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第九話 「婚約成立……のはずですが?」

 ピクニックデートの後……帰りの馬車で婚約をお受けしたい事を伝えた時――アシュレイ様のハートは光りすぎて最早まっ白になっていました。


「アシュレイ様。あの、婚約のお話なのですが……」


「どうされましたかシェリル嬢? まさか、遂に私と婚約してくれる気持ちになりましたか?」


「はい。よろしくお願いいたします」


「そうですよね……やはりもっとお互いを――……え? い、今、なんて……?」


「よろしくお願いいたします、と言いました」


「そ、それってつまり……私と結婚してくださるって事ですか?」


「はい。そうです」


「じゃ、じゃあシェリル嬢はこれから……私の奥さんになって、毎日片時も離れず、常に私の側にいて愛を囁いてくださると言うことですか!?」


「いや、それは物理的に無理です! だいたい婚約期間だってありますし……今すぐ結婚は無理ですからね?」


「尊すぎてむり……むり……無理無理無理、シェリル嬢愛してます。今すぐ結婚しましょう」


「はい!? アシュレイ様、私の話ちゃんと聞いてましたか!?」


「こんな幸福な夢……覚めるくらいならいっそこのまま天に召され――」


「ちゃんと現実ですから! 勝手に死なないで下さい……って、うわ! 眩しい!」


 今までに見たこと無い眩しさだったわ……顔は分からないけれど、恐らく泣いていたんじゃないかしら。


 アシュレイ様は私を送り届けたその足で、私のお父様達にも報告をしに行った。


 その時、お父様達はハートが見えるようになってから初めて……私に『一般的な愛情』を向けてくれました。


 いつもはボロボロの『崩壊した愛』だったのに。


 「おめでとうございます」と言っていた屋敷の女性達のハートは、今まで以上に鋭い棘のハートになっていて『妬み・嫉み』が溢れ返っていました。


 その様子に……確かに傷付いたわ。


 でも、そんな家族達ならもう要りません!


 だって私には――真っ直ぐに『優しい愛』を沢山向けてくれるアシュレイ様がいますから!


 こんな人達なんて放っておいて、私は勝手に幸せ者にならせていただきます!




◇◇◇◇




「き、緊張するわ……」 


 私は今、馬車の中で震えています。


 何故なら、アシュレイ様との婚約話が進み――今日はついに公爵家の訪問の日だから。


 アシュレイ様は……ご両親の事があまりお好きじゃないみたいだけど――出来るならば良好な関係を築きたい。


 ただでさえ家柄が違い過ぎるんだから、しっかりしないと!


 いよいよ、馬車が到着する。


「良く来たね、シェリー! 道中何も無かった? 大丈夫? やっぱり心配だから次からは私がお迎えに――」


「大丈夫ですわアシュレイ様! お気持ちだけで十分ですから!」


 やられたわ……!


 令嬢然としたお姿を皆さんにお見せしたかったのに……!


 いつものやり取りになってしまった!


「さ、早く行こう! 皆シェリルが来るのを楽しみにしてたんだ」


 アシュレイ様に連れられて私はお屋敷の中に入る。


 さっきの庭も、お屋敷の中も、本当に広くて……豪華だわ。


 我が家とは比べ物にならない。


 今更だけどアシュレイ様の婚約者、私なんかで大丈夫なのかしら……。


 住む世界が違う現実を目の当たりにして、私は少し不安になった。


 お屋敷の使用人達からは、今のところ悪意は感じないけれど。


「ついたよ。中で私の両親が待ってる」


 ……リアム様とそのお母様はご一緒じゃないのね。


 深くは詮索しないでおこう。きっと、色々あるのだろうし。


 私はゆっくり深呼吸し、顔を上げた。


「……失礼いたします」


 ……あら?


