第一話 「愛の女神のイタズラ」
私シェリル・リープル18歳は、今日結婚します。
お顔が分からない、一つ年上の旦那様と。
◇◇◇◇
すべての始まりは私が16歳の時、敬愛の儀を受けた時の事です。
我が国『聖エルテナ国』は16歳になった国民が、国の創造神である愛の女神、エルテナ様に教会で感謝の祈りを捧げると言う決まりがありました。
私も、エルテナ様に無事16歳を迎えたこと、そして感謝を込めた祈りを捧げた時でした。
『シェリル・リープル、あなたに女神の加護を――真実の愛を見つけられるように』
暖かな光と共に、そんな声が聞こえたのです。
後から知ったのですが、それはエルテナ様の愛し子に稀に授けられる『加護』と呼ばれるもののようでした。
それからと言うもの、私の人生は一変するのです。
それはそれは――とても悪い方に。
◇◇◇◇
「お帰りなさいませ。シェリルお嬢様」
私がその異変に気が付いたのは、儀式の後我が家に帰った時でした。
「なにかしら……これは?」
私の視界には、使用人達の頭上に浮かぶ謎のハートマークが見えました。
キラキラと輝く赤い色、ドス黒くてトゲトゲとした物、とてもぼろぼろの物や、少し小さい物――そして、薄っぺらな物。
これがエルテナ様から贈られた『愛の可視化』と言うスキルのせいだと知ったのは、もう少し後の事でした。
教会に向かうまでは見えなかった『それ』に、とても戸惑った私は、慌ててお父様達に助けを求めます。
「お、お父様、お母様! 大変なんです、私変な物が見えます」
「おぉ、シェリル。そんなに慌ててどうしたんだい?」
「あらあら、はしたないわよシェリル」
私を迎えた両親の頭上には、ヒビが入って粉々になったハートが見えました。
「お父様達の頭にも……あるの?」
「本当にどうしたんだ、シェリル?」
「変な子ね」
怪訝な目を向ける二人に、突然皆の頭の上に変なマークが見えるんです! なんて言ったら絶対に気が触れたと思われるはず。
私が何て伝えようかと頭を悩ませている時でした。
「そんな事よりもレジー。君は今日も美しいね」
「あら、貴方ったら! とても嬉しいわ。私は今日も素敵な旦那様に愛されて本当に幸せ者ね」
お母様の髪の毛にキスをするお父様、それに頬を染めて照れているお母様。
いつもなら良くある、リープル家の『おしどり夫婦』のワンシーンなのに……二人の頭上のハートは黒くなり、更にぼろぼろと崩れていったのです。
「え……?」
目の前の不思議な、けれど間違いなく嫌な気持ちになる光景。それに気を取られていると、コンコンコンとノックの音が響きました。
「失礼いたします」
入ってきたのはメイドのミーシャでした。
「旦那様。お嬢様への婚約のお申し込みが届きました」
「何!? ワシの愛しい愛娘を奪おうとする不届き者はどこのどいつだ!」
「ロゼット公爵家の、アシュレイ様のようです」
「な! 公爵家だと!?」
普通なら、その会話に驚く事でしょう。
でも私はお父様とミーシャが互いに飛ばし合っている、いくつもの小さなハートの方が気になっていました。
ポコポコと飛び出る沢山のハート達。
「もう。貴方ったら、まさか子爵家の我が家が公爵様のお話を断ったりはしませんわよね?」
「し、しかしレジー……シェリルは私達の宝物なのだぞ。たとえ公爵家と言えど……」
お母様の方を見た瞬間、お父様からさっきまで出ていた小さなハートは、ボロボロのハートに変わってしまったのです。
「もしかして……」
私の中で最悪な一つの推論が生まれました。
このハートは、人の愛情が見えるのでは無いでしょうか?
もし、そうだとしたら……お母様とお父様の愛は――壊れてしまっている?
そしてお父様とミーシャは……
「お嬢様、大丈夫ですか!?」
「どうしたんだシェリル!」
「まぁ、大変! 誰か、医者を呼んで頂戴!」
足元から崩れ落ち、その場にへたりこんだ私を覗き込む三人の頭からは黒いトゲトゲとしたハートと、ボロボロのハートが見えたのでした。
完全に箸休めと言うか、もう一つの作品があまりにもダークなので、こう言う恋愛一色なのを書きたくてついやってしまいました……。
始まりは不穏かもしれませんが、ちゃんとハッピーになるのでご安心を!
更新は、メインの隙間にやるので少しマイペースかもしれませんが、ちゃんとこちらも完結させます!
少しでも面白そうだと思ったら、是非ブクマをして戴けると嬉しいです!とても励みになります(^^)