幼馴染はハイスペックのくせにモテようとしない
隣に座る幼馴染、栗崎 香織は長い茶髪を耳にかきあげる。
「なあ」
「どうしたの? わからないところでもある?」
ローテーブルの上で数学の問題を解いていた俺のノートを覗き込んだ。
「うん、できてるわよ。合ってる合ってる」
ニコッと微笑む香織は勉強ができる。
だからテスト前のこの時期に部屋に来てもらって教えてもらっているんだけど。
勉強だけじゃない。運動もできるし、美人だ。身体は細めだが、女性らしい膨らみがあるし、良い匂いもする。けど、モテない。性格が悪い訳でもない。
学校では地味な格好をしてなるべく人との関りを避けているからだ。
勿体ないよな。スペックは高いのに青春時代を棒に振るなんて。
「彼氏欲しいとか思わないのか?」
「どうしたのよ、急に」
目を細めて様子を伺ってくる。
「いや、そんだけ綺麗なのに勿体ないなって」
「ありがとう。でも前にも話したことあるでしょ。中学のときにモテて面倒だったって。明にだって何度迷惑かけたことか」
「いや、俺は別に気にしてないぞ。迷惑とか思ってないし」
確かに過去にいろいろ問題はあったが、まだ気にしてたのか。
高二の秋にもなったし、もう大丈夫かと思ったんだけどな。
「ほら、わたしの心配はいいから問題解く」
「お、おう」
ノートに数式を書いていると、
「まあ、彼氏は欲しいとは思うけど」
ボソッと呟いた。
やっぱりか。普段は大人っぽいが香織もそこは女子高生だな。
なんか安心した。俺にも可能性があるってことだ。
「ねえ、なんで普段は地味な格好なのに明の前だと綺麗な格好してると思う?」
「ん、え、あーそうだな」
急な問いかけにペンをテーブルに置き、腕を組んで考える。
「そこは女子だからおしゃれな格好を誰かに見せたいからとか?」
「近いけどハズレ」
だったら一つしか思いつかない。希望的観測だが、まあ間違えても問題ないだろ。
「だったら俺のことが好きだからとか? いや、ちょっと待った! 言ってて恥ずかしくなってきた」
自分の顔が熱くなるのを感じる。
「正解」
「は?」
「で、いつになったら告白してくれるの?」
正解? 正解ってなにが正解なの?
告白ってなにを?
「明って昔からわたしのこと好きでしょ。気づいてたわよ。だから待ってるの」
え? なに? 突然なに言ってるの?
気づいてる? きづいてる? キヅイテル?
……キヅイテルってなに? 何語? 外国語?
「まさかバレてないとでも思ったの。バレバレよ」
脳がパンク状態になる。
香織はくすりと笑いながら頬杖をついた。
時間が経つとともに頭が現実を理解していく。
俺が状況を把握するまで待ってくれた。さすがは幼馴染だ。
「マ、マジ?」
ようやく絞り出た言葉がそれだった。
香織は深く頷く。
「マジ。心配しなくても明以外の男と付き合う気なんてないから」
真剣な顔だ。まあ冗談でもこんなこと言うタイプじゃないのは付き合いが長いからわかっている。
大きく息を吐いて覚悟を決める。
ここまで言わせて告らないのは駄目だ。
答えがわかっていても緊張はする。
唾を飲み込んで、
「か、香織、俺……香織が好きだ。だ、だから付き合ってほしい」
「やっと言ってくれた。わたしも明のこと好きだよ」
口元が緩んだ香織が勢いよく抱き着いてきたので受け止める。
だが、少ししてからすぐに香織が離れた。
急な変化に寂しさを感じる。
「さあ、テスト勉強頑張ろうか」
「切り替え早っ!」
「終わったら好きなだけ甘えていいから、ね」
この後、俺は滅茶苦茶勉強を頑張った。
その甲斐あって成績は過去一で良かった。