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第7話 遠く離れた島に

ニュースキャスターが次のニュースを伝える。

キャ「さて。みなさんご存じのハリウッドスター、LDプリオさんが所有する島。先日そこでとても奇妙な出来事が起きたという報告が入りました。現地から伝えてもらいましょう。リポーターの守屋さん!」

画面は現地に切り替わった。

守「はい! 守屋です。私は今、あのLDプリオさんの別荘のある島に来ています。今回は特別な許可を得て取材することができました。ここで先日とても不思議なことが起きたということで、島の管理人でLDプリオさんの付き人でもあるトムさんにお越し頂きました。さっそく話を聞いてみたいと思います!」

トム「トムです。どうぞよろしく」

守「よろしくお願いします。さっそく今回起きたことを話して頂けますか?」

トム「OK。先日のことです」

守「はい」

トム「私は仕事の一環でLDプリオがこの別荘に来る直前に島を見回るのですが、そこで思わず目を疑う光景を目撃したのです」

守「それは!?」

トム「あれが見えますか?」

トムが島の遠方を指さす。

守「はい。山が見えますね」

トム「そう。あの山・・ 実は先週まではありませんでした」

守「なかったと言いますと!?」

トム「もともとこの島は、あの山の手前までしかない小さな島なのです。しかしあの隆起した山が現れ、実質、島の大きさが以前の倍以上になりました。わずか1週間ほどの間にです」

守「本当ですか!?」

トム「ええ」

テレビに見入る店員と浦島も目を丸くした。

そして浦島は、そこにあるものを見た!

浦「あれは・・ まさか・・」

テレビの中では二人のやり取りが続く。

守「いったいどういうことなのですか?」

トム「詳しいことは私にも分かりません」

守「地震や火山活動によって新たな陸地が現れたということでしょうか?」

トム「それはないでしょう。この短期間ですから」

守「ではこの一週間に何が・・」

トム「考えられるとしたら、別の島が急接近して、この島と結合した・・」

守「別の島!?」

トム「細かいことは専門家に調査を依頼しています」

守「不思議ですね」

トム「それが、まだ驚くのはまだ早いのです」

守「!?」

トム「あの山の密林の中に、一本だけとりわけ大きな木が分かるでしょうか?」

テレビに映し出された光景に浦島は驚愕した。

浦「あっ! あれは! 間違いない・・ あの木」

店員「え? 何ですって?」

浦島の異変に気付いた店員も戸惑いをみせた。

緊迫したトムと守屋のやりとりが続く。

守「はい見えます! なんでしょうあの木は?」

トム「不思議な木でしょう?」

守「まるでジャックと豆の木のようですね」

トム「そう。そして私が昨晩あの島を眺めていた時です。島の高い所で何かが光っていたのです。気になりよく見ると、どうやらあの木のてっぺんから発せられているようでした。まるで灯台の明かりのように」

守「ほう」

トム「光は空に向かって伸びていました。光の正体を突きとめようと、私はすぐに連絡を入れ、LDプリオの専用ヘリで木を調べてもらいました」

守「いったい何が?」

トム「すると木の上からこんなものが見つかったのです」

足元のカバンからある物を取り出した。

それは小型のサーチライト。

守「そのライトが!?」

トム「はい。よく見るとここに文字が見えます」

守屋にライトを差し出し見せるトム。

守「これは・・ しんかい2000と書いてあります」

トム「はい。つまり日本製ということです。同時に日本人がこの島に侵入した可能性も出てきました」

守「これは少し前に消息を絶った日本の船ですね」

トム「そうなのです。私もその話を聞いた時は驚きました。まさかその船の船員がこの島に? とてもそうは考えられない」

守「謎ですね。トムさんありがとうございました」

守屋はカメラに向かい。

守「どうやらこの件は日本のしんかい2000が強く関係している可能性が高そうです。ということもあり、我々が優先的に取材を許可された訳ですが、ここで一度スタジオにお返します!」

ニュースはそのあとも続いた。

浦島は何かに化かされている気分だった。

しかし目の前の出来事は全て現実。

浦「やっぱりそうだ。あのサーチライト・・」

しばらく放心状態の浦島。

店員「あの・・ 大丈夫ですか?」

店員が気遣う。

すると突然浦島がソファーから立ち上がり店員の肩をゆする。

浦「お願いだ。あそこに連れて行ってくれ! 今すぐ!」

店員「ど、どうしたのですか!?」

浦「あれは私がいた島です!」

店員「ちょっと待って下さい。LDプリオの島は、確かハワイ島の近く。ここからは5000キロ以上離れた場所です! そんなところにあなたがいたなんて? まさか~ ハハハ」

