6、デート、兄登場
心待ちにしていた望んだデートの日。
暖陽は楽しさ半分と緊張半分で約束の場所へ向かっていた。一方、都羽咲も初めてのデートに緊張していた。彼女かなり服装には悩んで、昔、母に貰った服を選んだ。それが自分に似合っている自信がなかった。なので、服装が合ってるかなと何度も身なりを確認した。
待ち合わせ場所に着いた、暖陽は辺りを見渡す。まだ居ないのかと思ったその時、近くで都羽咲の声がした気がして耳を済ませ、辺りを探すと男に囲まれた彼女の姿を見つけた。暖陽は近づいていくと、男が彼女の手を掴もうとしているところだった。慌ててその手を抑えこみ、都羽咲の前にたった。そして男たちを睨みつける。
「⋯⋯おい、俺の連れなんだけど?」
「俺たちが、先に声掛けたんだ、お前には「あ!やめておけ、相手が悪い! 逃げるぞ!」
「何言ってんだ、俺たちが、「だからやめておけって!こいつ相手じゃやばいから!引くぞ!早く!!」
1人は暖陽に気が付き、慌ててもう1人の男を止めているが、その相手は全く気がついていないようだ。。気がついていた男の方が、青ざめた顔で仲間を引きずりながら“失礼しました!!”と叫んで去っていった。こういう時、裏の顔が知られていると便利である。
「⋯⋯大空くん、ありがとう」
「うん。大丈夫?何もされてない?」
「大丈夫、声掛けられただけだよ」
「なら良かった。じゃあ行こうか」
何も無かったことに安堵し、2人は街を歩きだした。「⋯⋯どこか、行きたいとこある? 俺、女子と出かけることなくて分からないからさ」
「⋯⋯それなのに私を誘ってくれたの?」
問いかけられ、向けられた笑顔に暖陽はドキッと胸が高鳴った。その瞬間、彼の中で今までの彼女に対する特別な気持ちが、恋であることを自覚した。
「⋯⋯白石となら、どこ行っても楽しい気がして」
「そんな風に思ってくれたんだ⋯⋯嬉しい」
「うん。で、白石はどこ行きたい?」
「それなら、行ってみたいところあって」
都羽咲は、携帯の画面を暖陽に見せ、ここに行きたいと伝えた。するとすぐ彼はその場所を調べてくれた。
「⋯⋯ここから歩いて10分くらいみたいだ。行ってみるか」と言った。
彼の行動は、いつも助けてくれるヒーローで、優しさに満ちていた。それはいつかも思ったように、“前にもあった”と記憶が蘇るような感じがした。
だが、いまはそれよりも今を楽しもうと、気持ちを切り替え、案内する彼の後を着いて歩いた。
「⋯⋯あのさ、さっきいい逃したんだけど、その服似合ってるよ」
ふと、彼が思い出したように言った、言葉に驚いて顔を上げると、彼と目があった。少し照れた、その顔は彼女の心臓を高鳴り始めた。
彼といると、昔の記憶だけではない、今という時間で心を惹かれる想いがある。それは特別な感情、恋なのではないかと、思った。
一緒に歩きながら会話を楽しみ、10分と言う時間はあっという間に感じた。
「ここだろ? 入ろっか」
「あ、うん。でも大空くんは、入りずらいよね」
「俺は大丈夫だよ、お前に今日はつき合うよ」
都羽咲は優しく微笑み“ありがとう”といった。
その日、彼は言葉通りとことん都羽咲の行きたい場所へ付き合ってくれた。
帰り道、家に送ってくれると言う彼の言葉に甘え、送ってもらうことになった。家の前まで来たので、礼を告げようと口を開きかけたその時だ、
「あれ? 都羽咲、今帰りか」
「え、お兄ちゃん? おかえりなさい」
後ろから声をかけられ振り返ると、都羽咲の兄、湊都がいた。
「あぁ、ただいま。こちらは⋯⋯? もしかして、暖陽くん?」
「え、はい。こんにちは」
「あー、覚えてないか? 小さかったもんなー」
湊都は、暖陽のことを知っているような口ぶりで話たが、暖陽は少し恥ずかしそうな顔をしていった。
「⋯⋯覚えてないです、すいません」
「大丈夫、大丈夫。こいつも全然覚えてないだろうし」
そう言って指した都羽咲も首を傾げ“えっ?”と驚いた声を出し兄を見つめていた。
「⋯⋯まぁ、ありがとうな、暖陽。妹を送ってくれて。二人で出かけてたのか?」
「はい。そうです」
家の前で彼と話していてもどこか懐かしい感じがしてきた。フッと笑った顔は見覚えのあるような気がした。
「⋯⋯お兄ちゃん、大空くんと会ったことあるの?」
「お前もだよ。というかお前がだな。俺はついでかな」
「そ⋯うなの? でも彼といると懐かしい気がしてた」
都羽咲は、暖陽の方を見て顔を傾げて言った。覚えてないけれど、懐かしさのある。それは、以前2人には繋がりがあった証拠なのだろう。
「まぁ、覚えてなくても当然だろ。俺が中学生くらいだったし。お前らは、小学校上がる前だしな」
「⋯⋯それなら俺、小学校上がる頃あたりからしかあんま記憶ないんで⋯⋯」
湊都は驚いた顔をしたが、何となく優しく眼差しで見ていた。
「暖陽。今度時間ある時家においで」
「ありがとうございます。ではまた。しら⋯⋯都羽咲、また明日」
いつものように呼ぼうとした、暖陽は照れ笑いしながら彼女の名前を呼んだ。その表情に都羽咲はドキッとした。
「うん、また明日、⋯⋯は、暖陽くん」
照れくさそうに呼び返した都羽咲に彼は笑顔で返し、手を振りやがて帰っていった。その場に、残された都羽咲と兄の湊都は、暖陽の帰っていく後ろ姿を見送りながら、湊都は都羽咲の方を振り返ると、にんまりと笑いながら、「恋してる顔だな?」と言った。
先にアパートの階段を上がって行った兄を追い、駆け上がりながら「恋してる顔ってどんな?! ねぇ、ちょっと待ってよ、お兄ちゃん!?」と尋ねる。兄は振り返ることなく笑いながら、「自分で考えな〜、お前の中に答えはあるはずだぞ〜」言いつつ鍵を開け家の中へ入っていく。
慌てて都羽咲も中に入り詰め寄るが教えてくれる様子もなく、家の中に入った兄はもう、「夕飯どうするかなー⋯⋯」とブツブツ言いながら冷蔵庫を開けて考え込んでいた。そうしたら兄はもう答えてくれない。仕方なく、都羽咲は自分の部屋へ入り着替えをすませて、兄の言った言葉をもう一度考え直していた。すると扉がノックされ、そっと顔出した兄は言った。
「都羽咲?夕飯さ、ハンバーグでいい?」
「うん。お兄ちゃんの作るやつ好き」
兄は嬉しそうに料理を始めた。
親の居ない都羽咲にとって10個年上の兄は頼れる存在だった。両親が亡くなってから兄がただ1人の家族であるし、彼は都羽咲に対し、かなり溺愛している。
兄とも繋がりがあった暖陽とは、忘れている過去に何があったのか、兄の言う“お前の中に答えがあるはずだ”という言葉もその過去にということに違いないかもしれない。




