終章
王城までの道のりを、行きと同様、ガタガタと馬車に揺られて進む。
途中で、ウルスラに早馬の手紙が届けられた。それを読んだ瞬間の、やけに苛立った顔をしたウルスラを、ベアトリスは忘れられないでいる。
手紙を黙読した後、内容は一切語らなかった。けれど、馬車を急がせたことが、なおさら忘れられなくしたのだろう。
せっかくうまくいったはずなのに、全体にピリピリした空気が漂っている。まさに、暗雲が立ち込めているような気分だ。
「……フィエリテ王国もリュールング共和国も、これでしばらくこっちに口出ししないでくれるだろうけど……ウルスラは何でイライラしてるんだろうね」
馬車の中で、げんなりとタデウスが呟く。
この場にいなくても気になるのだ。同じ馬車にいるメルルたちは、どれだけいたたまれない思いをしているのだろうか。
「あの手紙が届いてからですけど……何も言わなかったので、内容まではわからないんですよね」
「よくない知らせだったことは間違いなさそうですが」
心なしか、オリオンも怯えているようだ。
「しかし、エリカの団長にも言わないってことは、ずいぶん深刻そうだね」
「そうですか? 本当に大変なことが起きてて、あたしが力になれるなら、ウルスラさんはちゃんと教えてくれると思います。多分、困ったことだけど、あたしじゃ助けにならない話なんだと思います」
その話がどんなことなのか、まったく想像できない。何しろ、ベアトリスでは手助けができないことが、とにかく多いのだ。
たとえば、料理関連であれば、間違いなく手出しできない。裁縫はどうかと言われると、ウルスラ以上にできるはずがなかった。力仕事にしても、断然ウルスラの方が戦力になる。
しかもウルスラは、言いたくないことは決して口にしない。ベアトリスと違い、うっかりもないのだ。
いったい、どれだけ強靱な精神力をしているのか。時々、感心してしまうことがある。
「オーソンさんに膝蹴りをしたことだって、タデウス殿下が教えてくれなかったら、絶対に今もあたしは聞いてないままです」
あれは間違いなく、本当は知られたくなかった話だろう。ベアトリスはそう、強く確信している。
すっかり呆れた顔で、タデウスは小さく嘆息した。
「……エリカの団長は懐が広いのか、本気で何にも気にしないのか、たまに判断に困るね」
「気にならないわけじゃないですよ? ただ、言いたがらないことを無理に聞き出すのは、あたしが嫌なだけです」
自分がされたくないことを、他人にもしたくない。それだけだ。
本音を言えば、エリカ騎士だけでなく、オリオンにも聞きたいことはある。けれど、その結果、ギクシャクしてしまうのが怖い。
せっかく近づいた距離が、また大きく離れてしまう。そうなるのが、単に嫌なだけなのだ。
はっきり言ってしまえば、ただの臆病者に過ぎない。
きっぱりと言い切ってから、ベアトリスは窓の外へ視線を向ける。
見慣れた景色は、もうじきフロース王国の王城に到着すると告げていた。




