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零話 邂逅編その終(プロローグかエピローグか)

 突然だが、俺の家には居候が四人も居座っていやがります。


 一般的な家よりも大きな家だが、それでも妹と俺の二人に加え、居候四人も加えると六人だ。正直、鬱陶しい上に狭い。


 既に家を出た姉と兄や、仕事と称した長期の観光旅行に出掛けている両親が居ないだけマシだが、それだって帰省や何やらでいつ帰ってくるかも分からない。


 全員が一同に帰せば、家に十人だ。ふざけるな。いや、マジでふざけるな。


 食費は家に入れないし、そのくせ大食漢や偏食だし。変態とか痴女とか居やがるし。


 トイレは一つしかないから朝は行列で、何故か俺は最後尾にさせられるし。風呂に入ってると、痴女が乱入してくるし。


 一回目は思わず悲鳴上げたよ、甲高い声で。普通、逆だよね。俺、男だよ?


 そんなら部屋なら安全かと思えば、今度は変態が夜這い掛けて来やがったし。


 あれはマジで奪われるかと思った。何がとは言わないが、あんな辱めは二度と御免だっ。


 あーっ! 何か居候のこと考えてたら苛々してきた! 追い出したい、心の底から追い出したい!! なのに追い出せないのが腹立たしい!!


 ……うん、落ち着こう。あいつらのこと考えるだけ不毛だ。無意味だ。よし、冷静に……なれるわけないだろうが!!


「兄貴、いつまでんな所でキモい動きしてないでさっさと座ってくれよ。つか、手伝え。中学生に朝飯六人分作らすとか、舐めてんのか。ましてやその内二人は大食いと偏食だぁ? 今すぐ児童相談所に連絡してやろうか、おい」


 うん、妹の水晶クリスタルだ。キラキラネームってやつに入るのかな。俺はクリスって呼ばされるが。


 この妹、可愛い顔立ちのくせに口は悪いし、せっかくの琥珀色の綺麗な瞳なのだが目つきも悪い。せっかくのサラサラな茶髪も妹に言わせれば、鬱陶しいとかでボーイッシュな長さだ。


 実に勿体ない。お兄ちゃんはロングの方が好きなんだけどなぁ。


 俺の好みは置いとくとして、この妹は身長も同年代では平均以上だ。それに付け加え、脚も白くしなやかで長い。そのせいかは知らないが、足癖はかなり悪い。主に俺の太ももとか尻、あとは股間に悪い。


 あとはまぁ、胸が慎ましいのは中学生なんだから仕方ない……っ!


「どこ見てんだよ、殺すぞ」


 うん、本当に殺そうとするんじゃない。寸前で回避しなかったらヤバかっただろ。危うく姉になりそうだったぞ、まったく。


 こんなでもクリスの性格はこの家の中じゃ天使。いや、女神様なんだから悲しくなる。いや、本当に良い子なんだけどね? ちょっと手とか足が短気なだけなんだよ。うん、きっとそうだ。


「クロ〜、さっさと席についてくれないか。ご飯が食べられないんだが」


 俺が虚しい自己暗示をしていると、食卓を囲っている一人が呼んできた。居候その一だ。


 こいつは自称――俺の嫁兼魔王様のルビー・サキュバスだ。正式にはもっと長い名前らしいが、覚えてない。覚える気もないが。俺の嫁云々もあくまでもルビーの自称だ。俺は認めてない。例えボンキュッボンのグラマラスな大人のお姉さんでも認めない。凄まじい色気を醸し出していようが、俺はこの変態を嫁とは断じて認めない!


「あらあら、駄目ですよ。そこは、早く私を食・べ・て? うふん。と、催促しなければ。これだから底脳な魔族は……」


 うん、お前の方がよっぽど底脳だわ。何、呆れたみたいな態度で脱ごうとしてやがんだ。俺の方が呆れたわ。ふざけんな、痴女。


 ……まぁ、一応紹介しとこうか。この痴女もとい聖女様はリリアーヌ。居候その二だ。愛称はリリー。家名は無いとか。そんで、自称――俺の嫁らしい。知らんがな。俺、全く知らんがな。


 て言うか誰だよ、この女を聖女様にしたの。絶対人選ミスだろ。俗物の塊だよ? こいつ。高尚さなんて微塵もないよ? 聖女? 痴女の間違いだろ、明らかに。一応、法衣は纏って清楚感もあるし、果実はたわわに実ってるよ? でも、違うだろ。こいつが聖女とか、根本的に駄目だろ。


