第2話 助っ人
海岸に立つ三人は互いに顔を見合わせた。
銀「なあ金作、俺たちこれからどうする?」
金「そんなこと知るか! おい浦島! どうするつもりだ!?」
浦「どうするって・・」
金「責任を取れ! 全てはお前が持ってきた玉手箱のせいじゃないか!」
銀「そうだ! 俺達をあの時の子供の状態に戻せ!」
浦「そんなことを言われても・・」
金「さもないと許さないからな!」
浦「確かに玉手箱を持ってきたのは私だ。しかし責任はお前たちにもあるはず」
金「口答えか?」
一向に聞く耳をもたない金作たち。
口論はしばらく続いた。
金「ハアハア。ダメだ。少し声を荒げただけで息切れする。老人の体ではまともなことはできそうにない」
銀「少し落ちつこうぜ金作」
金「何か手立てを考えるぞ。このままくたばってたまるか!」
銀「そうだな」
金「先決なのは、やはり竜宮城を探し出すこと。そこには俺達を若返らせる方法があるに違いない」
銀「そうだな」
金「しかし海底のどこにあるかも分からぬ場所に行くのは不可能。だから・・そうだ! 玉手箱を探そう。見つかれば何か手がかりをつかめるかもしれない」
銀「よし分かった」
金「おい浦島! 始めに言っておくぞ! 今後はお前が率先して動くんだ! それから俺達の指示には従ってもらうからな!」
浦「分かったよ金作・・」
抵抗しても無駄と分かっていた。
それに浦島も竜宮城を探し出し、もう一度訪れたい。
その気持ちは金作と変わらなかった。
玉手箱の探索が始まり、三人は海岸付近をくまなく探した。
土や砂を掘り起こし、森林に入っては木や草の陰などを細かく見て回った。
玉手箱はとても美しい箱。
あればすぐにでも気付きそうなものだ。
しかし一向に見つかる気配はなかった。
無理もない。
かれこれ1600年前の出来事である。
誰かが持って行ったか、波にさらわれてしまったかもしれない。
見つかる方が奇跡である。
銀「ぜんぜん見つからない」
金「くそっ。やっぱり無理か・・」
気が付くと夕暮れ時だった。
金「仕方ない。今日は諦めて、銅じいさんのねぐらに引き上げよう」
銀「そうだな」
そんな時、浅瀬に何かを見つけた。
海を見ていた浦島がそれに気づいた。
浦「おや? あれは?」
金・銀「?」
指さす方向に目をやると、1メートルほどの黒い物体が。
浦島にはすぐ分かった。
浦「亀だ」
金「何だって!?」
言われてみると、それは確かに亀の甲羅である。
金作と銀作は逃がすまいと近づき、勢いよく飛びつくと、甲羅を掴み持ち上げた。
予想以上に大きな亀だった。
亀「ウーー」
手足をバタつかせて暴れる。
二人は亀を陸に連れていった。
金「おい銀作! こいつあの亀岩と同じ種類じゃないか!?」
銀「そうだな。この海岸に来たということは可能性あるぞ」
金「こいつをとっちめれば竜宮城に行けるかもしれねえ!」
銀「本当かよ!」
興奮する二人。
金「おい亀! 俺達を竜宮城に連れて行け! おい何か答えろ!」
亀は海に戻ろうと必死である。
銀「どうやらダメそうだ。喋る気配もないし・・」
それを見た浦島が駆け寄った。
浦「おい待て!」
金「なんだよ」
浦「これは亀岩ではない! 大きさがそもそも違うではないか」
金「くそっー」
金作は再び亀を掴むと、海に放り投げた。
浦「な、なんてことを!」
浦島は亀を気遣った。
どうやら怪我などはなさそうだ。
それを確認すると海に返した。
そして二人の元に近づき。
浦「お前たちはあの時とまったく変わっていない。もっと生き物を大切にしろ」
金「なんだと!? おい浦島、俺に何度も同じ事を言わせるな! 態度がデカイぞ!」
