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第二話 「旦那様のハートが眩しすぎて視界崩壊!?」



「お嬢様、お加減はいかがですか?」


 とても心配そうな顔で私を覗き込むミーシャ。


 少し前の私なら彼女は本当に優しい人だと感動していた事でしょう――その頭上の、ドス黒い棘だらけのハートがなければ。


 あの後私は倒れてしまい2日程寝込む羽目になりました。それが原因で公爵家からの縁談は一旦保留と言う形になったのです。


「あ、ありがとうミーシャ。もう大丈夫よ……少し一人になりたいの」


「かしこまりました。お嬢様、ミーシャはとても心配です。何かあればすぐに知らせてくださいね?」


「え、えぇ。そうするわ」


 怖い怖い怖い。怖すぎる!


 あんな優しそうな顔をしてるのに、本心は真逆じゃない!


「本当に……どうなってるの」


 私は一人、自室のベットで頭を抱えました。


 エルテナ様……私は、何か悪いことをしてしまいましたか?


 どうしてこの様な罰を受けているのでしょうか……




◇◇◇◇




 恐ろしい事に、人間とはすぐに環境に適応するようで。


 あれから1週間程たった頃には、私はその力を完全に受け入れていました。


 どうやら文献を漁ってみると、エルテナ様から愛し子へ稀に与えられる『加護』なる物があるようで。


 私のこれもその類いなのでしょう。


 加護と呼べるかは、些か怪しいものだけど。


「あの人はトゲトゲだから、嫌いや嫉妬。あの人は……薄っぺらな愛なのね……」


 しばらく周囲を観察して分かったことだけれど、ハートには種類があるみたい。


 ふつうのハートマーク、私はこれを『一般的な愛』と呼ぶことにしました。


 トゲトゲなのは『負の感情からくる愛』主に嫌悪・嫉妬・憎しみ。まぁ、好きの反対は無関心なんて言葉があるように『嫌悪・嫉妬・憎しみ』なんてのも、少なからず相手を意識しているからこそくる感情なのでしょう。


 ペラペラなのは『軽薄な愛』吹けば飛びそうな程、とても薄い粗末な愛で、遊び人に多いみたいでした。


 ボロボロの愛は『崩壊した愛』かつては愛があったのに、今はもう壊れてしまっている。お父様とお母様のように……


 私の周りの人達の愛は、大体その4種類で出来ていました。


 次に『色』


 これは簡単で『負』になればなる程黒くなるよう。反対に、淡い恋心を抱いている料理人の青年なんかは、キラキラと赤い色でした。まぁ、その恋のお相手は……ミーシャだったけれど。


 最後は『大きさ・重さ』


 気持ちの大きさで、ハートも物理的にサイズが変わるようです。基本は手のひら程の物ばかりだけれど、小さいものもあるようでした。


 それに気持ちが重ければ重いほど、ハートも重くなるみたい。


 お父様達のように、小さなハートが沢山出たりもするから『数』やまだ知らない秘密もありそう……これが私が調べた不思議な能力の秘密。


「優しそうなあの人も、真っ黒トゲトゲ……それにあの人も……」


 見たくもない、みんなの“本当の姿”達。知りたくなんて無かった。


 少し前の、何も知らずに幸せに過ごしていたあの頃に戻りたい。


 ねぇ、エルテナ様。本当に我が儘でごめんなさい。


 でも私、こんなのが『愛の女神の加護』なのだとしたら、ちっとも欲しくなんて無かったです。


 あの日から私はずっと――誰の事も信じられなくなってしまいました。






◇◇◇◇



 