「そんな事いいから、さっさとご飯食べようよー。お腹空いて死にそー」


 俺が心の中で悪態を吐いていると、リリーの隣から不満げな声が飛んできた。


 そちらに視線を移せば、だれた少女の姿が。居候その三だ。ここまでの流れからして分かる通り、自称――竜族の姫にして俺の嫁だ。名前はアリア・ドラゴ。ルビーと同じく本当はもっと長い名前らしいが、発音が難し過ぎることもあって覚えられなかった。まぁ、大した問題でもないから構わないけど。


 アリアは基本的に害の無い少女だ。ルビーのように変態でもなく、リリーのように痴女でもない。家計を破綻させるような大食いっ娘と言うことを除けばだが……。


 アリアの食べる量はそれこそ底が見えない。いくら食べようが、常に空腹を訴えてくるのだから。アリアの食費だけでどれだけの金が飛んでいったやら。この数週間だけでも、目眩のするような金額だったとだけ言っておこう。


 まったくもって不条理な身体だ。その華奢な身体のどこに吸収されているのか。先ほどのクリスの言葉が胸に突き刺さるわ。六人分じゃ控えめにもほどがある。今度、クリスに何かプレゼントしないと。罪悪感ハンパないわ。


 ただ、一つだけ言いたい。ここ最近、お肉が食卓に並ばなくて辛いです。成長真っ盛りの男子には酷です。ちなみに、お小遣いは支給されなくなりました。ひもじい……。


 そんな世知辛い世の中に内心泣いていたところ、不意に寝間着の裾を引っ張られる。俺は疲れ切った眼差しをそちらに向け、心底萎えた。何てことはない。居候その四だ。


 邪神様でシスって名前らしい。命名は俺。……うん、知らないよ。前世の俺が命名したらしいけど、俺は知らないよ。


 はい、そうです。自称――俺の嫁です。いい加減にしてほしいですよね。俺もいきなり四人の嫁とか、咽び泣きたいです。割りと本気で。


 取り敢えず、このシスについても語っておこうか。このシスと言う居候は、基本的にぼんやりとした無口で小さな少女だ。加えて、甘いものと水しか飲食しない偏食さん。ご飯に砂糖掛けたりする辺り、偏食じゃなくてただの味覚音痴なだけの気もするが。


 ……さて、現実から目をそらすのはやめよう。何で俺は萎えたのか。それは、痴女に対抗した偏食さんが、無い色気を無理矢理捻り出そうとしていたからだ。もっと端的に言うなら、部屋着として着ているTシャツの胸元を引っ張っていたからだ。うん、俺とシスの身長差なら丸見えだよ。ちっぱい。


 俺がそんな様子なのを察したらしいシスはTシャツの胸元を正し、勝手に自己完結したのか小さく頷いている。俺としても対抗意識が無くなったのは有り難いことなので、特に何も言わない。ただ、応援したくはなった。頑張れ、シス。


「兄貴、本気で潰していいか?」


 やめて! 俺は何も悪くないよ!? お願いだから下腹部にその足をロックオンしないで!? まだ男としての矜持を捨てさせないで!


「クロ、お前はシスを選ぶのか。私には振り向いてくれないのだな……」


 違うよ!? 選んでないし! 何でそうなるんだよ!? 悲しげに俯くな! いや、確かに振り向かないけどさ!


「クロ、どうかそんな痴女の色香に惑わされないで下さい。私の方が貴方を喜ばせられます! 今すぐにでも!!」


 痴女はお前だ! てか、頼むからお前は何かある度に嬉々として脱ごうとするな!! 思春期には猛毒なんだよ!!


「ねー、クロ。先にご飯食べてていい?」


 この状況で飯かよ! 物欲しそうによだれ垂らしてるし! お前は本当にマイペースだよな!! 仮にも俺の嫁自称してるならせめて関心持って!? 出来たら助ける方向で関心持って!!


 俺はアリアへと懇願の念を込めた視線を送る。まぁ、届きはしなかったけどね。


 そんな時だ。俺の視界の端に引っ掛かった人物がいた。シスだ。シスは俺の方を向いて、微かに笑っていた。


 俺が見ていると気付いたシスは、水の入ったコップ片手にピースしてきた。それを見て、俺はピンときたさ。


 こいつ、確信犯だ。狙ってやりやがった! てね。


 はは、冗談キツいぜ。シスさんよー、何事もやり過ぎは良くないんだぜ?


 俺はもう、虚空を涙で霞んだ視界で見つめるしかなかった。だって、カオスなんだもん。この場所、カオスなんだもん。


 一人はうなだれて、一人は脱いで、一人はダラダラとよだれ垂らして、一人は確信犯でしょ? それで最後の一人は俺の目の前で蹴りを放ってるし。今まさにこの瞬間放ってるんだよ。俺の急所目掛けて。あ、ほら、もう触れ始め……っ。


 へへ、見えるや。この数週間の記憶が……走馬灯……みたい……に……。


 それを最後に、俺はしばらく意識を失ったのだった。



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