時には馬鹿げたことを
「これをすると楽になれるの」
この言葉に嘘はなかったと思う。
少なくとも当時の私は本気でそう思っていたし、そう感じていた。
振り返れば気を引きたいというものもあったかもしれない。
事実、今も昔もそんなことを言う人はいる。
『自分が惨めであると訴えれば誰かが助けてくれるとでも?』
こんなことを言ったのは誰だっただろうか。
幼い頃からの友達だろうか。
私を呼び出した教師だろうか。
それとも他ならぬ私自身だろうか。
いずれにせよ、その言葉は今も心で反響する。
重く、鈍く。
十代の私にとって生きるということは永遠で。
終わりがないからこそ、終わらせるしかなくて。
かといって決定的な事をするほどの勇気もなくて。
そして、きっとその方法も分からなくて――。
『飛び降りれば一発じゃん。それが出来ないというのは結局』
その通りだと思う。
大人になった今ならそう分かる。
だけど、あの日の自分を否定するつもりもない。
――だから。
「なんでそんなことしているの?」
間抜けな顔をして聞いてきた男子。
教室から離れた場所にある、あまり人の通らない階段。
夕日が差す、時間。
手首にあてたカッターナイフは冷たくて、重くて、皮膚を裂く感覚は心地良くて、でも直後に痛みがきて。
「ねえ。なんで?」
馬鹿にしている感じはない。
刃の冷たさも、手首の血の温かさも、それを綯い交ぜにする痛みも全てが嘘らしく思える。
だから、必死に口にした。
「こうすると楽になれるの」
見られたかったのか。
見られたくなかったのか。
どちらも分からない。
「マジで? やらせて!」
「えっ?」
躊躇いもなく奪われた刃はそのまま流れるように男子の手首に当てられる。
思い切り。
「いってえ!」
馬鹿げた声が出る。
馬鹿にされたのだと思い顔が赤くなる。
だけど――。
「全然気持ちよくないじゃん~」
浮かべた笑顔がくしゃくしゃだったのに何故か安堵した。
「とりあえず消毒しよ? ね」
そう言って手を掴まれて歩き出す。
半ば強制。
けれど、抵抗はなく。
血が廊下に落ちた。
二人分。
足音が響いた。
これも二人分。
「こっちの方でさ。女の子の幽霊が出るって聞いてさぁ」
男子の声は場違いに軽快だ。
「幽霊が見れると思ったら。鮫川さんなんだもん」
快活な声。
それが必死に演技したものだと知るのはもっと、ずっと後になってからだ。
それこそ、大人になってから。
後に良き友人となる彼は。
今のところはお節介で、分からずやで、ふざけた男子でしかない。
この時の私は彼に馬鹿にされたと思い、信じ、本気で腹を立てていたはずだ。
だけど、その手を振り払うことも足を無理やり止めることもなかった。
たんたんと足音が大きくなる。
今にして思えば、この音が自分にとっての目覚めの音だったのだと思う。
そんな、ずっと前の記憶




