一章 2
左隣にはウルスラ、周囲をエリカ騎士に囲まれて、ベアトリスは真剣に歩いていた。
野営訓練を行うのは、以前、ヴェラに捕縛の魔法で壊す練習をしてもらおうと考えていた森らしい。そこへ向かい、前後を他の騎士団に挟まれて、黙々と足を進める。
普段は割とおしゃべりなレオラですら、やや青ざめた顔で沈黙を貫いていた。
(やっぱり、みんな、緊張してるのかな?)
エリカ騎士となってから、城を離れたことはない。しかも、これから数日、野宿が確定している。
ごちゃ混ぜになった他団の騎士と、集団で過ごした経験も一切ない。そもそも、野営訓練で何をするのか。ベアトリスたちは何ひとつ知らされていない。
そんな状況で、まったく緊張しない方がおかしいのだ。
(上手にできるかな? ……そういえば、野営訓練って、何をするの?)
野宿をすることは聞いている。だから、天幕を張って寝泊まりするのは確実だ。さらに、食事も作らなければいけないだろう。
(……あ)
食事の支度に、ふと意識が向いたとたん。ベアトリスは、モデスティー伯に引き取られたばかりの頃を思い出した。
『あなたは居候なのよ? 夫の善意で、あなたはここにいられるの。少しでも恥ずかしく思うのでしたら、家事のひとつくらい手伝いなさい』
夫人に言われ、真っ先に厨房へ向かった。
すでに刻んである野菜や肉を入れ、作り方を教わりながらスープを仕上げる。もちろん味見もし、その時には、なかなか悪くない仕上がりに思われた。
それを持って、まずは兄──父のところへ持っていったのだ。
『あたしが作ったスープです』
そう言って差し出したところ、父はふわりと微笑んだ。それはそれは、どこまでも幸せだと語り出しそうな雰囲気で。
だが、その表情は、舌先にスープがわずかに触れた時点で崩壊した。
消えた、ではない。まさしく、崩壊と表現するのがふさわしい。そんな変わりようだった。
『ビー……掃除と洗濯は上手にできるだろう。裁縫も、誰かにきちんと教えてもらうといい。そうだな……時々は、この部屋も掃除してくれないか? お前が綺麗にしてくれた部屋で、綺麗にしてくれた服を着て仕事をする。それは俺にとって、何にも代えがたい幸福だ』
役に立ちたいと思っていた当時は、すっかりごまかされた。結果、掃除と洗濯、裁縫に精を出したものだ。
おかげで、一切練習していない料理以外は、胸を張って得意と言えるのだが。
(……料理しろって言われたら、どうしよう?)
あの父が、これからも頼む、と言わなかった唯一のものだ。
いったいどんな味で、食べたらどうなってしまうのか。それだけは、ベアトリス自身にもわからない。
何しろ、味見をしたベアトリスには、食べられると思ったのだから。
(……まさか、死にそうになるってことは、ないと思いたいけど……)
単純に、無理にでも飲み込めないほどまずいだけ。できれば、そうであって欲しい。
一抹の不安に駆られながら、野営訓練が行われる森に到着した。
まずは、それぞれの騎士団ごとに、必要な数の天幕を張る。それから、料理用の薪集めだ。
「天幕一つに、七人までなら寝られるから……エリカは三つだな」
荷馬車へ取りに行くと、ロープや布、金具に槌を渡された。エリカ騎士全員で分担し、指定の場所へ持ち帰る。
この日のために、わざわざ切り開いて作った場所のようだ。むせかえるほどの、湿った土の匂いがする。
「えっと、天幕を張ったことのある人って、います?」
「はい」
「私もある」
「あー、やったやった」
「私もわかりますよ?」
予想外に、次から次へと手が挙がった。その中には、ウルスラやヴェラもいる。
「四番街の下町だと、街と城の間のあそこで天幕張って野営ごっこするのが、ちょくちょく流行るんですよ。私は、ホートン候につき合わされて、お屋敷の庭で野営ごっこをしましたけど」
これまではどこにいたのかを隠していたウルスラだが、今後は隠さないようだ。それどころか、積極的に、自分がホートン候と関わりがあると主張している。
