終章
「……なあ、初恋ははかなく砕け散るというのは、万人に共通じゃなかったのか?」
自室へ戻る途中、たまたま会ったオリオンと並び、話ながら歩いていた時だ。背後からいきなり、コーデルに言い放たれた。
あまりに珍妙な言い回しに、とっさに言葉が出ない。口をパクパクさせているベアトリスと違い、その場に居合わせた他の全団長が声を立てて笑う。
がっくりと落ち込むコーデルは確かに珍しいが、笑うほどおかしいのだろうか。こてんと首を傾げるベアトリスに、笑いを殺したオリオンが耳打ちしてきた。
「コーデルさんは子供の頃、初恋相手に玉砕しているそうなんですよ」
昔からつき合いがある彼らのことだ。幼少時の話は、互いに周知の事実なのだろう。
「じゃあ、その初恋の人って、みなさんが知っているんですよね?」
ぜひとも聞いておきたいと思うほど、コーデルに興味はない。ただ、何かの機会に「あの人だよ」と教えてもらえたらいいな、程度の気持ちで尋ねただけだ。
「あー、知ってるけど……」
「人には忘れてしまいたい記憶が、少なからずあるものですけれど。コーデルの場合は、死んでも忘れられないでしょうね」
頑なに黙り込んだコーデルに、ヴァーノンがもごもごと言葉を濁す。メイベルはこの上なく楽しげで、華やぐ笑みすら浮かべている。テレンスはいつもどおり、自前の大きな手鏡と、ニヤニヤしながらにらめっこだ。
「私は当時を見ていませんが、天使と見まごう愛らしい子、だったそうですよ。私が出会った当時でも、その言葉に納得の美少女でしたからね」
笑いを堪えすぎて、気づけば苦笑しているように見えるオリオンの言葉で、とうとう耐えきれなくなったのか。メイベルとヴァーノンがそろって噴き出した。その上、ヴァーノンは本気で腹を抱えて笑い転げている。
何となく感じる疎外感。
急に、どうでもよかったコーデルの初恋相手が、じわじわと気になってきた。
「そんなに笑うことなんですか?」
「まあ、そりゃあ……僕でも天使かと思った子が、まさか男だなんてね」
「……え?」
目尻にうっすらと涙のにじんだヴァーノンが、必死に声をしぼり出せば。
「メイベルさんは、今でも十分に美女で通用しますけれどね」
後を引き継いだオリオンのひと言。とたんにコーデルが奇妙で奇っ怪な悲鳴をあげ、あたふたと逃げ出した。
しばらく目を瞬かせていたベアトリスだが、徐々に内容が理解できて。
「ひょっとして、コーデルさんの初恋の人がメイベルさんで、でも、メイベルさんは男の人で……ってことですか?」
「そのとおりでしてよ。コーデルには、きっちりと証拠を見せて差し上げましたの」
相変わらず妖艶な微笑みのメイベルは、スッと立てた長い人差し指を、唇にそっと当てる。意味なく溢れ出る色香に、知らず知らず当てられそうだ。
正直なところ、できれば否定して欲しかった。だが、メイベルだけでなく、ヴァーノンとオリオンも肯定している。
(え……じゃあ、あたし、男の人にあんなことを……?)
同性と信じていたからこそ、相談したのに。
そもそも、前提の『女同士』からして、まったく違っているではないか。
頭がクラクラして、頭がガンガンと痛む。自分が今、きちんと真っ直ぐ立てている自信が、まったくない。
「安心なさい、ベアトリス。わたくしは、身も心も永遠に、十七歳の乙女! ですのよ」
「あ……安心なんてできません!」
プルプルと震える拳をギュッと握り締め、ベアトリスは辺りに響き渡る声量で叫んだ。
これで、えんため大賞ガールズノベルズ部門に投稿した分は終了です。
読んでいただき、ありがとうございました!
週1ペースになりますが、考えていただけの続きを書いていこうと思います。
今後とも、よろしくお願いします。




