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第十話「巨大ハートVSゼロハート!? 嫉妬で婚約者が大暴走の予感!」


「兄様ようやくシェリル嬢と話せたんですね! 本当に良かった、ご婚約おめでとうございます」


 少し気まずい空気を破るように、リアム様が切り出した。


「ありがとうリアム!」


 アシュレイ様、とても嬉しそうね。


 でも私の頭の中は違う事でいっぱいだった。


 どうして……リアム様にはハートが見えないのかしら?


「シェリル、リアムの事をじっと見つめて……どうされましたか?」


「あの、僕の頭に何か……?」


 凝視しすぎたかしら。


 とても怪しまれているわ!


「あ! いえ、違います。すみません」


「?」


 リアム様の考えている事が、何も分かりません!


 リアム様は不思議そうな顔をするだけで、特に気にした様子は無かった。


 そんな時、カラカラと音を立てながら運ばれてきたのは香りのよい紅茶と苺のタルトだった。


 一人のメイドがケーキスタンドから苺のタルトを皿に移し、私達の前に置いていく。


 ……あれ?

 

 今リアム様……苺のタルトを見て、一瞬動きが止まった?


「リアム様、こちらどうぞ」


 そのままメイドは流れるように紅茶を淹れると、リアム様のカップに角砂糖を2つ入れた。


「……ありがとう」


 それを見ていたリアム様は微笑んでそれを飲む。


「いえ。リアム様の好みは把握しておりますので」


 ……あのメイド、先程からずっとリアム様に対して明確な『悪意のハート』を向けてるわ!

 

「流石はマリーだね。これからも私の弟を頼むよ」


「もちろんです、アシュレイ様」


 どうやら、アシュレイ様の事は……お好きなのね?


 先程のメイドとリアム様のやり取り……それにメイドの“本音”が引っ掛かる。


 もしかして……?


 気になった私はリアム様に問いかけた。


「あの、突然ですが。リアム様はもしかして、甘い物があまり得意ではありませんか……?」


「えっ」


 私の言葉にリアム様の目が見開かれた。


「えっ? そうなのリアム?」


 隣にいたアシュレイ様が驚いた声を上げる。


 ……リアム様がゼロハートだから何を考えているのか分からないわ。


「……まさか。好きですよ」


 微笑んでいるけれど……それって、本心なんですか?


「ねぇシェリル、どうしたの?」


 隣のアシュレイ様のハートが、不安げなブルーに変わり揺れる。


「すみません。気のせいでした」


 リアム様の赤い瞳が私を見つめる。


「……そうですか。ところでシェリル嬢……いえ義姉様。僕はこんな身の上なので友人と呼べる人が一人もいないのです。もし兄上さえ許可していただけるなら……僕と文通仲間になっていただけないでしょうか?」


 突然の提案に、私は一瞬戸惑う。


「えっと、私は構いませんが……アシュレイ様は?」


「……」


 私がアシュレイ様の様子を伺うと――アシュレイ様のハートが紫色になっていた。


 こ、これはどっちだと判断したら良いのかしら!?


 見たことの無い色だわ!


「兄様がお嫌でしたら、無理にとは言いません! 僕はただ……誰かと文通をしてみたくて……」


 黙り込むアシュレイ様を見て、リアム様の瞳がうるうると揺れた。


「いや、良いんだ。すまないリアム。一瞬お前を疑ってしまった兄様を許してくれ……シェリル嬢さえ良ければ、是非お願いしても……?」


「え、えぇ」


 もしかして『疑惑の紫』なのかしら……?


 まだ分からないけれど。


「そんなまさか! 僕は兄様がシェリル嬢の事をどれ程大切にしているのか一番よく知ってます。我が儘を言ってしまいました……すみません」

 

 リアム様が立ち上がりそう言うと、アシュレイ様のハートが少し元の赤色に戻りはじめる。


「私の事は気にしないで。すまないリアム。いつも応援してくれていたのに、私は……シェリルの事になるとすぐに心配になるんだ。あまりにも可愛すぎて、この世の男が皆狙うんじゃないかって――」


「もう、アシュレイ様ったら!」


 アシュレイ様の惚気話が始まる前に止めなくちゃ!


