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前回と同じく加筆修正分です。




「兄様?」

「うん、そう。実は僕、君が今までいた世界の神様ってやつでね」


 な に を 言 い 出 す 。


「信じてないね」


 思わず胡乱な目になったのは勘弁してほしい。


「ホントのことなのにぃ」


 ちょっとしょんぼりしたような声で言うが、その表情は見事に裏切っている。

 笑ってるんだよ。目がな。

 まぁ、ホントのことなんだろうけど。


「あ、信じてくれるんだね」


 と、いうか。


「猫が宙に浮いてありえないくらいに流暢にその口から人間の言葉話してできもしない体勢とってなおかつ人の心読んでるんだから信じないほうがどうかしてるでしょうよ」


 一言で言い切っても息切れもしやしねぇ。肉体持ってないってこういうとき便利なのね。


 私の言葉を聞いた猫は、前足でぱちぱちと拍手した。獣の前足でどうしてそんな音が出せる。


「だって音が出なきゃ間抜けじゃない?」


 心底どうでもいい。

 はよ、話進めてくれ。


「りょーかーい」


 この相手に限り、暴力は許されると思う。


「動物虐待は犯罪です」


 神様って言ったじゃん。



* * *



 その神様と名乗る猫によれば。

 神様というのは原初の存在が生まれ、その存在が自分と同じ存在を創り、その二柱の神の共同作業によって生まれてくるらしい。地球の神話とかと変わらないのだなと思いきや、地球の神様の存在はその原初の存在の模倣なんだそうな。彼――オスだった――はその中でも末っ子(今のところはという注釈付)だそうだ。

 原初の存在が造り出した神様たちは、皆ひとつずつ世界を創って管理している。同じ世界はひとつとしてなく、それぞれの興味の赴くまま(要するに趣味の世界だね、といい笑顔で言い切られた)に。彼が創った地球を含む世界は、当然だがいちばん歴史の浅い世界であり、いろんな意味でちからの弱いものが棲んでいるそうだ。それは彼自身の持つ能力如何にかかわらず、彼の趣味であるらしいのだが。

 ほかの世界のように特別な、たとえば魔力のような人知を超えた能力を持つ生き物が生まれることのない、今までになかった世界。

 兄弟と同じ世界を創ったところで面白くないし、と猫は飄々と言ってのけた。本人曰く彼の知的好奇心を満たすために創られた地球を含む世界に、他の兄弟はたいした興味を持たなかったようだ。なぜなら彼が創造したのは、自分がそこに住まう存在すべてに手を貸さないことを前提とした世界だったから。

 ファンタジーな世界に比べれば当初は緩やかな進化。しかしたったひとつのきっかけで急激な変化を遂げることができる、あらゆる可能性に満ちた世界。ただそこに住まう生物のちからだけで。しかし、いやだからこそ悠久の時をすごす神たちは、ただ眺めるだけの世界はつまらないものにしか思えなかったのだろう。

 だが、たった一人だけ、興味を抱いた神がいた。

 それは原初の存在たちが最初に創った神。彼の長兄であり、最もあらゆる力の溢れる世界を創造した神であった。

 他の兄弟が創った世界はすべからくその模倣か派生であり、誰もその世界と同等のそれを創ることが叶わなかったというほどのちからを持つ、神とその世界。

 あるとき、その神が、末弟にこう言った。


「お前の世界のヒトが、私の世界に来たら、どうなるのだろうな」


 その時、彼は何故そんなことを兄が言い出したのか、理解できなかったらしい。そもそも神でない存在が世界を渡ることなど、よほどの事故でも起こらない限り起こらない。私の世界にある異世界トリップものの創作物など、それこそ幾度奇跡を起こしてもたりない、と彼は言った。神の身である彼らでさえ、他の神の管理する世界に渡るのには多くの制約があるのだと。


 ただ、そう言ったときの兄の目が忘れられなかったと言う。

 冗談で流すには重い、強い意志を孕んだ目が。


 彼が兄の自分の世界への干渉を警戒し、万が一の可能性も潰さなければならないと予防線を張り巡らせていた最中。

 その万が一、が起こってしまったのだ。


「よりによって君を選ぶなんて」


 猫の手で握り拳は、さすがに難しかろう。

 眉間の皺と悔しそうな表情は、きっと兄に出し抜かれたせいだけではない。


「よりによって?」


 よりによってなんて、まるで自分が彼の世界にとって重要人物のような言い方だ。


「だって、だって君は、あの事故で助かるはずだったんだよ! 案内役立った不動産屋の彼に助けられて、それがきっかけで結ばれて、あのマンションは事故を起こしちゃったけど、奇跡が起こった縁結びの場所になって入居希望者が後を絶たなくなるくらいの人気物件になって、そのおかげであの町は住宅街として発展して、結婚して生まれてくるはずだった君たちの子供は3人いて、全員が世界でも必須の重要人物になるはずで、君たちの子供たちが生まれなくなっちゃったから、ヒトの進化が世紀単位で遅れちゃうことになったんだよ!?」


 なんだか夢物語を聞かされているようでいまいち実感はわかないが、どうやら私は、私が死ぬきっかけを作った不動産屋の案内人である彼と、事故をきっかけに大恋愛の末に結ばれ、地球上での重要人物を生み育てる運命にあったらしい。


 うん、まったくごめんこうむる話だ。兄様神、ぐっじょぶ。


 というか、神様ちゃっかり干渉してきてないか?


「気のせいだよ」


 目を逸らすんじゃない。


 本来なら不動産屋の彼が私を助け、すんでのところで看板を避けて九死に一生を得るところだったらしいのだが、その彼の行動をどうやったのか兄様神が阻み、ちょうど私が伸ばした首に看板が直撃し、すっぱりといっちゃったらしい。切れるもんなのか。


 どんなすぷらった。


 不動産屋の彼の目の前で、私の首は物理的に飛び、そこから吹き出した血で辺りは一瞬で血の海、彼も勿論それを浴びてしまい、どうも、精神的におかしくなってしまったらしい。それはそうだろう。

 兄様神の思いつきでとばっちりを受けた、元は輝かしい未来が待っていたはずの彼は、猫の神様が最期まで責任をもってその人生を管理し、来世を約束したようだ。よかった。

 そして私はといえば、明確な目的を持って神様に運命をいじられた以上、元の世界に戻ることができないらしい。死んだ瞬間、前の世界とのリンクを切られちゃったそう。ちなみに前述の彼はそんなことはされていないから大丈夫らしい。


「まあ、いまさら生き返らせることもできないし。しょうがないから、すっごく不本意なんだけど、すっごくいやなんだけど、兄様の世界に転生してもらうね。それしかできないし。ただし」


 意趣返しはさせてもらわないとね。


 そう笑った神様である猫の笑った顔は、夢に出てきたら絶対に魘されると断言できるくらい不気味だったことだけは言っておこうと思う。


 そうして私は、“私”を殺した神様の管理する世界――セリエスへと転生を果たしたのであった。





お読みいただきありがとうございます。

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