第6話 ニュースが伝えたもの
それから数日が過ぎた。
浦島が目を覚ますと、そこは銅次郎のねぐらであった。
浦「なぜ私はここに」
銅「気が付いたか?」
浦「銅次郎さん」
銅「心配したぞ」
浦「私は無事だったのか」
銅「テレビのニュースを聞いて、浦島さん達のことはあらかた予測していたが」
浦「ニュース? なんですかそれ?」
銅「この時代の必需品です」
浦「そうですか」
銅「街の電気店で偶然見かけた。おそらくお前さんを乗せたであろう船が遭難したというニュースを。胸騒ぎがしたから連日テレビを見に出かけた。そしてようやく一人の男性が救助されたというニュースを聞いた。報道では身元が分からなかったが、すぐ浦島さんと分かった。病院に駆けつけ確認を取った。ひとまず無事ということだったから、その場で引き渡してもらったのだ」
浦「そうでしたか」
銅「ところで他の二人だが・・」
浦「金作と銀作ですか?」
銅「そう」
浦「彼らはおそらく・・」
浦島は黙ってうつむいた。
その様子に銅次郎も察しがついた。
銅「気の毒だが、今回の事故では無理もない・・」
浦「はい・・ 私が生き残れたのは本当に奇跡です」
銅「まったく。しかしなぜあんな無茶を?」
浦「それは・・」
浦島はいきさつを話した。
銅「そうか・・ それで竜宮城はまだ見つかっていないのだな?」
浦「はい。わたしも乙姫様の真意を確かめたい一心で竜宮城を探しました」
銅「気持ちは分かる。だが焦る必要はないだろう」
浦「はい。今回でそれが困難だと分かりました」
銅「諦めることはないが無理はせんようにな」
浦「心配かけてしまいました。ところで、気になっていたのですが電気店というものを詳しく教えて頂けますか?」
銅「ああそれなら、山を出て数キロ行った所にある街。そこに電気店がある。私も街は詳しくはないが、テレビはとても便利だから出かけた際は立ち寄ることが多いのだ。お前さんも興味があったら行ってみるとよいだろう」
浦「はい」
銅「電気の力はこの時代に不可欠なもの。遭難しているお前さんを発見したのも、灯台の明かりだったと聞く」
浦「あの光が・・ では私が持っていたサーチライトも電気の力・・」
銅「そういうこと。どれも素晴らしいものばかり」
浦「電気の力で竜宮城を見つけることはできるでしょうか?」
銅「ハハハ。それはどうかな~」
二人は笑顔を見せた。
浦島はわずかな希望を感じた。
銅「しかし浦島よ。改めて言っておくが、お前はこの時代の人間ではないのだ。もしお前が浦島太郎と世間に知られたら大変なことになる。それだけは肝に銘じて行動するようにな」
浦「はい。分かっています」
銅「うむ」
銅次郎は安心した様子。
銅「さて飯にしようか。腹が減っただろう」
浦「ありがとうございます」
浦島も手伝おうと体を起こし立ち上がった。
銅「まだ寝ていてよいのだぞ」
浦「もう大丈夫です」
銅「それはなによりだ。ハハハ」
二人で浦島の生還を祝った。
翌朝。
浦島は気持ちを新たに、淋代海岸で海を眺めていた。
浦「ここは私にとって、とても思い出深い場所。1600年前に亀を助け竜宮城に旅立った。そして1600年が経ち。改めてここから竜宮城を目指した。見つけることはできなかったが・・ 次はどんな旅立ちが私を待っているのだろうか・・」
ぼんやりとそんなことを考えていた。
嵐の時とは打って変わって、とても穏やかな海であった。
浦「どうすれば竜宮城に行くことができるか・・ 金作と銀作はいなくなってしまった。これからは全て自分でやらねば」
嫌な二人だったが、今思うと頼もしいパートナーであった。
改めて気を引き締めた。
そしてもう一つ気になっていたものがあった。
あの無人島である。
もうあの島はなくなってしまったのか。
不思議な島だった。
そこで自然とある決心する。
浦「もう一度あの島を探してみよう。望みは薄いが、見つかれば金作達を探せる」
浦島は海岸を後にし、街へ出発した。
やや長い道のりだったが、ようやく着いた。
そこは人で溢れていた。
浦「これが銅じいさんの言っていた街・・」
浦島だけは、年齢といい服装といい明らかに周りの人と比べ浮いていた。
すれ違う人々は好奇の目で浦島を見る。
浦「銅じいさんに言われた通り、自分の存在は伏せるようにしよう」
そう心がけた。
浦「しかしこの時代の人に私の日本語が通じるのだろうか」
それすら疑問に思えた。
さっそく近くにいた人に話を。
浦「失礼ですが・・ 私をご存じですか?」
突然の意味不明な質問に通行人も首を傾げたが。
人「そうだ! あなたしんかい2000で救助された!?」
浦「はい、そうです!」
人「驚いたな~ 無事でよかったですね」
浦「はい」
人「ニュース見て驚きましたよ!」
浦「本当ですか? それで私が救助された場所はどの辺りだか分かりますか?」
人「場所・・ ああ・・ あれは確か、○○岬あたりだったと思います」
浦「ありがとうございます」
浦島はさっそくその○○岬を訪れた。
様々な人に聞きこみをして、ようやく○○岬に辿り着くと、運よくDという人物に接触できた。
D「ええ。私が海にいたあなたを発見し、救助しました」
浦「本当ですか!?」
D「はい。あの時は本当に驚きました。ご無事でなによりです」
浦「お世話になりました」
D「いえいえ」
浦「ところで私が救助された時、私の足元に木・・ いや島があったことはご存じですか?」
D「いいえ。それは初耳ですね」
浦「ではこの近辺に小島は・・ 無人島などはありますか?」
D「それならばいくつかはあると思います。しかしあなたを救出した場所は、位置的に島などはなかったはず」
浦「それは確かですか?」
D「ええ」
どういうことだろう・・
疑問が浮かんだ。
確かにあの無人島がこの近くの島だとしたら、もっと早くに救助を求められたはずである。
しかし無人島で見張りをしていた時、近くに島や陸などは見えなかった。
では嵐の日に何かが起きたのか?