冗談と店員も笑うが。

浦「嘘ではありません! その証拠に、あのライトも私が使っていたものです!」

店員「本当ですか?」

言われてみればライトには、しんかい2000という文字が書かれていた。

そして、この浦島が救助された時に乗っていたのがしんかい2000となると・・

あながちデタラメとも思えない。

浦「だから早く私をあの島に!!」

店員「わ、分かりましたから落ち着いて!」

興奮がおさまらない浦島を必至に抑える店員。

店内の騒ぎが静まったのは、数時間後であった・・



銅次郎のねぐらに戻り浦島はテレビで見たことを話した。

銅「そうか・・ 不思議な話だ」

浦「はい。私はその島に行ってみようと思います。あのテレビが映している物が真実だとしたら、この目で確かめたい。幸いその島まで案内してくれる人も見つかったので」

銅「いつ行くのだ?」

浦「今晩出発する予定です」

銅「気をつけてな」

浦「はい。ただ・・ テレビ局に私の存在を知られてしまったら・・」

銅「こうなってしまったら仕方あるまい・・ だがまだ誰もお前さんが浦島太郎と知っているわけではないのだから、そこは伏せるように心掛けるのだ」

浦「はい」

銅「無事を祈っているぞ」

浦「行ってきます」


その晩。

浦島は再び電気店に足を運んだ。

そこでテレビ局のスタッフ数名と合流した。

浦島は下の名前は偽名を使った。

初体験となる飛行機に乗り目的地へ向かった。

LDプリオの島に到着したのは翌朝であった。


「ようこそ!」

アメリカの報道陣が待ち受けていた。

テレビで見たトムも姿を見せた。

トム「よくいらっしゃいました」

浦「こんにちは。浦島です」

トムと握手をした。

皆、浦島たち日本人を歓迎してくれた。

テレビで見たまったくの同一人物を目の前に。

浦「トムさん。あなたのことはテレビで見ていました」

トム「そうですか。しかし驚きました。海難事故で救助された方が、こんなにお歳を召された方とは」

浦「よろしく」

まさか1600歳ですと言えるはずもない。

浦島は笑顔で返した。

トム「こんなお年の方がこの島に侵入できるとは思えません」

浦「この島は初めてです」

トム「ではこのサーチライトは確かにあなたのものですか?」

トムはライトを浦島に手渡した。

それは紛れもない。

浦「はい。私のものに間違いありません」

トム「Ou。ますますミステリーですね。ハハハ」

誰もが首を傾げた。

あるものは浦島に疑いの目を向け、あるものはお手上げといった表情であった。

浦「さっそくですが、新しく発見された島を案内して頂けますか?」

トム「OK~ では行きましょう」

トムと浦島、そして日米の報道関係スタッフ含め、計10人ほどで新しい島を回ることになった。

島の周辺を歩くと、浦島が上陸していた時の島とは大分違う印象であった。

浦「この島・・ 随分と大きかったのだな」

しかし数々の証拠から、ここが浦島のいた島に間違いないはずである。

島にいくつか気になる発見があった。

それはところどころに見られる洞窟のような横穴だ。

高さは4mほど。

浦「この大穴は何なのでしょう?」

トム「詳しくは分かりませんが注意して下さい。時々急激な水が流れてきます。おそらく海と直結しているのでしょう」

中でも一カ所特大サイズ、高さ8mはあろうかという大穴があった。

あまりにも深いため、奥はまったく見えない。

浦「この穴は大きいですね!」

トム「気をつけてください。ここは大変危険です!」

浦「どうして?」

トム「この穴からは時々激しい熱風が吹きだしてきます」

浦「熱風?」

トム「ええ。火山ガスかもしれません」

浦「洞窟の中へは入ったのですか?」

トム「いいえ。危険なので、これも後日調査団に依頼しています」

浦「そうですか」

トム「ですので絶対に近づかないように」

浦「分かりました」

なんの穴だろう・・

浦島は気になって仕方なかった。

島の外周を終え、ついに本土の探索が始まった。

足場の悪い地面の連続は浦島の体にはキツかった。

そんな時は、トムやスタッフの力を借りた。

陸に立ち改めて実感する。

浦「やっぱりこの島だ」

浦島はついに探していた無人島に再び降り立ったのだ。


トム「おや? これはなんでしょう?」

砂に埋まっていた何かをトムが引きぬいた。

トム「どうやら食べ物のカスですね。漂着ゴミでしょうか」

浦「見せてください」

それを見た浦島は。

浦「やっぱりそうだ。あの時食べた非常食・・」

彼らは島の中心部へと足を進めた。

浦「あれは!?」

浦島が見つけたのは木の切り株。

トム「誰かが木を切った跡。おそらく人間の手によるもの」

浦島は思った。

浦「おそらく金作と銀作だろう・・ この近辺に小屋を作ったと言っていた」

辺りを見回すが、当然ながら彼らの姿はなかった・・

浦島は悲しい気持ちになった。

トム「大丈夫ですか? ミスター浦島」

浦「ええ」

トム「では大木に向かいましょう」

島の中央の大木に着いたのは、探索を始めてからおよそ5時間後であった。

皆、その木を見上げ思わず声をもらした。

「これは凄い・・ なんと神々しい・・」

浦島は全員の前ではっきり断言した。

浦「これは私が救出された時に登っていた木です。私はこの木の頂上で数日間暮らしていました」

トム「そこであなたのサーチライトが見つかっていますから、疑いようがありませんね」

そこで日本人スタッフが。

スタ「しかし木の上では、食事はどうしたのですか?」

浦「この木の上にはリンゴが実っています。それもとびきり大きいのが大量に」

スタ「本当ですか?」

浦島の話に興味を持ったスタッフの一人が、実際に木に登ってみることにした。

若いスタッフはスイスイと登り、まもなくてっぺんに着いた。

スタッフの声が聞こえてきた。

スタ「本当にリンゴが生っています!」

いくつか下に落とした。

それを手にしたトムは。

トム「驚いた。こんなリンゴを見るのは初めてだ! うん。味も格別だ」

浦「私はそのリンゴのみで暮らしていました」

トム「あなたがこの島にいたことは間違いないでしょう。ただ疑問なのは、なぜその島がここにあるのかということ」

浦「それは分かりません」

トム「ううん・・ ミスター浦島も疲れたことでしょう。どうですか? その話はゆっくり別荘の中でしては」

浦「構いません」

それを聞いた日本人スタッフは。

スタ「別荘!? 別荘ってLDプリオの? 我々も招待してくださるのですか!?」

トム「もちろんですよ。ハハハ」

スタ「信じられない。来てよかった~」

スタッフは興奮がおさまらない様子。

一方ハリウッドスターなどまるで知らない浦島にとっては関係のないことであった。


次話→10/3(日)

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