彼女の行動は、自分のためだ。近くに味方がいると、知らしめているのだ。
それに気がつけないほど、どこまでも鈍いベアトリスではない。
「団長は貴族なんで、そっちには縁がありませんよね?」
「あ、いえ、自警団にいたので、天幕を張る練習はしました」
「なるほど。団長、意外といろいろできますね。ちょっと意外です」
ウルスラに二度も『意外』と言い放たれ、ベアトリスはパチパチと数度瞬く。
「……えっと、じゃあ、ササッと天幕を張っちゃいましょう」
すぐに気を取り直したベアトリスは、団員に大ざっぱな指示を出す。もちろん、ベアトリス自身が率先して動いている。
「ロープの先は、天幕側に先を打ち込んで斜めにした杭に結んで。ロープをピンと張らないと、強い風が来たら持ってかれるよ」
ミランダが助言をしながら、初経験で手こずっている団員の手助けに向かった。
値踏みするような、ぶしつけな視線を、いくつもいくつも感じながら。それぞれが慣れた手つきで、あっという間に天幕を張ってしまう。
「じゃあ、薪をいっぱい集めましょうか」
騎士でありながら、天幕ひとつ、まともに張れない。
そんな蔑む言葉を言わせる隙をまったく与えず、無事に天幕を張り終えたこと。それがベアトリスには、何よりも嬉しくてたまらないのだ。
「森から出ないように、奥へは行かないようにお願いします」
自然と、エリカ騎士たちは数人で固まって行動を始める。ベアトリスの近くに残っているのは、ウルスラとレオラ、それからミランダだ。
「団長、一緒に行きましょう!」
レオラに右腕を引っ張られる。まるで対抗するように、左腕をミランダがつかんだ。ウルスラはなぜか、背中から覆い被さっている。
「……あの、なぜこんな状態に?」
「団長に何かあると困るので、私たちは護衛ですよ。だって、ベロニカの団長って、ぶっちゃけると女好きなんですよね?」
ウルスラが当たり前の顔で言い放つ。とたんに、近くで聞いていたらしい他団の騎士たちが、それぞれにプッと噴き出した。
こっそりと、しっかりと、聞き耳を立てていたことに憤るより。他団にも知られているコーデルの悪行に、ひっそりと苦笑いが浮かぶ。
「そういえば、アマリリスの団長から、ベロニカの団長が、エリカ騎士の数人を物色して、『こんな時じゃなければ口説くのに』と言ったとか言ってないとかって聞いたわ。私も狙われてるから、絶対に近寄らないように、って助言つきで」
援護射撃のつもりなのか。ミランダがとどめを刺すように、きっぱりと言い切る。
ただ一人、やけに引きつった顔をしているレオラは、そんな話を聞いたことがないようだ。ひどく不安げな視線が、青い騎士服を見つけるたびにビクッと揺れている。
「ああ、金髪ポニテに栗色ロング、金茶ショートと、栗色癖毛のお嬢さんってやつですね。要警戒ってことで、聞いたことがありますよ」
「……それって、ミランダとビビアン、テレシアとヴェラ?」
「多分、そうじゃない?」
あえて誰から、とは言わないウルスラが、対象の特徴をサラリと口にした。レオラは団員を思い出しながら、一人一人確認する。それを、ミランダがあっさりと肯定した。
ビビアンは治癒タイプの魔法使いだ。アマリリスでも通用する治癒だが、基礎体力などはかなり劣る。可愛らしい外見と、はかなく頼りなげな印象が相まって、狙っている騎士は多いらしい。
そしてテレシアは、今年二十になったばかりの、凛々しい美女だ。槍を軽々と扱っている。細身の体からは、これっぽっちも想像できない力強さだ。室内の警護には向かないが、屋外では大活躍すること間違いないだろう。
「私とミランダから、みんなには警告を出してありますからご安心を。あ、レオラだけその時いなかったから、うっかり伝え忘れてましたけど。ほら、誰も青服には近寄ってないですよね?」
白い服の少女騎士たちは、一人としてベロニカ騎士の近くにいない。ベロニカ騎士が近寄ると、ササッと離れていく。
団長と団員の区別は、縁取りを見るしかない。薄暗い森の中では、じっくり見なければ判別しづらいこともある。それだけの余裕がないから、服の色でサッと判断し、迂闊に近寄らないことにしているのだろう。