「やぁ。良く来たねシェリル嬢。アシュレイから聞いているよ……私はルシアン・ロゼット前公爵だ、よろしく頼む」


「アシュレイの母のイザベルですわ」


「お、恐れ入ります! リープル家が息女、シェリル・リープルと申します。両閣下にお会いできて大変光栄ですわ」 


「ほぉ……!」


「とても美しい所作ね。アシュレイが惚れ込むだけあるわ」


「恐れ多いお言葉、ありがたく頂戴致します」


 今日までに必死に練習したカテーシーを見て、前公爵夫妻が感嘆の声をもらした。


 今の所……お二人に嫌われてはいないみたい。


 むしろお父様は『好意的』なハート、お母様も『普通』のハートを向けてくれてるわ。


「シェリル嬢は本当に愛らしくて、優しくて……完璧なんです! この間も――」


「ア、アシュレイ……取り敢えず座ろうか。お前はシェリル嬢を立たせたままにするつもりか?」


「全くこの子は……普段はしっかりしているのに、シェリルさんの事になったらこれなんですから」


「申し訳ありません、シェリル嬢。貴女の魅力を早く知って欲しくてつい……さぁ、こちらへどうぞ」


「ふふっ……ありがとうございます」


 それからは、アシュレイ様の“私語り”を前公爵夫妻が和やかに聞く時間になりました。


 途中でお茶を運んで来た使用人も、皆暖かいハートを向けていて……とても幸せな空間になっていました。


「……こんな愚息だが、よろしく頼むよ」


「愚息だなんて! アシュレイ様は素晴らしい方ですわ。誰もが憧れておりますわ!」


「シェリー! 嬉しいよ!」


「あらあら。シェリルさん……私もルーシーも可愛い娘が欲しかったの。アシュレイの事、よろしくね」


「はい。ありがとうございます公爵夫人」


「お義母様って呼んで頂戴?」


「では私はお義父様、と」


「では私はアッシュと」


「アシュレイ様!」


 楽しげな笑い声が響く。


 お義母様の方は……まだ、どう転ぶか分からないけれど。でも少なからず今は良いみたい。


 ……アシュレイ様とご両親の確執も、少しずつ改善されると良いな。






◇◇◇◇




 ご両親とのお話はその後も続き、私達は四人で昼食を共にした。


 その場にもやはり、リアム様達の姿は無かった。


 昼食が終わってご両親が出掛けるのを見送った後、アシュレイ様は切り出した。


「シェリル嬢。リアムの事……気になってるでしょう?」


「えっ!? 私……顔に出てましたか?」  


「いえ。そう思っただけです」


「そうですか。実を言うと……少しだけ」


「やはり。父はともかく……母はリアムの事となると、少し感情的になってしまうので。リアムには今から挨拶をしに行くつもりだったんです」


「そうだったんですね……あの、リアム様のお母様は?」


「カトレア様は……今は身体を崩していて離宮で療養しています。いずれは会いに行きましょう」


「……わかりました」


 リアム様のお部屋まで向かう道中、アシュレイ様は様々な事を教えてくれた。


 昔はリアム様を冷遇する使用人ばかりだったけれど、今はアシュレイ様が入れ替えて、リアム様に対して友好的な方ばかりにした事。


 昔はリアム様とギスギスしていたけれど、今は兄弟仲が良好になっている事。


 リアム様はとても優しく、思いやりのある心美しい子らしい。


 私の事が切っ掛けで、公爵家の全てが良くなって行ったことも初めて知った。


 アシュレイ様の事だから……きっと大袈裟なのだろうけど。 


 話が終わる頃には、私達はリアム様のお部屋にたどり着いていた。


 アシュレイ様がノックをする。


「リアム、兄様だ。居るかい?」


 少し間を空けて、返事が聞こえた。


 メイドの一人が扉を開けてくれる。


「どうしたんですか兄様……そちらの方は?」


 私を見たリアム様の目が見開かれる。


「私の婚約者の、シェリル・リープル嬢だ」


「リープル家のシェリルです……その、お久しぶりでございます。リアム様は……覚えておられますか?」


「……もちろん。忘れるわけがありません。あの時はありがとうございました」


「失礼します。リアム様、お茶をお持ちしますね」


 一人のメイドが、リアム様に優しげな目を向ける


 ……あれ?


「あぁ、よろしくね」


「リアム様、では私達は控えておりますので何かあれば何なりとお申し付けください」


「わかった。ありがとう」


 部屋にいた他のメイド達も……皆リアム様に穏やかに微笑んでいる。でも。


 ……そんな。


「兄様、シェリル嬢……こちらにどうぞ。今お茶をご用意します」


 促されるまま、ソファーに腰かける私だったけれど……頭の中は違う事でいっぱいだった。


 だって……アシュレイ様は……リアム様の周りには、彼に『好意的』な者を配置したって言ってたのに。


 それなのに。


 リアム様の周囲の人間は――皆リアム様に『敵意や嫌悪』を向けているじゃない!


 まるで、私の屋敷の使用人達……ミーシャ達と同じだわ!


 ……アシュレイ様はこの事に気が付いていないのね。


 伝えるべきなのかしら。


 でも、もし伝えるなら……一体どうやって?


 私は酷く戸惑ってしまった。


 そしてもう一つ……ずっと気になっている事。


 “偶然”かと思ったけれど――リアム様には何故かハートが見えない!


 ……どうして?


「シェリル嬢? 聞いていますか?」


「……どうかされました?」


「いや……あの、えっと」


 ――エルテナ様、一体何がどうなっているんですか!

ついにリアム様登場!

アシュレイ様のご両親も出てきて、物語が動き始めました……!

次回更新は日曜日~月曜日を予定しております(^^)

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