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第3話 嵐の夜

翌朝。

浦島ら計六人を乗せた船が近くの港から出航した。

この時代の船というものに、三人は興味津々であった。

甲板に立ち、空気を胸いっぱい吸う。

金「なんて快適なんだ!」

しばらくして陸は見えなくなった。

浦「驚いた・・ 人力を使わずにこれほどの速度が出るなんて」

金「これが銅じいさんの言っていた文明の力というやつか」

銀「これは期待できそうだ」

興奮する三人。

ふと浦島は疑問に思っていたことを聞いた。

浦「しかしなぜ彼ら、この時代の人が我々に力を貸してくれたのだ?」

金作と銀作が成り行きを説明した。

銀「俺達がお願いしたのさ」

金「そう。いつまでも海で亀岩を待っていても埒が明かないからな。俺達はまず山を出て街を探した。ようやく見つけた街で情報を収集をした」

銀「だが誰も亀岩のことを知っているやつはいない」

金「仕方なく亀の事は諦め、このあたりの海に詳しい人物は誰かと尋ねたら、彼らに辿りついたという訳だ」

浦「なるほど」

銀「しかし彼らでも亀岩のことは知らないと・・ おそらくこの時代にはいないのだろう」

金「次に竜宮城について聞いた」

銀「すると驚くことに、彼らは竜宮城を知っていた!」

金「だが場所までは分からないと・・ どうやら童話の知識らしい。俺達はそれが実在することを話し、探す手伝いをしてほしいと頼んだが、なかなか首を縦に振ってくれない・・」

銀「海底調査には結構な費用がかかるらしい」

金「だがそれで諦めてはいられない。俺は奥の手でお前の名前を出した」

銀「そうしたら途端に了解を得られたわけだ」

金「驚いたぜ。浦島の名前を聞いた時の彼らの顔には」

銀「銅じいさんの言っていたことは嘘でなかった」

金「腹が立つのは、俺達の名前は誰も知らないってことだ」

銀「まったくだぜ」

それを聞いていた浦島は危惧した。

浦「私の名を出したのか!? それは銅じいさんから止められていたではないか!」

金「時と場合によるさ。もっとも今回はそのお陰でこうして協力してもらえたのだ」

銀「そうそう。これで竜宮城が見つかれば何の問題もないだろ?」

浦「不安は残るが・・」

何事もないことを祈る浦島であった。

金「それより竜宮城の場所は思い出したのか?」

浦「そ、それは・・」

言葉につまった。

そして小さな声で。

浦「どうしても思い出せないんだ・・」

銀「なに~?」

浦「必至に思いだそうとするのだが、1600年前のあの時は、夜だったということもあって海中は暗闇。どの方角に進んでいたのか。どれくらいの距離進んだのかすらも見当がつかない状況だったから・・」

金「おい待ってくれ。俺達が竜宮城に行けるかは、お前の記憶にかかっているんだぞ!」

浦「わ、分かっているが・・」

そこへ調査チームの三人が姿を見せた。

リーダー「あなたが浦島さんですよね?」

明るい表情で浦島に近づく。

リ「本当に、本物の浦島太郎さん?」

浦「はい。そうです・・」

自分の正体は、すでに彼らには知られているので、今さら隠すことはしなかった。

リ「信じられません。まるで夢を見ているようだ」

浦「皆さんにはご協力感謝しています」

リ「気にしないでください。それより竜宮城は本当に存在するのですか?」

浦「それは私が保障します。この目で見てきました」

リ「驚いた~ ぜひ私も見てみたいです。我々の手で見つけましょう!」

浦「はい。私も出来る限りのことはします」

リ「ええ」

リーダーは顔を輝かせた。

浦「たった今竜宮城の場所を思いだそうとしていました。しかしかなり記憶が曖昧で、とにかく深く深く潜ったという感覚しか覚えていないのです」

リ「そうですか。分かりました。でも気を落とさないでください。この船は小さくて頼りなさそうですが、様々な機械が搭載されています。超音波を使って海底の様子を調べることもできます。竜宮城が実在することが分かれば、あとは徹底的に調べるだけです」

浦「心強いです」

リ「そうだ。浦島さんにこれを渡しておきます」

リーダーはある照明器具を手に。

リ「それは海上用のサーチライト」

浦「サーチライト?」

リ「はい。小型ですが光は強力です。暗くなった時など、海面や遠くの様子を探るのに使えます。防水性にすぐれている他、太陽電池を使っているので、日中の太陽光で電力を補充することもできます。なので当分は電力切れの心配はありません。ぜひ使ってください。もし海に異常があった時は知らせてください。それから何か思い出した時も」

浦「分かりました。ありがとうございます」

機械の説明はまるで分からなかったが、ひとまず礼を言った。

リ「我々は船内に戻りますので、外のことは皆さんにお任せします」

浦「はい」

リ「では」

彼らは船内に戻って行った。

浦島はしばらくサーチライトを見つめていた。

おや?

