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第5話 絶体絶命

金「おーい! 浦島―!!」

銀「返事しろよー!」

浦「!」

その声で目を覚ました。

気がつけば陽は落ち、辺りは暗くなっていた。

金「腹減ったからリンゴを頼む!」

下を見ると二人の姿が。

手にはたいまつを持っていた。

その火がぼんやり灯っていた。

浦島はサーチライトを取りだし、二人の存在を確認した。

リンゴをふたつ取ると下に放った。

金「頂くぞ! それよりお前寝ていただろう!? ちゃんと見張れよ!」

それだけ言い足早に去って行った。

目をこすりながら浦島は体を起こした。

ライトの明かりを遠方に向けた。

ライトは未だに強力な光を放っていた。

電力が衰えている様子はなかった。

日中の太陽光で充電されていたのだろう。

浦島は持ち前の視力を活かし、海を見渡した。

どこまでも静かな海が広がっていた。

特別変わったことはなかった。

ライトの光を見れば、近くを通りかかった船が見つけてくれる可能性は十分にある。

そんな期待感を持った。

できることならば、しんかい2000か乗組員の人達を発見できれば・・

時々そんな考えも。

食事はもっぱらリンゴのみ。

だが不満はなかった。

リンゴ一個で十分な満足感を得る事ができた。

それだけ格別な味わいのリンゴだった。



数日後の朝。

金作達がやってきた。

金「おい浦島元気にしているかー!?」

浦「金作に銀作! 久しぶりじゃないか!」

銀「生きていたか!」

金「毎晩見張りご苦労!」

銀「お前のライトは島のどこからでも見やすくて、方角を知るのに助かってるよ!」

金「それより何か見つかったか!?」

浦「これといって異変はない!」

銀「そうか」

浦「それより腹が減ったのだな? リンゴ落とすぞ!」

リンゴをふたつ落とした。

金「おお、すまないな!」

浦「ところでお前たち、最近まったく姿見せないがどうかしたのか!?」

金「飯のことなら心配いらないぞ!」

浦「そうか。いったい何を食べているのだ!?」

銀「ハハハ。聞きたいか!?」

金「教えてやるよ! 最近色々と島のことが分かってきたのだが、どうやらこの島は夜になると亀が集まるようなんだ!」

銀「それもとんでもない数! おまけにビッグサイズときたもんだ!」

浦「なんだって!?」

金「亀岩と比べても見劣りしないほどだ。中にはきっと竜宮城に行けるヤツがいるに違いない」

銀「そう思って片っ端から乗りまくっているのだ!」

金「だが今のところハズレばかり。甲羅に乗ろうとしても暴るだけ」

銀「中には少し乗っただけで死んでしまう亀もいる」

金「そうなった場合、もったいないから美味しく頂くという訳さ!」

銀「食ってみたらこれが美味なのだ!」

浦「お前たちまたそんな事をしているのか!? リンゴならいくらでもやるから、もう亀に手を出すな!」

金「俺達だって生きていくのに必死なのさ」

銀「そうだ。それに亀岩以外の亀など何の価値もない。食うより他にはな」

金「というより、あの味を覚えたら止められないぜ」

銀「しかしたまにはリンゴもいい。その時はちゃんと落とせよ!」

金「そういうことだ。じゃあな!」

そう言い二人はいなくなった。

浦「おい待て!」

浦島の言葉はむなしく響いた。

彼らの亀に対する愛情は皆無。

昔と変わらなかった。

それを悲しむように空からポツリポツリと水滴が。

浦「雨か・・」

木の上の浦島には雨を防ぐものなどない。

幸い雨脚はまだ弱かった。

しかし降り止む気配もない。

浦島は一刻も早い助けを求めるため、海にライトを向けた。

疲れた時は雨の中でも眠った。

熟睡することはなかった。

救いは気温が高いこと。

もし今が冬だとしたら雨に体温を奪われ、生きていることすら厳しい状況になっていたことだろう。

浦島はどんな現実にも耐え、決して諦めないことを改めて己に誓うのだった。



翌朝、浦島はまたしても金作の声で目覚めた。

金「おい浦島! リンゴを頼む!」

浦「おや? 二日続けてじゃないか!?」

