翼を持つものの宿命
小鳥を拾った。草の茂みにチイチイと小さな声を上げていた。まだ羽も生えきっておらず、ぱやぱやとしている。
そのままにしておいたら、猫や大きな鳥に襲われてしまうかも。そう思ったら、いつのまにか僕はハンカチでそっと小鳥を包んでいた。
「もとの場所に戻してきなさい」
帰るなり、母は厳しい声で僕に言う。両の手のひらの上で、小鳥はチイチイと元気な声を上げていた。
「巣から落ちちゃったんだよ、きっと。怪我をしてるかもしれないよ」
そんな可哀想な事をできない。僕は母を睨み付ける。
「もう随分大きくなっているじゃない。この子は飛ぶ練習をしていたの」
だから戻してきなさい、母はもう一度その言葉を口にした。
そんなこと、できっこない。
何度言っても分かってくれない。お母さんはこの子が可哀想じゃないのかな。
僕は母に連れられて、もとの場所にまで来てしまった。
「さ、戻してあげなさい」
包んでいたハンカチを嫌々広げる。ちょん、と小さな足を踏み出して、小鳥は草むらの中へと消えていった。
「鳥はね、飛ぶ練習をしないと飛べないの。親鳥に教えられて、何度も巣から落ちても、めげることなく飛ぼうとするのよ」
見てみなさい、と指差すほうに目を向けると、先程の小鳥が小さな翼を広げて飛び立った。少しだけ飛んではふらふらと着地し、また落ちそうになりながら羽ばたく。
「努力しているあの子を、可哀想だからと言って人間が簡単に手を出してはいけないの。そうしたらあの子が飛べなくなるでしょう?」
母の言葉に頷く。
僕は、あの子鳥の翼をもぎ取るところだった。
何度落ちようとも、大空へと飛び立とうとする小鳥。
――ちょっとだけ、見習おうかな。