ヤシの実で頭を打ち、気を失っている間に何かが起きたのかもしれない・・
考えるほど頭は混乱した。
結局その日は帰ることにした。
銅次郎のねぐらに着いたのは暗くなってからだった。
銅「今日はどこへ?」
浦「私が遭難していた時にしばらく暮らしていた島があったのですが、そのことを詳しく知りたくて色々な人を尋ね歩いていました」
銅「そうか」
浦「自分の中ではケジメを付けたつもりでも、まだどこかで諦めらきれないのかもしれません。金作や銀作・・ それにしんかい2000の人達のことが・・」
銅「その気持ちは分かる。辛い気持もな。どうだろう? 私が言ったテレビ。きっと様々は情報が手に入るだろう」
浦「そうでしたね」
銅「しんかい2000の海難事故は今でもニュースになっているだろう。何か分かるかもしれん」
浦「はい。明日電気店に行ってみます」
銅「うむ」
翌日。
さっそく浦島は街の電気店に向かった。
店頭に展示されているテレビを初めて見た。
浦「これがテレビ・・」
近くの店員に話を聞いた。
浦「申し訳ないがニュースというものを見せてもらいたいのです」
店員「店内に大型テレビがありますのでご案内いたします」
店員に案内され店の中へ・・
大型テレビの前に来ると、店員がチャンネルを変えた。
さっそくニュースが放送されていた。
そしてまさに今しんかい2000の話題が始まった。
浦「これだ」
ニュースキャスターが話す。
キャ「先日消息不明となったしんかい2000の捜査が今も続いています。乗組員は5名。先日救助された一人を除き、残り四人の安否は確認されておりません」
店員「大変な事故ですね~ おそらく船も見つからないでしょう。助かった人がいると聞いた時は驚きました~」
浦「実は・・ 私です」
静かに言った。
店員「本当ですか?」
浦「はい」
店員「それは驚きました!」
浦「他の仲間のことが心配で・・ あいにく私は山で暮らしていて、情報を入手する手段がない。よければこのテレビを使わせて頂きたいのです」
店員「そういうことでしたら構いませんよ。いつでもどうぞ」
快く承諾してくれた。
そして浦島のためにソファーを持ってきてくれた。
員「お掛けになってください」
浦「ありがとうございます」
ソファーに腰掛け、真剣な面持ちでテレビを見つめる。
ニュースはしばらく続いたが、船の発見は難しいだろうというのが専門家の判断だった。
キャ「ということで、しんかい2000海難事故のニュースは今後も速報が入り次第お伝えしていきます」
そして次のニュースへ。
浦島は大きく息を吐いた。
やはり発見は困難。
しんかい2000のみんなは・・
ニュースの内容は絶望的なものであった。
翌日も、また次の日も、浦島の姿は電気店のテレビの前にあった。
次第に店の従業員の間でも浦島の話題が絶えなくなっていた。
しかし彼が童話の浦島太郎本人という事実を知る者はいなかった。
その日もニュースが始まる。
浦島の期待をよそにこれといった進展はなかった。
そして、ある重大発表が。
キャ「ここで発表がありました。本日をもって、しんかい2000の捜索は打ち切りになりました」
それを聞いた浦島は愕然とした。
浦「なに!? どういうことだ!?」
店員「どうかされました?」
時々あの店員も浦島の様子を見に来てくれた。
店員「捜索打ち切りですか・・ 辛いでしょうが、仕方ないですね」
肩を落とした浦島。
もう打つ手はない。全て終わりか・・
そう思った。
そして静かに言った。
浦「店員さん。お世話になりました・・ もう来ることはないと思います・・」
店員「そうですか。我々としてもお役に立てたのなら幸いです。どうかあなたは元気を出してください。無事生還したのですから、お体を大切に」
浦「ありがとう」
浦島は礼を言ったが、顔に笑みはなかった。
ソファーからゆっくり立ちあがると、店の出口に向かって歩き始めた。
しかしその時。
ふとテレビから流れた、あるニュースの話題にその足がピタッと止まった。
キャ「さて続きまして海外からとてもミステリアスなニュースが入ってきました!」
浦「!?」
店員「おや? なんでしょうね・・」
店員も興味を示した。
浦島は再びテレビの前に戻ってくると、画面に釘付けとなった。
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