「またあの日々へ」
▷7月2日午前9時32分
「おー、いたいた。で、なんだ用事って?」
「ギリギリだな。まぁ、いい。」
(いいのかよ)
「猪田池君、君は約束したね?私が欲しいもの、なんでも奢ってやると。」
「ん?あー、言ったなぁ。それがなに?」
彼は、少し困った顔をして私を見る。それともいきなりのことに唖然としているのか?私は、彼の表情など伺いもなく話を進める。
「服が欲しい。」
「服ね、服‥‥‥て、えーーー!?」
(今!?このタイミングで!?俺金持って来てねぇし!)
ふむ、これは「俺は金を家に置いて来た」とでもいいたげな焦り具合と、表情をしているな。どうしたものか、早く来いと言ったのは私だ。だからと言って財布を持ち歩かないだ?まぁ、いい。今日はやめよう。「俺は金がありません」を含む表情をしている。私は、彼の方に手を置き
「悪かった、今のは忘れてくれ。あ、あと」
「?」
「‥‥‥どんまい。」
彼は呆れ顔で私を見る。何気に傷つくな、その顔で私を見るな。彼の方から手を下ろし、適当にそこらへんを歩いて見つけた店を適当に回って行くことにした。取り敢えず近くの商店街にでも行くかと、一歩前進した時。
「お、俺も行くから、ちょっとここで待ってて」
彼に手首を掴まれ、それを言った後走って何処かへ消えた。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
取り敢えず、待ってろと言われたから、待っておくか。
▷9時46分
あんまり人を待たせるのは良くないとは思うが‥‥。まぁ、私は別にそれほど暇じゃないからいいけど。背中に背負っていた黒の大きめのリュックを近くのベンチに座って中からノートパソコンを取り出す。
カタカタカタカタカタ‥‥‥
風緑地公園にはこの小さな騒音だけが聞こえていた。いつもはうるさいのに、今日はやけに静かだな。私はノートパソコンから視線をそらし、公園の状態を確認するため顔を上げてみる、と。私の目の前に如何にもチャラそうな男が3人ほど立っていた。え、もしかしてこれは、喧嘩ですか?
私はゆっくりとした動きでノートパソコンを黒のリュックに入れ、蓋を閉じ、背中に担ぎ「邪魔でしたね、すいません。」と、一言言ってその場を離れようとした。すると、不意にも2度も手を取られてしまった。手離せよ。空気読んだよね?私。邪魔だったんじゃないの?私は怯えたり、体を震わせたりなどしなく、冷静になり、私の手首をとった手を眺め、手を出した本人へ視線を上げる。うわ、背高いなぁ。何センチあるんだろ?こんな時に何を考えているんだとは思うが、本心だ。
「あの、」
「君さぁ」
手を離せと言おうとした時、男Aと言葉が重なってしまった。男Aの方が声が大きかったため私の言葉はかき消され、男Aの話が続いた。
「可愛いねぇ♡彼氏とかいんの?気になってる子とかさぁ」
これは、喧嘩じゃないじゃん!!なに、ナンパ!?あんた幾つだよ!私は、唖然とした顔のまま返答を返した。
「いや、そんなの全然いませんから。てか、手離してくれません?痛いんですけど」
「あー。ごめんごめん。」
「君今一人?」
男Bが会話に乱入して来る。だれだあんたら。私はあんたらのこと知らないんだけど‥‥可愛い?私が?目いかれてんじゃないの?眼科いけ!眼科!私は、脳内でツッコミ、現実では私の顔はムスッとしていると思う。所謂、無表情ってやつだ。
「ねぇ、俺たちと火遊びしない?」
火遊び?今度は男Cが乱入。男Cは私の肩に腕を回し自分の顔を近づけ息荒く私に話しかけた。おかしなことを考えてるなこいつ。
「火遊びですか。花火は季節外れかと‥」
私は、冷静に答える。と、言うか。花火は全く季節外れではないのに、季節外れだと嘘をついてしまった。それを聞いてあんたらは「バカじゃねぇの」とか、言って笑うのだろうか。だが、彼らは笑わなかった。今の風緑地公園にぴったりのシーンと静かな思い空気となった。
「君面白いこと言うね」
え!今の面白いの!?無表情の私に男Aが話しかける。私は、驚き顔で数分硬直する。
「あ、俺人待ってただけなんで。もう行きますね。」
「えー、もう行くの〜?」
「俺と遊ぼうぜ?」
「てか、ボーイッシュな女子初めてみたぁ。以外と可愛いじゃん♡」
こんなに男に囲まれたの生まれて初めてだ。これはどうすればいいのだろうか。というか彼はまだか。流石に長すぎだろ。胸ポケットから携帯を出す。そして、電話帳を開いたとき
