序章
ベアトリスは、すっかり緊張した面持ちで、城門前に立っている。
メイベルとヴァーノンに挟まれていることなど、ちっとも気にならない。そのくらい、緊張している。
これから、エリカ騎士団は、初めての任務に当たるのだ。
第三王子の婚約者である、隣国アレグリア王国の第一王女シンティアが、遊びに来るという。彼女と、同行の侍女たちの護衛。それが、今回の仕事だ。
街を突っ切って走ってくる、立派な馬車。それが、メイベルの目の前で、ピタッと止まる。
バンッ、と豪快にドアを開けて、少女がひょいと顔を覗かせた。
年の頃は、十五、六歳か。ふんわりした、やわらかそうな金色の髪が揺れる。くりっとした、綺麗な青色の瞳は、怒っているのか。わずかに目尻がつり上がっている。表情も、どことなく不満げだ。
「さっさと手を貸しなさい。まったく、相変わらず気が利かないんだから」
彼女の視線がメイベルをとらえ、そうのたまう。
メイベルはちょいと肩をすくめて、数歩、前に出る。彼女に手を差し出し、馬車から降りる手助けをした。
「ところで、今回もあなたが護衛するんじゃないでしょうね? わたくし、リナリア騎士団は大っ嫌いなのだけれど」
「そういうわがままを言う子供のために、質はともかく、わざわざ女の子ばかりの騎士団を新設してあげたのよ。感謝なさい」
「あら、そうなの。え? じゃあ、そこの小さい子が、まさかと思うけれど、新騎士団の団長なの? わたくしと変わらないくらいじゃなくて?」
「そうよ。言っておくけれど、家柄はかなりのものだし、あなたより年上。敵に回すと恐ろしい男がついているから、いじめるのはほどほどになさいね?」
シンティアはぷくっと頬をふくらませる。そういう仕草は、彼女をひどく幼く映す。
「わたくしはいじめなど、しなくてよ!」
「あら、わたくしに何をしてきたのか、今すぐ思い出させてあげてもよくってよ?」
「あなたにしかしないって言ってるのよ、この造花!」
ビシッと言い放ったシンティアに、メイベルは冷ややかな視線を向ける。ベアトリスの位置からは、かろうじて、メイベルの凄惨な笑みが見えた。
「……あなたには、己の立ち位置というものを、一から教えなくてはならないようね」
「ひぃっ……」
小さな悲鳴をあげて、シンティアはあたふたと、ベアトリスに駆け寄る。
「あ、あなたが護衛の団長なのよね? いいこと? 基本的に、わたくしからつかず離れず、日がな一日、きっちりついてきなさいね?」
「ベアトリスはあなたと違って、毎日が忙しい子でしてよ。わがままにつき合わせてばかりでは、嫌われますわ」
しっとりと囁かれたメイベルの言葉に、シンティアはグッと声を詰まらせた。
(……ひょっとして、シンティア様って)
「えっと、あたしでよければ、話し相手くらいならなりますよ?」
キラキラと輝くシンティアの瞳に、予想が正しいことを確信する。
「ベアトリス、甘やかしちゃダメだよ。甘ったれのシンティア王女には、ビシッと、超厳しいくらいでちょうどいいんだから」
「そうそう。この子はそれこそ、ベアトリスと変わらないくらい、周囲が甘やかしていてよ」
どうやら、他の団長たちにはなじみのある王女らしい。
だが、いきなり厳しく接するなど、とてもできそうにない。自分らしく、精一杯、護衛を務める。それがせいぜいだ。
「ひどい! これだから、レーニア王子もヴァーノンも大っ嫌いなの!」
シンティアが叫んだ瞬間。ヴァーノンが彼女の口を両手でふさぎ、メイベルが頭に拳をがつんと叩き落とした。