「本当にお二人は仲睦まじいですね。とても羨ましいです」


 私達を見てクスクスと笑うリアム様は、天使のように愛らしかった。


 ……私の勘違いなら良いけど、もしあのメイド達から嫌がらせを受けていたら……見過ごせないわ。


 人の本心が分かる私じゃなければきっと誰も気が付かないままだったはず。


 この文通を切っ掛けに、リアム様の現状やお気持ちを探ってみましょう。


 アシュレイ様には……まだ真実が明らかになっていないし、不確定な情報で傷付けるわけにもいかない。もう少しだけ黙っていましょう。


 あのメイド達だって、リアム様のために自ら選ばれたって嬉しそうに言っていたし……それに私の力についても、まだ言えそうにない。


 もしアシュレイ様が私の力を知ってしまった時――きっと変わらないと分かっていても。


 気味悪がられたら……?


 この大きな愛が失われたら……?


 私はそれが怖かった。




◇◇◇◇




「これは……」


 公爵家訪問の日から、私の文通相手が一人増えた。


 リアム様だ。


 どんな本が好きだとか、趣味は何だとか、最近の兄様は私に会えなくてとても寂しそうだ、とか……私達はアシュレイ様が心配していたような内容ではなく、本当にただの友人としてやり取りを重ねていた。


 意外と趣味や思考が合った私達は、最初こそ少しぎこちなかったものの段々と打ち解けて行った。


 でもリアム様の送ってくる手紙には、時々気になる言葉が書かれている時がある。


 それは……何度も文通を重ねて知り得た、リアム様からの静かなSOSだと思ってしまう。


『僕が一番好きな時間は、“誰にも邪魔されずに”一人で静かに本を読んでいる時』


『今までで一番嬉しかった事は、虐められていた僕を義姉様が助けてくれた時。“後にも先にもその時”だけ』


『今日食べた“甘くない”チョコレートがとても美味しかった』


『よく“飲んでいる飲み物”はマリーが入れる砂糖が2つ入った紅茶』


『僕の好きな飲み物は、“何も入っていない”ただの水』


 そして今日、私の元に届いた一番新しい手紙。


 アシュレイ様のどこが好きなのかを尋ねられ、優しい所だと返した私への返信。


 そこには震えた文字で


『どうか兄様にはお気を付けてください。貴女はまだ、兄様の本当の顔を知らない』


 と書かれていた。


 恐らくリアム様は……アシュレイ様が嫌がらせのために、自分に今のメイド達を付けていると考えているのかしら?


 それとも……ずっと嫌がらせされている自分を、アシュレイ様がわざと、また放置していると思っている?


 全然違うのに。


 アシュレイ様は本当にリアム様の為を思って、あの人達を選んでいる……裏の顔が見抜けなかっただけだわ。


 そしてリアム様も、アシュレイ様の本心に気が付いていない。


 どうにかして誤解を解かなきゃ。


 このままでは、兄弟がすれ違ってしまう。


 私の力が初めて“誰か”の役に立つかもしれない。


 私はもう一通、届いていた手紙を見る。


 アシュレイ様からだった。


『最愛のシェリルへ。


 最近シェリルに会えていないので、とても寂しいです。


 今すぐにでも貴女の元に向かいたいけれど、まだ執務室から出られそうにありません。


 もし、シェリルさえ良ければ明日我が家に来てくれませんか?


 一刻も早く、愛らしい貴女の顔が見たい』


 アシュレイ様、相当お疲れなのかしら。


 ずっとお仕事が忙しいって言っていたものね。


 リアム様の事もあるし、明日お伺いしてみましょう。


 私はすぐに返事を書いた。


 



◇◇◇◇






 翌日・公爵家――応接室




 一番にアシュレイ様にお会いしたかったけれど、まだ重要な議会が長引いているらしく、私は応接室に案内された。


 暫く待っていると、そこに響くノックの音。


 ……アシュレイ様かしら?