ライトの隅に小さな文字が。

『しんかい2000』

浦「しんかい2000?」

銀「ああ。この船の名前らしい」

浦「そうなのか」

金「たいそうな物を預かったものだな。おい浦島。分かっているとは思うが、お前は夜も休まず海を見張るんだぞ。寝たら許さないからな」

浦「言われなくても分かってる」

責任感はあった。


そして夜になると、浦島はライトで海面を照らした。

強力な光に驚いた。

浦「これは凄い!」

しばらく海の様子を観察しながら、過去の記憶を探っていた。

浦「やはり竜宮城のことは思い出せない・・」

浦島は記憶に頼ることを諦めた。



それから数日が過ぎた。

依然竜宮城に結び付く手掛かりはなかった。

その日、しんかい2000は激しい暴風雨の中にいた。

大波で船は大きく揺れ、激しい雨が船体を打ち付ける。

この天候では調査は不可能とみて、浦島も船内に退避した。

だが船内に戻ったからといって、安心してはいられなかった。

あまりの揺れの激しさに物が倒れ、人も左右に振り回される。

「うわああああ!」

誰もが危険を感じた。

そしてその時は訪れた。

しんかい2000は荒れ狂う波に船体を維持できず転覆した。

内部は停電になり、パニック状態となった。

窓ガラスが割れ、大量の水が浸入してきた。

リーダー「みんな落ち着いて!!」

金「浸水だ! どうすれば!?」

銀「このままだと沈没するー!」

浦「ダメだ・・ 私はもう動けない・・」

リーダー「諦めないで! ひとまず浦島さんたちはあの救命ボートまで急いで!」

リーダーの指さす先にはやや小型の赤い救命ボート。

金作と銀作は真っ先にボートに向かい泳ぐ。

そして逸早く救命ボートにしがみついた。

だが浦島にはここ数日の疲労が蓄積していた。

浦「なんとかボートまで・・」

それでも必死にボートを目指した。

リ「浦島さん急いで!」

リーダーが浦島の援助に入った。

浦島の体を抱え、海水にみるみる満たされてゆく船内を泳ぎ、救命ボートまであと少しというところ。

だが金作が突如叫んだ。

金「ダメだ! 浦島を待っている暇がない! 脱出するぞ!」

銀「そうしよう!」

金作らは救命ボートを繋いでいるロープを外した。

ボートは荒れ狂う海に放たれた。

浦「ああ!」

リ「待ってくれー!」

呼びかけも空しく、彼らが戻ることはなかった。

リ「くそ!」

浦「おしまいか・・」

浦島の意識は遠のきつつあった。

リ「しっかりして下さい!」

そんな時もリーダーは冷静だった。

瞬時に閃いた最後の手段にでた。

リ「こうするしかない!」

近くにあった救命うきわ二つを浦島の体に通し、さらに浮力を得るためにリュックを手に取り、浦島の肩にかけた。

そして祈る気持ちでを浦島の体を割れた窓から船外へ突き出した。

リーダー「どうかご無事で・・」

数分後、荒れ狂う海はしんかい2000を完全に飲み込んだ。



翌日。

街中のとある電気店の店頭に展示されているテレビの前に銅次郎の姿があった。

銅次郎「おや?」

ニュースが放送されていた。

アナ「ここで速報です。先日出航したとみられる、しんかい2000の行方が分からなくなっています。船には乗組員三人と、観光目的とみられる老人が三名が乗っていたと思われます。現在捜索が始まっています」

銅「老人三人・・」

浦島達から何も聞かされていない銅次郎は胸騒ぎを覚えた。

銅「まさか・・」

銅次郎はその足で海岸に向かった。

砂浜には浦島たちのものとみられる足跡は残っていなかった。

銅「ここ数日は海岸には来た形跡はない。つまり何処かへ・・」

ますます不安が募った。

その時上空をヘリコプターが三機ほど飛んで行った。

銅「きっと大丈夫だろう」

銅次郎は浦島たちを信じた。


次話→9/20(月)

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