序章
美しい白金色の、長い巻き髪。ゆさゆさと胸を揺らして歩く、薄紫色の瞳の美女だ。コツコツと、靴音を高らかに響かせる。前後から脇にかけて長い、金の縁取りがされた紫色の上衣の裾が、ふわりと翻った。
彼女の上衣は、貴人や要人の警護を主な仕事とする、リナリア騎士団長の証だ。
申し訳程度にドアを叩く。彼女は明快な許可を得る前に、一気に開け放った。そのまま真っ直ぐ、目的の人物の前に進み出て軽く頭を下げる。
騎士としての礼は取らなかった。
「陛下……とうとう、女性のみが所属する、女性専用の騎士団を作られるそうですね」
女性にしては声が低い。だが、あまりに妖しい色香を放つ彼女の喉からこぼれると、なぜか中性的な魅力を付加してしまう。
見慣れ、聞き慣れているのか。国王は机に頬杖をつき、ただただうんざりした顔で彼女を眺めている。
「貴婦人方からの要望でな。いくら美男子ぞろいのリナリア騎士団とはいえ、日の大半を男に警護されては落ち着かないそうだ」
心外だ。
きっぱりと、そう顔に大きく書いた彼女は、スッと目を細める。指をピンと伸ばしてそろえた右手を、おもむろに胸に当てた。
彼女の仕草は、どこまでも優雅だ。
「わたくしの警護でもですか?」
「むしろ、お前が団長として警護に当たっているのが一番の問題だ、と言われたんだがな」
「まあ……美しすぎることも罪、というわけですね」
彼女はふるふると首を左右に振りつつ、胸の手を頬に持っていく。ほうっと、艶やかなため息をついた。
呆れ顔に怒声を乗せて、国王はイライラしながら言い放つ。
「お前がそんななりだから、苦情が殺到したんだ。裏切られた、とな」
「それこそ心外ですわ。わたくしは、身も心も永遠に十七歳の乙女ですのに!」
頬に手をピタッと当てたまま、彼女は首を軽く左に傾けて、密やかに眉根を寄せた。
全身をブルブルと震わせる国王の、硬く握り締められた拳。それが、仕事机に勢いよく振り下ろされる。
「いい年をして、ふざけたことを抜かすなぁーっ!」
「ですから、わたくしは、身も心も! 永遠に! 十七歳の乙女! でしてよ」
「いい加減にしろーっ!」
まったく悪びれなく、堂々と言い切った彼女に、もう一度国王の雷が落ちた。