ベロニカ騎士にはとにかく失礼な話だが、エリカ騎士としてはある意味正しい。
「本当に、至らない団長ですみません。ウルスラさん、ミランダさん、ありがとうございます」
「ってか、団長、ベロニカの団長が危険なことは知ってるけど、エリカ騎士も狙われたことは知らないですよね? 知ってたら、もっと早く警告してると思うんですけど」
「いえ、あたしにしでかした時点で、団員には警告すべきでした。二度目はないと脅しましたし、あれから何もしてこなかったので、あたしが勝手に大丈夫と思い込んでしまったから……」
今後、変態じみた真似をすれば、絶対に容赦しない。
そう宣言したこともあり、すっかり油断していた。まさか、他の団員にも迷惑をかけているとは、夢にも思わなかったのだ。
「薪を集め終わったら、コーデルさんに警告しておきますね。そうしたら、少しは安心して野営訓練ができると思いますし」
「……まさかと思いますけど、団長。ひょっとして、ベロニカの団長に、あれ、言ったんですか?」
珍しく渋面のウルスラに問われた『あれ』が何か。即座に思い当たらなかったベアトリスは、一瞬あからさまに怪訝な表情になる。
「あれ、ですか?」
「あなたのお父上の教育方針ですよ」
「……あ。ひょっとして、『痴漢には一切容赦するな。変態はその間違った自尊心を、ひとかけらも残さず思い切りへし折れ』のことですか? 確かに、剣を突きつけながら言いましたけど」
サーッと、周囲の空気が急速に変わった。心なしか、取り巻いていた騎士たちとの距離が、さらに開いたようだ。
だが、ベアトリスはかけらも気に留めず、薪を探してゆっくり歩き始める。
「その程度でやめるなら、しょせんその程度のものなんです。本当におかしい人は、何度でも繰り返しますよ? 自警団の頃に、騎士団に引き渡した本物の変態は、一人や二人じゃありませんから」
歩き出したからか、ウルスラはベアトリスの背中から離れた。けれど、ベアトリスの背中を守る位置にいるのは変わらない。
「団長って、意外と殺伐とした人生を歩んでますね」
「そうですか? 変態だろうと何だろうと、足を射貫けば動けなくなりますから。それでも手が出るなら、手も射貫いてしまえばいいんです。かなり痛いでしょうけど、死ぬよりマシですよね」
「え……騎士団に引き渡されるなんて、多分それこそ死んだ方がマシですよ?」
ホートン候という、騎士団に君臨する貴族のそばにいたからか。ウルスラはひどく気の毒そうに、あらぬ方向をチラリと眺める。
彼女は、ベアトリスの与り知らぬ、騎士団の裏の顔を知っているのだろう。
「罪人と認識されたら、騎士団の中でも専門の人たちに渡されるんですよ。まあ、ホートン候が担当しているのがそこですね。あの連中は、普通の人間ではとてもとても考えつけない、えげつないことばかり考えてるんですよ。ぶっちゃけると実験台ですね」
「……そ、そうなんですか……?」
「いつだったか、私も危うく実験台にされるところでしたからね。まさか、ホートン候が仕事を持ち帰ってくるとは、思ってもいませんでしたから」
母方の祖父の話を聞いて、知らず知らず、ベアトリスの顔は引きつっている。当然、一緒に聞いてしまったミランダやレオラも、あまり顔色はよくない。
その上、周囲の騎士たちも、青ざめた顔で思い切り体を引いている。
こんな話を平然とできるウルスラはもちろん、そのウルスラがいるエリカ騎士も、一気に近寄りがたいものになっただろう。
どうにか、団員の安全は保証できそうだ。
ほんの少し安堵しつつ、ベアトリスは薪になりそうな枝を集める。遊びとはいえ経験のあるエリカ騎士たちは、次々に拾い上げては天幕まで持っていく。
気がつけば、しばらく困らない程度に、薪も集め終わっていた。
「じゃあ、材料もらってきて、ちゃちゃっと料理作っちゃいますか」
