不可能。

 それは誰の目からみても明らかなことだ。

 「ちょっと待って下さい。その前に一つ提案させてもらってもいいですか?」

 「青葉さん。提案もなにも一組の女子はあなた達二人を除いて他は立ってることも儘ならないほどの戦意喪失状態。その中から誰か三人を無理やりコートの上に立たせるというのは個人的にいかがなものかと思うのだけど?」

 どこか釈然としないがハルカが言ってることは正論。何も間違っちゃいない。

 無理に誰かをコートの上に立たせても結局はズタボロにされるだけ。

 だからと言ってカオル君が一人でも戦うと言ったところで教師は首を縦には振らないだろう。普通に考えて試合終了の場面だ。

 「一条さんの言ってることはもっともだけど、青葉さん。その提案とは?」

 「はい。助っ人を三人調達しようと思います」

 「助っ人……?」

 「たとえば、ほら、あそこで自分達の試合をそっちのけで女子の試合を覗き込んでいる男子とか」

 そう言って該当者と思しき人物を指差すカオル君。

 どうゆうわけか俺を指差している気がしないでもない。


 「へえ……」


 するとハルカがいやらしくもその口元を緩める。

 奴が何を考えているかは知ったことじゃないが、なんだかとても嫌な予感――。

 俺の直感は今すぐにでもこの場を離れるべきだと主張していた。

 「でも、男子生徒というのは……」

 「暇そうにしてるし、いいじゃありませんか。なんなら私が話をつけますよ」

 「先生。お願いします! どうしても最後まで試合がしたいんです!」

 「青葉さんと一条さんがそう言うのなら……」

 なんて押しの弱い先生なんだ。おかげで俺の立ち位置が危うくなってきた。

 逃げるにしても授業中に開錠してる体育館の出入り口は女子側の一ヶ所だけ。

 手招きするハルカに逆らったところで俺の未来は見え透いている。

 「へへ……なんでございましょうか?」

 どうやら遠藤と高林も俺と同じ結論に達したらしい。

 利口な我等はあくまで従順に徹した。

 「言わなくてもわかるよね?」

 「それはもう……へへへ」

 ここで知らぬ存ぜぬなどとほざけばバスケットボールが我々の顔面を直撃しただろう。それは火を見るよりも明らか。

 聡明な我らに誤魔化しなどという姑息な選択肢はなかった。

 「アンタ達三人、いやらしい目で私達を見てたよね?」

 「滅相もない! 我々は純粋に試合を見学していましたよ。本当です」    「ふーん……言い訳だけは一人前みたいだけど、負けたら罰ゲームだからね」

 「えっ? 罰ゲームとか聞いてないんですけど?」

 「当然でしょ? 本来なら覗きなんて気持ち悪いことしてる時点で女子全員で袋叩きにあってもおかしくないところだけど、私達に勝てば不問のチャンスをあげてるの。そうゆうわけで跪いて感謝しなさい」

 「そんな……僕達にメリットないじゃないですか……」

 「あぁん?」

 「いえ、なんでもないです……」

 本当に何なんだよこの女。それに頷く周囲の女子も女子だ。

 何も着替えを覗いたわけでもないのにケチケチしやがって……。

 こうゆう自意識過剰な女が世の中に蔓延るから男が肩身の狭い思いをするんだ。

 ……そうだ。これは世直しだ。

 俺達が歪んだ世の中に正義の鉄槌を下してやる。暴君死すべし。

 「じゃあさ」

 「青葉さん。まだ何か?」

 「メリットって言うならさ。一組が勝ったら僕がキスしてあげるよ。ご褒美」

 「なっ!? 正気なの……?」

 カオル君の言葉に狼狽する敵軍の女帝。

 しかし、そんなことは今の俺にとってどうでもいいことだ。

 それよりもあの暴君を葬れる方法を――……必要とあらば手段は問わない。

 「ねえ、どうかな? ……って、なんか桐原君だけ反応薄くない?」

 「ん……?」

 「ご褒美にキス」

 「ご褒美にキスか……キスね……キ、キスッ!? キスってぶちゅ~のやつ!?」

 「うん。ぶちゅ~のやつ。僕じゃ不服かな?」

 「とんでもない! 我ら命を懸けて勝利に貢献させていただく所存」

 「右に同じく」

 「左に同じく」

 俺に続きカオル君を主君と定め、跪く遠藤と高林――。

 今の我々の戦闘力は推定五十三万。ビッグバンを起こすことも容易い。

 これは数値上、第六天魔王ハルカに届く勢いである。

 「バッカじゃないの? 完膚無きまでに叩き潰してあげるわ」

 「フン、調子に乗るなよハルカ。我々一組の底力を見せてくれるわ!」

 「それは楽しみね。さぁて……罰ゲームはどうしようかしらね?」

 ドS丸出しの笑みを浮かべてポニーテイルを束ね直す敵軍の女帝。

 周囲にいる取り巻き連中は一様に蔑むような眼差しで俺達を見ている。

 言うなればこれは一組と二組の全面戦争。負けられない戦いがここにあった。

 「先生。得点を一旦リセットしてもらっていいですか?」

 「一条さんがそう言うなら……」

 圧倒的大差から振り出しに戻った得点板――。 

 それが暗に言い訳が通用しないことを示してるのは明らかだ。

 「私に大口叩いたんだからジャンプボールはもちろんアンタがするわよね?」

 「いいだろう受けて立とう」

 身長差だけでいうなら俺の方が有利――。

 審判の教師がボールを宙に投げると同時に俺とハルカは時を同じくして跳んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