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四番街の弓姫は新米団長  作者: 日咲ナオ
第一章 始まり
19/80

終章

「……なあ、初恋ははかなく砕け散るというのは、万人に共通じゃなかったのか?」

 自室へ戻る途中、たまたま会ったオリオンと並び、話ながら歩いていた時だ。背後からいきなり、コーデルに言い放たれた。

 あまりに珍妙な言い回しに、とっさに言葉が出ない。口をパクパクさせているベアトリスと違い、その場に居合わせた他の全団長が声を立てて笑う。

 がっくりと落ち込むコーデルは確かに珍しいが、笑うほどおかしいのだろうか。こてんと首を傾げるベアトリスに、笑いを殺したオリオンが耳打ちしてきた。

「コーデルさんは子供の頃、初恋相手に玉砕しているそうなんですよ」

 昔からつき合いがある彼らのことだ。幼少時の話は、互いに周知の事実なのだろう。

「じゃあ、その初恋の人って、みなさんが知っているんですよね?」

 ぜひとも聞いておきたいと思うほど、コーデルに興味はない。ただ、何かの機会に「あの人だよ」と教えてもらえたらいいな、程度の気持ちで尋ねただけだ。

「あー、知ってるけど……」

「人には忘れてしまいたい記憶が、少なからずあるものですけれど。コーデルの場合は、死んでも忘れられないでしょうね」

 頑なに黙り込んだコーデルに、ヴァーノンがもごもごと言葉を濁す。メイベルはこの上なく楽しげで、華やぐ笑みすら浮かべている。テレンスはいつもどおり、自前の大きな手鏡と、ニヤニヤしながらにらめっこだ。

「私は当時を見ていませんが、天使と見まごう愛らしい子、だったそうですよ。私が出会った当時でも、その言葉に納得の美少女でしたからね」

 笑いを堪えすぎて、気づけば苦笑しているように見えるオリオンの言葉で、とうとう耐えきれなくなったのか。メイベルとヴァーノンがそろって噴き出した。その上、ヴァーノンは本気で腹を抱えて笑い転げている。

 何となく感じる疎外感。

 急に、どうでもよかったコーデルの初恋相手が、じわじわと気になってきた。

「そんなに笑うことなんですか?」

「まあ、そりゃあ……僕でも天使かと思った子が、まさか男だなんてね」

「……え?」

 目尻にうっすらと涙のにじんだヴァーノンが、必死に声をしぼり出せば。

「メイベルさんは、今でも十分に美女で通用しますけれどね」

 後を引き継いだオリオンのひと言。とたんにコーデルが奇妙で奇っ怪な悲鳴をあげ、あたふたと逃げ出した。

 しばらく目を瞬かせていたベアトリスだが、徐々に内容が理解できて。

「ひょっとして、コーデルさんの初恋の人がメイベルさんで、でも、メイベルさんは男の人で……ってことですか?」

「そのとおりでしてよ。コーデルには、きっちりと証拠を見せて差し上げましたの」

 相変わらず妖艶な微笑みのメイベルは、スッと立てた長い人差し指を、唇にそっと当てる。意味なく溢れ出る色香に、知らず知らず当てられそうだ。

 正直なところ、できれば否定して欲しかった。だが、メイベルだけでなく、ヴァーノンとオリオンも肯定している。

(え……じゃあ、あたし、男の人にあんなことを……?)

 同性と信じていたからこそ、相談したのに。

 そもそも、前提の『女同士』からして、まったく違っているではないか。

 頭がクラクラして、頭がガンガンと痛む。自分が今、きちんと真っ直ぐ立てている自信が、まったくない。

「安心なさい、ベアトリス。わたくしは、身も心も永遠に、十七歳の乙女! ですのよ」

「あ……安心なんてできません!」

 プルプルと震える拳をギュッと握り締め、ベアトリスは辺りに響き渡る声量で叫んだ。

これで、えんため大賞ガールズノベルズ部門に投稿した分は終了です。

読んでいただき、ありがとうございました!


週1ペースになりますが、考えていただけの続きを書いていこうと思います。

今後とも、よろしくお願いします。

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