腕まくりをしながらウルスラが言えば、エリカ騎士たちが即座に呼応した。器具を用意する者と、食材を受け取る者、水を汲んでくる者など、分担をあっという間に決める。
和気藹々と調理を開始したエリカ騎士たちに、数名の騎士がフラリと近寄ってきた。服の色はそれぞれだ。
「へぇ……料理できるんだ? さっすが庶民だねぇ」
聞こえた者も、聞こえていない者も、さりげなく聞き流す。それどころか、水桶を運んで激突するエリカ騎士もいる。
こぼれた水は、騎士の服や靴をしっとりと濡らした。
「あら、ゴメンなさい。そこ邪魔なんで、どいててもらえます?」
見た目でコーデルが目をつけるだけあって、テレシアのにこやかな笑みに、騎士たちはわずかにたじろぐ。
ゆったり通れるだけの道ができると、そこを堂々と、テレシアが抜ける。
「団長、水はどこに置いたらいいでしょう?」
「水ですか? えっと、テレシアさんがわかって、邪魔にならないところならどこでもいいですよ」
桶いっぱいに揺れる水は、それなりに重い。他のエリカ騎士は二人で抱え上げるそれを、テレシアとウルスラは一人で持ち運べる。必然的に、調理中に水が必要になれば、どちらかが桶を抱えて移動することになるのだ。
「じゃあ、この辺の隅にしときますね」
ドン、と置かれた水がパシャリと跳ねた。方々に飛び散って、地面に小さなしみをいくつも作る。
「さてと。他に力仕事はありますか?」
言いながら、テレシアは材料を切っている面々のそばへ向かう。
「……ねえ、エリカの団長は、料理を作らないの?」
他団の騎士に問われ、エリカ騎士が全員、ピタッと動きを止めた。
あからさまに不自然なそれに、彼らはかえって興味をそそられたようだ。ニヤリとした笑みを浮かべ、ジロジロと眺めている。
「どうせなら、団長自ら、料理を作って振る舞うべきじゃないの?」
嫌がらせになると察したのか。彼らの要求は、さらに増長している。反面、エリカ騎士たちの顔色は、どんどん悪くなっていく。
「エリカの団長が作った料理なら、他の騎士たちも食べるんじゃないのかなぁ?」
誰かが言った言葉に、真っ先に反応したのはレオラだった。真っ青な顔で、すでに涙目だ。
「や、やめてください! 団長に料理を作らせないで!」
「そ、そうですよ! 団長にだけはさせるな、って、何度も言われてるんですから!」
「訓練で死にたくありません!」
口々に叫ぶエリカ騎士たちに呆然とするのは、何も他団の騎士たちだけではない。ベアトリスも、なぜ彼女たちが知っているのかと、そちらにばかり意識が向いている。
「お前ら、何をやってるんだ?」
時機を見計らっていたかのように、オーソンが割り込んできた。
「ガザニアの副官、お願いです! うちの団長に料理させるのを止めてください!」
ウルスラに必死の懇願をされ、オーソンは明らかに戸惑った表情だ。もしかすると、この上なく最悪な可能性に、自力で思い至ったのかもしれない。
「どうせなら、エリカの団長の料理を食べたいって言っただけですよ?」
ニヤニヤしている騎士たちに、オーソンが露骨なため息を吐き出す。
「ベアトリス、どうする? お前が気にしないなら、俺も気にしないが……ああ、だが、作らせる前に誓約書がいるな」
「それなら用意してありますよ」
けろっとした様子のウルスラが、紙切れを五枚。手近な机にペンを添えて並べていく。
「……おい、さすがに準備がよすぎるだろ」
「これくらいしないと、こっちの責任になるじゃないですか。冗談じゃないですよ。こんなに必死に止めたのに、私たちのせいになるなんて」
何の気なしに、ベアトリスはそのうちの一枚を手に取り、内容に目を通してみた。
『エリカの団長の料理を食べたがったのは、ガザニア騎士たちです。エリカ騎士は全員、一丸となって必死に止めました。それでも食べたがったのは、ガザニア騎士たちです。何が起きても自己責任。エリカ騎士には責任を求めません』
ザッと要約すると、そんなことが書かれているものだ。
ウルスラが並べた他の紙にも、ほぼ同じ内容が書かれている。違いと言えるのは、食べたがった騎士団の名前が違うくらいだろう。