一方銀作が海を見ていると。
銀「おい金作! あそこにも亀が」
金「なに!?」
金作が駆け寄り、先ほどと同じように持ち上げてみるが・・
喋らない上に亀岩に比べると小柄だ。
金「これもダメか!」
またしても亀を乱雑に投げ捨てる金作。
浦島は思わず目をそむけた。
銀「くそっ」
金「でも分かったぞ。どうやらここは亀が集まりやすい場所のようだ」
銀「産卵地なのか?」
金「分からないが、待っていればいつか亀岩が現れるかもしれない」
銀「そうだな」
金「おい浦島! 今日のところは俺達、銅じいさんの所に戻るから、お前はここで一晩見張っていろ!」
浦「ええ?」
金「もし亀岩が現れたらすぐに知らせに来いよ。いいな!?」
銀「そういうことだ。分かったな浦島。今度もお前一人で竜宮城に行ったりでもしたら許さないからな」
浦「わ、わかった・・」
やむなく引き受けた。
金「よし銀作行くぜ」
銀「おう」
浦島は海岸にひとり残ることになった。
大きく息を吐き気持ちを落ち着ける。
しばらく海を眺めていた。
浦「もしまた亀岩に会えて再び竜宮城に行くことができれば、乙姫様が私に玉手箱を与えた真意が聞けるはず。絶対に諦めないぞ」
身体的な疲労はあったが、辛くはなかった。
時間が経つにつれて、亀の姿が多く見られるようになってきた。
浦「暗くて見づらいが、月明かりが頼りだ」
目を凝らして一匹一匹見てゆく。
浦「どの亀も小柄だ。亀岩ではない・・」
浦島は休むことなく見張り続けた。
翌朝。
金「なに!? 来なかった?」
浦「ああ・・ ずっと見ていたが」
銀「うーん」
二人は頭を抱えた。
金「まだ諦めるのは早い。こうなったら根気勝負だ。全員で探すぞ」
銀「ふー」
それから数日間、三人で協力し亀岩を探し続けた。
夜は浦島が一人残った。
しかし日を重ねても結果は同じどころか、次第に海岸に見せる亀の姿も少なくなっていった。
一週間後には金作と銀作も諦めたのであろうか。
海岸にすら姿を見せなくなった。
浦島は一人になってからも何処に行くわけでもなく、ぼんやり海を眺めていた。
腹が減ると山で木の実を取り、銅次郎の世話になることもあった。
亀岩は果たしてこの時代にもいるのだろうか。
序々に不安が募った。
そんなある日。
久々に金作と銀作が海岸に姿を見せた。
それも見知らぬ男を引き連れ・・
金「よう浦島。相変わらずって顔だな」
浦「ああ・・ まったくダメだ」
金「そう思ったぜ。だから心強いパートナーを連れてきたって訳だ」
浦「いったい誰なのだ?」
浦島の問いに同行してきた男の一人が答えた。
男「我々はこの海域を中心に海底調査などをしているチームで、私がリーダーを務めています」
別に二人の男がいた。
どういうことなのか、浦島には状況が理解できない。
リーダー「海底の調査については我々ができる限りの協力をします」
浦「え? しかしなぜあなた達が?」
金「おい聞いたか浦島。彼らは海底の調査を専門に仕事しているらしい。もしかしたら竜宮城を探し出すこともできるかもしれないだろ?」
浦「本当か?」
金「ああ。いつまでも海岸で待っていても時間の無駄。だったらこちらから乗り込もうって訳よ」
浦「そんなこと出来るのか?」
金「それは彼らの力とお前の記憶次第だ。いいか!? できる限り詳しく竜宮城の場所を思い出せ!」
浦「分かった。できる限りのことはしてみるよ・・」
金「よし」
リーダー「では明日の朝出発でよいかな?」
金「頼むぜ!」
三人は希望を膨らませた。
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