銀「昨日は亀が現れなかったんだ! おそらく雨の影響だろう」

浦「ほう」

昨日からの雨はまだ降り続いていた。

浦「空模様を見ているのだが、どうやら嵐がきそうな予感だ!」

金「本当か!?」

浦「近いうちに大きいのが来るぞ! しんかい2000の時のような。お前達は大丈夫なのか!?」

金「ハハハ! こんなこともあろうかと小屋を作ったんだ」

銀「小さいが木製で頑丈なやつだ! 嵐など問題なしさ!」

金「それよりお前はどうなんだ!? 自分の心配をしたほうがいいぞ! ハハハ」

浦「そうか・・」

金「助かりたかったら、嵐が来る前に救助を呼ぶことだ!」

銀「頑張れよ!」

浦「それより亀にはあまり手を出さないと約束してくれ!」

金「おいおい。何度も言うが亀の心配よりも自分の心配を!」

浦「答えてくれ!」

金「分かった。約束するよ!」

浦「本当か!?」

金「ただし俺たちが竜宮城に着いて、乙姫とやらに会い、この姿を元に戻してもらったらの話だが」

銀「そうだ。それまで亀狩りは続けるぜ!」

浦「待て! これ以上亀を殺すな!」

金「行こうぜ銀作」

銀「おう」

二人は浦島の言葉にはまったく耳を貸さなかった。

浦島は大きく息をついた。

浦「なんとかしなければ・・ だが私に何ができるというのだ・・」

悩んだ。

しかし彼らの言う通り、今は嵐に備えることが先決と考えた。

浦島は近くの枝を数本折り、雨よけにと考えた。

強風で飛ばされないように、ロープと体を改めてしっかりと結び直した。

浦「よし。これで大丈夫」

不安はあるが、できることはした。

浦島の予想通り、雨は次第に激しさを増していった。

そして、その数時間後には強い横風が吹き始めた。

海も荒れ始める。

黒い雲が上空に迫ってきた。

まもなく激しい暴風雨が島を直撃した。

激しい雨が豪音と共に鳴り響く。

浦島の体を打ち付ける。

浦島のいる大木も左右に大きくうねった。

浦「これは予想以上だ!」

必至に耐えた。

油断をすると体が飛ばされてしまいそうだった。

ひたすら木にしがみついていた。

雨は一向に弱まる気配がない。

しばらくして身の危険を感じた浦島は、再び救助の船を探そうと、嵐の中にもかかわらず懸命に立ち上がり、海にライトを向けた。

浦「まだ昼だというのに真っ暗だ・・ くそっ、ダメだ! 立っていられない!」

諦め再び身を屈めようとした瞬間。

強風によってどこからか飛んできたヤシの実が頭を直撃!

そのまま意識を失い、その場に倒れた・・



一方そのころ金作と銀作は・・

自分たちで作った木造小屋に避難していた。

銀「すごい嵐になったな」

金「なあに。この小屋があれば心配ないさ」

銀「そうだな。思ったよりも頑丈そうだ」

金「それに森の中だから、周りの木々が雨や風を多少和らいでくれている」

銀「これを作って正解だったな。狭いのは我慢するとして、嵐が過ぎるまでゆっくりリンゴでも食っていようぜ」

金「そうしよう。しかし浦島は今頃どうしてるかな?」

銀「さあな。ハハハ」

余裕の笑みを浮かべていた二人だったが。

グガガガガガガ。

島に突然の異変。

銀「な、何だ今の!?」

激しい横揺れであった。

金「地震か!?」

銀「見てみようぜ!?」

金作は慌てて立ち上がると、確認のため小屋のドアを開けた。

そこで彼らが見たものは・・

金・銀「うわああああああああああああ!!」



どれくらいの時間が経ったか・・

浦島はようやく意識を通り戻した。

浦「はっ!? しまった。気を失っていたのか。頭が痛い・・」

未だ激しい豪雨の中にいた。

浦「一層嵐が激しくなったようだ・・ すさまじい勢いだ」

自分の声すらまともに聞えぬほどの轟音であった。

だがひとつ異変を感じた。

浦「いや待て・・ これは雨の音ではない・・」

自分の耳を疑った。

浦「波の音だ!」

この島に来てから、常に遠くで聞えていた波の音が、今は極端に近く感じる。

これは幻聴ではないと確信した浦島は、危険をかえりみず木から下を見下ろし愕然とした。

浦「な、なんだこれは!!」

なんと、荒れ狂う波が浦島のすぐ下まで迫っていたのだ!

