8、昔と約束
文化祭も終わりまた、授業が始まり、いつもの日常が戻ってきた。直後は疲れなのか、授業中にウトウトする生徒たちが多々いた。
そんな日が数日あったが、みなが回復し元気になると元のように生活に戻っていった。相変わらず、都羽咲はクラスメイトからは分からないことを聞かれる日常に戻ってきた。変わったことといえば、彼女がいないと暖陽が聞かれるようになったこと。文化祭前のテストで実力が証明されたからであろう。
「大空くん、これ聞いてもいい?」
「⋯⋯あぁ、これは⋯⋯」
暖陽が教えると、喜んで席へ戻っていった。
聞かれると言っても、やはり彼に聞きに来る子は大体女子が多く、都羽咲に聞きに来るのは男子が多い。2人とも人気がありモテるようだ。
「大空いるか〜!? 」
「⋯⋯なんですか」
それ以外にも暖陽には、未だこうしてたまに殴り込みに来る人がクラスに訪ねて来ることがある。人によってはすぐ殴りかかってくる人もいるくらいだ。
「決闘だ! 来い」
「はぁぁぁー··········、わかりました。行くのでその手引っ込めてくれます? みんな怖がってるので」
暖陽は訪ねて来た人へ返事を返しついて行く。教室の中で問題起こされるのは他の生徒に迷惑がかかるので従う事にしていた。
そして人気のない所へ連れてこられた瞬間、だいたいの人は殴りかかって来るが、運動神経の良い暖陽は巧みに交わし、返り討ちにして戦闘不能にさせることが多かった。そのくらい適うものは居ないのに彼に闘いを仕掛ける人は絶えない。
「チッ⋯まだ適わねぇか。大空、俺たちを鍛えてくれ」
「イヤだ。おれはもう面倒な闘いはしねぇ」
「⋯⋯⋯女か。あの次期生徒会長と言われてる」
暖陽はピクリと反応したが沈黙をした。それが応えだと示していた。だが、何も言わず暖陽はその場を去り教室へ戻った。
教室に戻るといつものように都羽咲は机と向き合っていた。暖陽が、隣の席に戻ってくると彼女は顔をあげ笑顔を見せた。
「大空くん戻ってきたんだね」
そう言ってバックから、絆創膏を出すと頬にペタッと貼られた。気がついていなかったが擦りむいていたらしい。
「⋯⋯ありがとう、都羽咲」
「大空くん⋯⋯突然名前呼ばないでよ⋯どうしたの?」
「ん? あぁ、戻る間に湊都さんから連絡来て“今日来ない?”って言われてさー、なんか、2人とも白石だから面倒だなーって思ったから。俺に名前呼ばれるの嫌だ?」
「⋯⋯嫌じゃないけど⋯⋯」
答えに詰まると彼の顔はニコリと笑う。その顔がなんとも言えないイタズラを思いついた子どものようだった。
「嫌じゃないなら恥ずかしいか」
「⋯⋯もういいよ。好きにして⋯⋯。というかお兄ちゃんと連絡取り合ってたの」
「あぁ、前に一緒に会っただろそん時にな」
「そう⋯⋯それで、来るの?」
「⋯⋯何、行ったら迷惑?」
首をかしげ顔をのぞき込まれ見られて都羽咲はドキッと胸が高鳴った。
「⋯⋯迷惑じゃないよ。お兄ちゃんが呼んだのなら別にいい。お兄ちゃんの家だし」
「なんで、お前の家でもあるのに他人事?」
「だって、お兄ちゃんが買った家で私は居候だし」
他人事のように都羽咲は言っているが、暖陽は彼女の兄がどれだけ想っているかを知っていた。メールのやり取りはあの日からしており、湊都はかなりシスコンだと言うことを。そして何となく忘れている記憶を呼び起こされている気がすることも。
放課後、生徒会の仕事のある都羽咲を暖陽は教室で待っていた。わざと隣の彼女の席に座って。一応教室で待ってる約束はしたものの彼女が、先に帰りかけないような気がしていてわざとそうしたのだった。
ただ待ってるだけでは終わらないのも彼だ。放課後でも待ったなしに殴り込みに来る人はいた。彼がここにいると知れば来るものは来る。当然ながら返り討ちにして追い返し彼女の席へ戻っていることは言うまでもなく⋯。
「大空くん? お待たせ」
「⋯⋯ねぇ、あれ? 寝てるの? ⋯⋯は、暖陽くん」
都羽咲は自分の席で寝伏せいる彼の肩を軽く叩きながら名前を呼んだ。するとクスクスと笑う声がする。
「ねぇ! 起きてるなら返事してよ」
クスクスと笑いながら顔をあげる暖陽は楽しそうだ。
「もう! なんで笑ってるの」
「いやー、都羽咲に名前呼ばれる嬉しいなと思って。それより早く行くよ」
「あ、え? 待って、は⋯⋯大空くん」
「⋯⋯いや、そこは呼べよ。言いかけて止めんな」
「だって、なんか恥ずかしいし」
正直にボヤきながら先を行きかけて振り返っていた彼を追い越し自分が先を歩いた都羽咲は拗ねていた。なんだかバカにされたようで良い気がしなかったからだ。
「そうか。まぁいい、行くぞ」
待っていたのだから早速行くことに。家の場所は知っているのだから先に行っても良かったがあの溺愛するシスコンに見つかれば恨まれそうだ。
呼ぶ呼ばないでしばらく猛攻を続けながら家へ向かったのだった。
「おかえり都羽咲。暖陽いらっしゃい」
家に着くと湊都が中で待っていた。家の中へ招き入れられるとリビングへ通された。
「都羽咲は着替えておいで」
湊都に促され、リビングから続く隣の部屋へ入っていく。都羽咲が言われた通り着替えて出ると、リビングにはアルバムを広げる暖陽の姿があり、その奥のキッチンで夕飯を作る兄の姿。
「何か思い出した?」
「うん。都羽咲が可愛いね? ほら」
「⋯⋯可愛いじゃなくて思い出したか聞いてるのに!」
「⋯⋯思い出したよちょっとだけね。これとか、俺が都羽咲を泣かしちゃった時の写真だろ」
幼い頃の写真を1枚指さして暖陽は言った。写真の都羽咲は泣いていて、暖陽は仏頂面で写っていた。それ以外にも次々と「⋯これは」と指しながらエピソードが出てくる出てくる。見れば思い出す写真では仲良く遊ぶ2人の姿があった。兄湊都の言う通り昔よく遊んでいたのは間違えないようだ。
「⋯⋯あ、これ俺が親戚に引き取られて離れることになった日だ。俺、親戚とこ行くの嫌で仏頂面で、都羽咲は俺と離れるの嫌で大泣きしてて」
「⋯⋯うわぁー、こんなのもあったんだ。泣いてる私になんか言ってくれてたよね? なんだっけ?」
「⋯⋯⋯いや、忘れたよ」
写真を見つめながら暖陽は応えるが実は何を言ったのかは覚えがあった。記憶の片隅で写真を見たことで一気に忘れた記憶が蘇っていた。だが、忘れている都羽咲にはまだ話したくないと思うと自分も忘れているふりをしている方が良いと思った。思い出してもらうにも今は恥ずかしさが勝って話せるはずがない。これはまたの機会にすることにしたのだった。