「……そうですね。これに各団の団長か副官が署名してくれるなら、作ってもいいですよ」
ベアトリスが言うと、真っ先に、赤い服の騎士がやってきた。確か、副官のカーティスだ。彼はアマリリスの名のある誓約書を探し、そこにサラサラと署名をする。彼につられたようにコーデルが、団員に急かされてテレンスも、署名をしに来た。
リナリアは全員で相談した結果、署名すると決めたようだ。
ガザニアに至っては、オーソンが団員から散々せっつかれてようやく、渋々署名をしている。
「じゃあ、ウルスラさん、これを預かっててください。ササッと作っちゃいましょう」
エリカ騎士の協力を仰ぎつつ、ベアトリスが味つけをして、料理を完成させていく。
干し肉と野菜のスープ。香草と炒めた肉。それから、城から持ってきた、薄く切って乾燥させたパンだ。
見た目も匂いも、おかしなところはない。それどころか、むしろおいしそうだ。エリカ騎士があれほど大騒ぎして、徹底的に拒否した理由がわからない。
「エリカ騎士の分しか材料をもらってきてなかったので、味見程度になりますけど」
あからさまな不安の色を隠さないベアトリスは、騎士たちの器にスープをよそう。隣では、ミランダが小皿に肉片を乗せている。
騎士たちに行き渡ったことを確認して、ウルスラがニッコリ微笑む。
「さあ、どうぞ」
スープに手をつけた者。肉をつまんだ者。口に入れたものはそれぞれだが、反応は似たり寄ったりだった。
持っていたトレイを取り落とし、ほぼ全員がうずくまり、全身をプルプルさせて悶絶している。
かろうじて生き残っているのは、コーデルとナイジェル、そして、端から察していたらしく、何も口にしていないオーソンだけだ。
コーデルとナイジェルは、生き残っていると言っても、どうにか座っていられる程度に過ぎない。
目の前の光景に、今すぐ泣いてしまいたい気持ちを、強引にグッと飲み込む。それからベアトリスは、クルリと振り向いた。
「……えっと、ビビアンさん。ナイジェルさんに、治癒の魔法をお願いします」
「あ、はい!」
急いでナイジェルに駆け寄り、ビビアンが治癒の魔法を使う。二回目で、ナイジェルは無事に完治したようだ。
「いやはや……エリカの団長に、こんな思いがけない特技があるとは」
「……ますます泣きたくなるので、できたら今は、何も言わないでください」
「わかった。では、治療に当たるとするか。ビビアン、協力を頼む」
「はい」
ナイジェルとビビアンが早速治療に向かう。
どうやら、ひと筋縄ではいかないらしい。一人の治療に、二人が一回ずつ、治癒の魔法をかけている。
それでも、すぐさま立ち上がれる者はいない。
「……ホートン候夫人で、これの破壊力は知ってるんですよ、私。だから、あんなに止めたのに」
「ウルスラが怯えていたからな……母や姉と同類だろうと予想したら、このざまだ」
「……母様や、おばあ様も?」
自分だけではなかったのだ。
ベアトリスは思わず、ホッと安堵の息を吐いてしまう。
「しかし、これでは、野営訓練は続けられんな」
「そうでしょうね。転がしておいても邪魔ですし、どうします? 城から応援を呼びます? というか、そうするしかないですよね」
「じゃあ、ウルスラが呼んできてくれ。理由を聞かれたら、母を例に出せばわかるだろう。ああ、誓約書は持って行けよ?」
「そうですね、じゃあ、サクッと呼んできます」
大きく首肯したウルスラが、パッと駆け出す。
自力で歩ける騎士がほとんどいない。その上、無事だった騎士の大半はエリカ騎士だ。地道に復活を待ってもいいが、いつになるかはわからない。
半死半生の騎士たちを連れ帰るには、どうしても大量の荷馬車が必要になるだろう。
(……あたしの、せいで……)
がっくりと落ち込むベアトリスの頭を、オーソンが軽く叩く。
「お前が悪いんじゃない。危険だと言われても譲らなかった、あいつらが悪いんだ」
何度も何度も繰り返してくれるオーソンの言葉が、かえって、罪悪感を強く煽った。