 段々と引きこもるようになり、昔のように明るく皆と話せなくなってしまった私に、周囲の人々は戸惑っているようで。


 だって社交界なんて……この屋敷なんかよりも、もっと酷い有り様だったんだから。


 今日もいつものように、憂鬱な1日が始まると思っていた……そんなある日の朝。突然『それ』はやって来ました。


「おはようございますお嬢様。今日は忙しい日ですので、早く起きてくださいね?」


「沢山“おめかし”しなくちゃ!」


 いつものように私を起こしに来た上っ面メイド達が、慌ただしく動いている。


「えっと……今日って何か予定があったかしら?」


 無理矢理起こされた私が尋ねると、メイドの口から聞きたくなかった衝撃の事実が告げられた。


「なに寝ぼけてるんですか! お嬢様の『ご婚約者様』になられるかもしれない、ロゼット家のアシュレイ様がお越しになられる日ですよ!」


「早く準備をしないと! ドレスはこっちに運んでー」


「今日は忙しい日ですので、頑張って下さいね!」


「待って。私、そんなの聞いてない! それに婚約なんてしたくないわ!」


「我が儘ばかり言わないで下さい。お相手は公爵様なんですから! ほら、早く行きますよ!」


「嫌よー!」


 ズルズルと引きずられた私は、鬼気迫るメイド達によって完璧に磨かれるのでした。




◇◇◇◇





「さあお嬢様、あちらの応接室にて旦那様とアシュレイ様がお待ちです」


「……行きたくないのだけど」


「子どもみたいな事をおっしゃってないで、早く行ってください。大体、この国の女性なら“誰もが憧れる”であろうアシュレイ様の、何がそんなに気に食わないのですか?」


「……どうせ皆、同じじゃない」


 私とアシュレイ様の婚約話が出てから、屋敷のメイド達はみんな私にトゲトゲのハートを向けてくる……ミーシャや、お母様でさえ。


 今だって、私の事を連れて行くメイドからどす黒い棘のハートが見えてしまってる。


 そんな人と婚約なんてしたら……どうなるかなんて目に見えてるわ。それに、どうせアシュレイ様だって皆と同じで――本当に私が好きでこの縁談を持ちかけたんじゃ無い。絶対に、何か裏があるはずですから!


「失礼します、お待たせいたしました。お父様、アシュレイ様――」


 重い足取りで、開かれた応接室の中に足を踏み入れた時。


 部屋中から溢れ出る、眩い閃光に私の目が焼かれる。

 

「ま、眩しっ、何ですかこれ!? 目がぁあぁ!」


 もろに発光源を直視してしまった私の眼球。激痛が走った目を押さえて、私はその場にしゃがみこんだ。


 めちゃくちゃ痛い! 新手の刺客か何かなの!?


「シェリル嬢!? どうされたんですか!」


「シェリル!? 大丈夫か!」


「お嬢様!?」


 心配する声は聞こえるんです、でも、眩しすぎて……何も見えません!


 父の手に引かれて、何とか椅子に腰掛けることが出来た私ですが……一向に発光はおさまらず、現在――ずっと目を閉じています。助けてください。


「あ、あの……シェリル嬢。何故、目を瞑られてるんでしょうか? 私が、何かしてしまいましたか?」


「いえ、お構いなく。私の事は置物か何かだと思ってください」


「え、えっと……」


「おいシェリル、公爵様に失礼だろう。ふざけてないで目を開けなさい!」


 そんなに怒られても……お父様だってこの光が見えたら同じことをするに決まってる!


 でも、確かに失礼かしら。


 とりあえず、目を慣らす為にもお父様の方を向いてから……公爵様の方を見れば何とかなる?


 恐る恐る私はお父様の声のする方に顔を向け、そっと目を開いた。


 あれ……眩しくない!


 うわ。お父様のハートが初めて見る『ギラギラ』と嫌な光沢をしてる。これって『野心・企み』とかなのかしら?


「あぁ、良かったシェリル嬢。もう目は大丈夫ですか……?」


 光に気を取られて気が付いてなかったけれど……アシュレイ様って、凄い美声の持ち主のようです。


 素敵な声に加え、世の女性達が憧れるそのお姿って一体どれ程の美貌なの?


 婚約は嫌、でも見るだけなら――


「……え?」


「シェリル嬢、どうかされましたか?」


「お」


「お?」


「お、おぉお……大きすぎませんかっ!?」


「へっ!? あ、身長でしょうか? 確かに、191はあります」


 そう言うと、アシュレイ様のハートは少しピンク色にポッと光りました。


 いや違う、違うんですアシュレイ様! 貴方のその『ハート』の事なんです!


 なんですかそれ!?


 あまりにも巨大過ぎて、首からハートがはえてるじゃない!


 まるで……まるで大きいハートに人間の体がついてるって感じじゃないですか!


 ど、どうなってるの、そのハート!


 しかも、見たこと無い程のキラキラと輝く鮮やかな赤色! 宝石かって感じに光ってて、先程までの発光は無くなったとは言え、十分に騒がしいですそれ!


 もしこの方と結婚してしまったら、私は毎日このハートを見る事になるの?


 この簡易版太陽みたいな発光物を!?


 そんなの、そんなの絶対に嫌です! 


 助けてください、エルテナ様ー!

運命の出会いがバルスになりました。何故でしょうか。わかりませんが、大好きなシェリルにようやく会えてしまったら……そりゃあアシュレイも嬉しさのあまり発光しちゃいますよね!

シェリルが食らったのは、閃光弾くらいの眩しさです。

第三話も面白くなっているはずなので、是非お付き合いください!

少しでもクスッと笑えて、この二人の恋を応援してあげたくなりましたらブクマをしていただけると、私とアシュレイは嬉しいです(^^) シェリルは……多分嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
愛の可視化、実際にそんなことが出来るようになったら、私も病んじゃうかもな。それにしてもでっかいハートと出会えたのは奇跡&気になって気になって気づいたら虜になっちゃいそう。2人の恋応援します。
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