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茉莉花の少女  作者: 沢村茜
第二章
7/34

変人(下)

 そのまま学校を出ようと決める。


 だが、階段を降りようとしたとき、数学の教師とすれちがう。


「藤木。お前、補習をどうする気だ」


「すみません。ちょっと教科書を忘れてしまって」


 そのまま階段をかけおりる。


 途中、補習に遅れてくるクラスメイトともすれ違ったが、彼らを気に留める気にもならなかった。


 靴箱についたとき、チャイムが鳴り響く。


 これで完璧に補習をサボることになってしまった。


 だが、一息ついている余裕もない。とりあえず学校の外に出るのが先決だ。


 見つかったらなぜ補習に出ないのかと説教をされることはほぼ分かりきっていたからだ。



 昨日彼女と約束したかもしれない交差点に行く。だが、彼女の姿はどこにもない。


 学校に行ったのだろうか。そう思って、携帯を見た。


 彼女からの電話は未だかかってこない。


 ここまでわざわざやってきた自分の行動をばかげていると思った。


 彼女もいい加減学校に行っているはずだ。


 そう思って、来た道を引き返そうとしたときだった。


 その奥にある公園に見知った制服姿を見つける。


 ベンチに座っていたりしたなら、すぐにその正体を確認しようとしただろう。


 彼女は花壇の前にかがみこんでいて、こちらからは背中しか見えない。


 少しクセのある茶色の髪が揺れていた。


 その後姿と変な行動を見ただけで、彼女が誰か分かってしまった。


「何をやっているんだよ」


 ため息をつき、その公園の中に入る。


「笹岡先輩」


 僕は彼女を呼んだ。


 聞こえないのか、振り向かない。


 距離を狭めながら、何度か名字を呼んだ。


 やっぱり背中を向けたまま何かを必死に見つめている。


 そのとき、遊び心が心の中にわいてくる。


 後から考えればばからしい考えだ。


「茉莉先輩」


 茶色のクセのある毛が揺れた。


 彼女は振り返ると、目を見開いた。


 何で名前で言ったら気づくんだ。


「ごめん。ちょっと夢中になっていて、気付かなかった」


 彼女は手に握っていた葉っぱを花壇の中に置く。


 何をしているのか気になったが、その葉を持っている状態を見て、その理由を知りたくないと思ってしまっていた。


「あのね」

「気にならないから何も言わなくていいですから」

「植物の観察をしていたの。ここに新芽が出ていたから何の花なのかなって」


 聞いてないのに全てを語ってしまった。


 それもよく意味が分からないことをしている。


 その観察になぜ葉が必要なのかさっぱりわからない。


「荷物はどうしたんですか?」


 彼女は自らの手を見て、我に返ったような仕草をした。


 荷物のことを忘れていたのだろう。


 頭が痛くなってきた。


「あった」


 彼女が指差したのは少し先にある、ベンチだった。


 確かにそこには学校指定の鞄が置いてある。


「そんなところに置きっぱなしにしていたら危ないですよ」


「大丈夫よ。人気がないし」


 夜中でも人気ないから大丈夫とか言ってその辺りをうろついていたりしないだろうな。


 そんな不安が過ぎる。


 しかし、これ以上、彼女の主張を聞く気にもならない。


 僕は彼女の手をつかむ。


「早く学校に行きましょうって」

「今、何時?」

「八時です」


 彼女は驚いたような声を出した。


「そういえばどうして久司君は朝、来なかったの? もしかして、寝坊しちゃった?」

「まさかこんなところにいるとは思いませんでしたから、学校に直行していました」


 彼女とはてっきり一緒に帰るときだけだと思っていたのだ。

 彼女は鞄のところまで行くと、息を吐いた。

 そして、鞄をつかんだが、すぐにもとの位置に戻した。


「学校に行くのが面倒になってきたね」


 放っておくとこのまま学校に行く気がなくなったとでも言い出しそうだ。


「先輩。だいたい三年なら受験生でしょう。そんなんでいいんですか?」

「いいのよ。成績はいいし。それに大学行くか分からないの」

「そうなんですか?」


 意外な言葉だった。

 成績がいいと自分で言うくらいだ。

 成績が悪くていけないわけではないだろう。


「だから勉強する気がしなくてさ」

「僕は学校に戻りますから、サボるなら一人で行ってください」


 彼女は唇を尖らせ、いじけたような素振りをする。


「分かったよ。行く」


 彼女は荷物を持ち上げる。


 僕は手ぶらで、彼女は荷物が二つ。


 ちょっと分が悪い。


 彼女が持っている紙袋のほうを取り上げた。


「何するの?」

「学校まで持ちますよ。どうせ手ぶらだから」

「ありがとう」


 彼女は少し頬を赤らめ、照れたようにして笑う。


 しかし、学校に戻ったら数学の教師からあれこれ言われるのだろうな。


 そう思うと憂鬱だった。



 朝のホームルーム前には何とか到着したものの、担任である数学の教師からは軽く嫌味を言われた。


 すれ違わなければ言われなかったのだろうが、タイミングが悪すぎる。


 なんとなくため息を吐いた。


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