浦島のいる大木が・・ 

いや、この島が丸ごと今まさに海に飲み込まれようとしていた!

浦「悪い夢でも見ているのか!? まさかそんなことが!」

高所にいたことが幸いして、浦島はかろうじて生き延びていたのだ。

しかし波はみるみる迫ってくる。

水しぶきが容赦なく降りかかる。

浦「いったいどうすれば!」

冷静さを欠くのも無理はなかった。

浦「おーい! 誰か助けてくれー!」

とりあえず叫んだ。

しかし老体から発せられるかぼそい声は、雨の轟音によっていともたやすくかき消されてしまう。

浦「誰かー!! 助けてくれー!!」

それでも諦めずに叫び続けた。

海水が降りかかる。

強風に飛ばされそうになる。

それでも木にしがみつき、必死に叫んだ。

体力は限界を越えていた。

浦「もうダメかもしれない・・」

ついに声を出すことが出来なくなった。

死を覚悟した。

だがその時。

遥か遠くにだが、わずかな光が見えた。

満足に目を開けていられない状況ではあったが、確かにそれは見えた。

浦「光?」

薄れる意識の中、それは希望の光のように見えた。

浦「もしかしたら人かもしれない」

浦島の手は無意識に背負っていたバッグに伸び、サーチライトを取りだした。

そして希望の光に向けてスイッチを入れた。

幸い嵐の中でもライトは強力な光を発した。

浦「頼む! 気付いてくれ!」

祈る気持ちでライトを握りしめた。

そして数分後、奇跡が起こった。

空に今度は別な光が見え、ゆらゆら揺れながら近づいてくる。

それは救助のヘリだった。

救助隊「誰かいるのかー!!」

その声はかすかに浦島の耳に届いたが、返答を返す力は残っていなかった。

浦「上空を飛んでいるのは何だ? 人なのか?」

浦島はライトの光を上空に向けた。

救助隊員はその光を頼りにロープをおろし、ゆっくり浦島の元へ向かう。

隊員から見れば、浦島は海で溺れている人にしか見えないはずである。

そこが木の頂上で、下には島があるとは想像もつかないであろう。

それどころか、人間がいるのかすら確認しずらい状況。

どんなに波にさらわれそうになっても、浦島はサーチライトを持つ手を離さなかった。

隊員も人がいることを信じ降下してきた。

隊「間違いない! 人だ!」

ついに隊員の手が伸びた。

隊「大丈夫かー!! 手を伸ばすんだ!!」

その言葉は浦島の耳に届き、力いっぱい手を伸ばした。

隊員はその手をしっかり掴んだ。

あとは引き上げるだけ。

ところが浦島の体が上がってこない。

原因は浦島の体を繋ぎとめていたロープであった。

隊員はそれを見逃さなかった。

隊「おい! このナイフでロープを切れ!!」

そう言ってナイフを差し出した。

浦島は、ついにここまで世話になったライトを手放し、ナイフを受け取ると、最後の力でロープを断ち切った。

サーチライトは光を放ち続けながら木の上に落ちた。

隊員は力いっぱい浦島を引き上げた。

強風により二人の体は大きく揺れ、困難な救助となった。

ようやく浦島の体が隊員の体に固定されると、ワイヤーを引き上げるようヘリに指示を出した。

そして、無事ヘリに辿り着いた。

それを確認すると、浦島を乗せたヘリはゆっくり旋回し飛び立った。

浦島は間一髪のところで命を取り留めたのであった。


次話→9/26(日)

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