 返事と共に開かれた扉の前に立っていたのは――リアム様だった。


「ご機嫌よう。リアム様……どうかされましたか?」


 どこか思い詰めた表情をしているリアム様に、私は戸惑ってしまう。


「……義姉様。すみません。でも、僕……どうしても伝えたい事があって」 


 今にも泣き出しそうな顔と震える声でそう言うと、彼は後ろ手に扉を閉めて部屋に入ってきた。


「伝えたい事ですか?」


「はい。この家の人間は……皆悪魔のような人達ばかりなんです。善人の振りをして、平気で人を踏みつける」

 

 リアム様が、家のこと、自分の過去、孤独と恐怖を語る。


「私生児として生まれた僕が……全ては悪いんです。でも僕だって、望んで生まれてきた訳ではない! それなのに……どうしてこのような扱いを受けなければいけないのでしょうか」


 ポロポロとルビーのような瞳から大粒の涙が溢れ落ちる。


「リアム様……」


 私がハンカチを取り出そうとしていると、顔を両手で覆ったリアム様が吐き出すように叫んだ。


「義姉様、いやシェリル嬢! 兄様が貴女に求婚しているのも、貴女の事が本当に好きだからでは無いんです!」


「え?」


 その衝撃的な言葉に、一瞬思考が停止してしまう。


 そんな筈は無いわ……だって私にはその人の心が見えるんだから。


 リアム様は……今まで冷遇され過ぎて誤解してしまっている。


 私が慌てて弁解しようとした時だった――


「リアム様、全て誤解なんです! アシュレイ様は――」


「いえ、兄様は! 僕が……僕が貴女の事が好きだと知って……だから貴女に求婚を!」


 はい!?


「えっと、ちょっとお待ち下さい。色々と――」


「嫌です! 今までずっと、自分の出自が後ろめたくて伝える事が出来ませんでした。でも、貴女が不幸になる所を見たくない。僕は貴女が好きですシェリル嬢!」 


 突然の告白に私は頭が真っ白になってしまう。


 そして私を強く抱き締めると、リアム様は続けた。


「僕はこの家から出たい、できればこの国からも。だから僕と一緒に隣国に逃げて下さい! 共に生きましょうシェリル!」


 えぇっ!?


 あまりにも急展開じゃないですか!?


「リアム様、私は――」


 慌てて私が事情を説明しようとした時でした。


 バンッと勢いよく扉が開かれると、『とんでもない見た目』になっているアシュレイ様が入ってきました。


「ア、アシュレイ様……あの、これは、いや……その」


「貴女のお話は後で“ゆっくり”お聞きしましょう。それよりも、今すぐ離れていただけませんか? 非常に……不愉快だ」


 お、怒ってらっしゃるわ!


 ごめんなさいアシュレイ様。


 お怒りもごもっともなのですが、でも――そのハート、どうなっているんですか!?


 アシュレイ様のハートは、大きな鎖が巻き付けられており、赤と黒と青のマーブル模様、さらに鋭い棘がはえながらも……グツグツと沸き立っているのでした。


「おいリアム、お前には後で話がある。大人しく部屋で待っていろ」


 そう言うとアシュレイ様は、ガバッと私を引き剥がし、そのまま私を肩に抱き上げると部屋から出ていく。


 アシュレイ様は扉の外にいた侍従に「アイツを見張ってろ。部屋から出すな」と冷たい声で告げた。


「ア、アシュレイ様……すみませ――」


「黙って。舌を噛みますよ? 言い訳ならこの後聞きます」


「……はい」


 私がリアム様を見ると、彼は舌打ちした後「後少しだったのになー」と不敵に笑っていた。


 先程までの天使のようなリアム様はどこに行ったのですか!?


 な、何がどうなっているんですか!?


 私は訳が分からないまま、アシュレイ様に連行されるのでした。

リアムーー! 彼も癖がありそうですね……。

旦那様!のキャラで私は彼が一番お気に入りです(^^)

そして、皆様のブクマが何より励みになってます!

本当に本当にありがとうございます!

次回、嫉妬大爆発なアシュレイ様がどうなるのか……ぜひお楽しみ下さい!

次回更新は5/19~5/21頃を予定しています。

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