「あ!」
「え、誰々?彼氏?」
「これなんて読むの?」
「取り敢えずまことだろ?男じゃね?」
「なんだよー!おれらとあそぼーっていったのに」
人の携帯除くとか、プライバシーの侵害だ。個人情報たくさん入っている機械の中を許可なく除くとは。礼儀のない奴らだ。私の頭には殺意と苛立ちで溢れていた。さっきから人ゆうことなんてろくに聞かず、自分がいい方へ話を勝手に進める、「そんな男が、恋人なんてできるわけないだろ?よっぽどのバカ以外はな」。私も相当の馬鹿らしい。今この場でそんな本音を言わなければ‥‥‥‥‥
こんなことにはならなかっただろうな。
「きゃーーーーーーーー!」
一人の女性が、気絶した男3人をみて悲鳴を上げる。私は、一度彼らの無様な姿をチラ見程度にみた後、
「自業自得だ‥‥‥‥バカが。」
彼の帰りが遅いので彼の家にいくことにした。さて、入れ違いにならないように、彼の行きそうな道を歩かなければ。私は、風緑地公園を東に抜け、彼の家へと向かう。
えーと、確か。ここの十字路を‥‥‥左だったかな?適当な感でうろ覚えな道で彼の家へと向かう。すると、2、3歩歩いたところで誰かに声をかけられた。
あ‥‥‥‥‥
「こ、こんなとこでなにやってんのさ!すっごく探したんだよ‼︎」
君は自分の疲れを人の所為にするか。私は、少しムッとした顔で彼の方へ向き、不貞腐れた声で応える。
「坂神君、君があまりにも人を待たせるから。私が貴方の家へ行こうとしていたところです。」
それだけ言って、私は前進する。どこへ向かうかは決めていない。だけど、この場からすぐに去る方が私の中では、効率がいいような気がした。
「はぁ?え、ちょっ!ど、どこ行くの!?」
呼び止められた私は、立ち止まるつもりはなかったが無意識にからだがその場で立ち止まる。彼に、私がどこへ行くのか伝えた方がいいのか?だが、彼からすれば私がどこ行こうが彼には何の関係もないし‥‥‥‥‥。そんなことを思う私だったが、彼の方へ振り向き「服屋に行って来ます」と言う。
「あ、じゃあ、俺も行く。」
「何故?」
「何故って。聖搗ちゃんがスカート履いてるのみてみたいから♡」
「そんなもの履きません。」
呆れた人だ。そんなことのためについてくるだなんて。それに、履かないと言っているのに。どうして着いてくる。
はぁ、私は大きくため息をつき「私におしゃれと言うものを教えてください」。少し頬を赤く染めて、彼の方に半顏を見せてそう言った。
(やっぱ、司音ちゃん。可愛いなぁ♡)
私は、今何を考えていたのだろうか。ほんの一瞬だけど、胸がズキンと痛くなるのを感じた。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥わからん。
まぁ、いい。もう、終わったことだ。そんなに気にする必要もないだろう。私は近くの商店街に行こうと前進する。すると、いきなり後ろから手が伸び、私の手を取った。
「じゃ、行こっか。ちょっと遠いいけどお洒落なところ知ってるよ。」
彼は、私の手を取りまるで子供がはしゃいでいるかのような優しい笑顔で私を見る。何が嬉しくてそんなに笑顔になれるのか。私には疑問だった。
「いつまで手を握っているつもりだ?」
「んー?ずっとかなぁ‥‥‥‥‥なんて、へへ」
つまらん冗談だ。私は、そっぽ向き帰りも彼とずっと手をつないでいた。こんな甘えたな事を許したのは初めてだ。
「ごめん。」
「え?」
「家まで送ってもらって‥‥‥」
「いいよ、そんなこと。女の子1人で1人寂しく帰らせる訳にはいかないでしょ!」
相変わらずの満面の笑みを浮かべる彼をみて少し‥‥‥‥苛っと来くる。
「それは私が弱々しく見えると言うことか?」私は、自分の苛立ちを抑えることはできなかった。私の苛立ちが声に出る。
「女のコだからね。そんなに気にすることないと思うよ?」
笑顔を崩さない彼は、そう言った後私の一番嫌いな言葉を私に語りかける。
「ちゃんと俺が守ってあげるから」
「っ‥‥‥‥‥!」
彼は私の手を取ったまま、私に優しく語りかけた。だけど、私にはその言葉は悪魔が囁くような言葉にしか思えなかった。
「ありがと‥‥‥‥‥」
彼は、悪気で言ったわけではないだろう。私の心には悔しさがあった。昔、自分の弱さの所為で大切な、たった1人の友人を亡くしてしまった。そのことを未だに引きずる私がここにいてはいけないのだろうか、これがまたあの日に戻ってしまうのか‥‥‥‥
嫌だなぁーー